書評「発達障害と間違われる子供たち」-睡眠という生存の欲求を十分満たせば子供の脳は成長し行動が安定する‼【選択理論を何でもありで学ぶメルマガ(6号)】
本書の概要、「発達障害もどき」について
この本の著者(成田奈緒子氏)は子どもの脳の発達による問題に向き合ってきた臨床経験35年以上の小児科医であり、脳の発達の研究者でもある。
近年、発達障害と呼ばれる子どもが劇的に増えている。幼稚園や学校で、「あの子も、この子も発達障害?」という風潮がある。
発達障害が疑われる子供の行動として、落ち着きがない、先生の話を無視して歩き回る、みんなと同じ行動ができない、気が散りやすい、順番をがまんできない、集団行動ができない、ミスや忘れ物が多い、友達を叩いたり暴言を吐く、衝動性が高い、かんしゃく、パニック、偏食、朝起きられない、姿勢がダラッとしている、すごく不器用、などがあるが、著者は、ご自身の臨床経験から、発達障害と判断されたり、疑いがある子供の中には、発達障害ではない「発達障害もどき」が相当数含まれているのではないか、そして、そのような「発達障害もどき」の子の問題行動の背後には、主な原因として睡眠不足があり、睡眠不足のために「脳の成長のバランス」が崩れ、「発達障害もどき」の行動をとる子が増えている、としている。
著者による「発達障害もどき」のおおまかな定義は「発達障害の診断がつかないのに、発達障害と見分けのつかない症候を示している状態」というものである。そして、本書で著者は、そのような「発達障害もどき」の子が示す上記のような「発達障害に特徴的な行動」は、子供たちの生活習慣を変えるだけ(特に早起きをすること)で、改善する(早い場合は1週間で)という例を多く取り上げて説明している。
選択理論の観点からの本書の意義
一方、選択理論を学ぶ筆者としての本書に対する関心は、子供も大人も、睡眠を中心とした「生存の欲求」が十分に満たせていないために生じる、様々な問題のある全行動(問題行動、マイナスの思考、マイナス感情、生理反応)が具体的に取り上げられていることにある。
本書は、睡眠をはじめとする「生存の欲求」が満たせないことが人の頭、心、体に、具体的にどのような影響をなぜ与えるのかについて「脳科学から見た脳のしくみ」という観点からわかりやすく体系的に整理した本であるといえよう。
本書のような「生存の欲求」と脳の話を組み合わせて具体的に説明してくれる本は、これまで筆者はほとんど目にしたことがなく、新鮮で、目を見開かされる箇所が多かった。
著者の主な主張は、「睡眠不足がもたらす脳の成長への悪影響」と対策としての早起き
子供が、忙しい親の夜型のライフスタイルに合わせているために生活リズムが乱れたり、小さなころからけいこごとをすることで睡眠時間が減っているということが増えている。このような子供たちが「発達障害の症候」を見せることが多い。コミュニケーションがうまくいかないストレスから、周囲に暴言を吐いたり、暴力をふるったりする。
対策は「子供の脳育てをしなおすこと」である。親が自分の生き方、子供への接し方を変えると、子供(の脳)はみるみる変わるし、子育てがうまくいくようになることが多い。
特に睡眠を十分にとることにより、生存の欲求を十分に満たせると、それが脳の健全な成長を促し、セロトニン(幸せのホルモン)などの分泌を促し、心や体の機能が安定して、日常的な様々な欲求充足が可能になる。
本人(大人も子供も)がよくなると、家族の欲求充足にも影響し、周りの人の不幸感が減り、幸せ感が増すという具体的な事実が鮮やかに描かれている。「発達障害もどき」の子供の問題行動も、生活習慣の改善、もっといえば、「とにかくまず早起きという習慣をつくればよいのだ」という希望をもたせてくれる。
「脳のしくみの入門書」「睡眠についての入門書」としても最適
ところで、筆者(私)はこれまで何度か「脳の本」に挑戦して、「ややこしくて、細かくて、ようわからん」と挫折を繰り返してきた。しかしながら、本書は、脳の基本的な知識について、脳の機能、脳の育ち方などが分かりやすく簡潔に説明されており、「子供でも、このような説明ならよくわかる」という脳の入門書でもある。
また、睡眠についても、レム睡眠とノンレム睡眠の違いやそれぞれが「頭のリセット」と「体のリセット」の機能などを果たしていることなど、基本として重要なことが簡潔に整理されていてわかりやすい。
そして、本書で説かれていることは、私たちの誰にも当てはまる「脳育ての基本」であり、私たちが現代社会を身近な人々とともに健康に生き抜いていくための基本的な方策でもある。新書版の薄い本であるが、中身がよくまとまって充実しており、短時間で何度も読み返せる、実用的な良書である。
「脳のしくみ」と「脳の成長(発達)」について
ところで、人の脳は生まれて約18年かけて発達するが、最初に発達するのが「からだの脳(脳幹、偏桃体など)」で、その次が「おりこうさん脳(大脳新皮質)」、最後に育つのが「こころの脳(前頭葉)」である。これらの脳の部位の発達の順番は決まっている。
「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」は0歳~5歳の間に盛んに育つ。そして、この脳が育っていないと下記の「おりこうさん脳(大脳新皮質)」も「こころの脳(前頭葉)」も育たない。
「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」は昼行性動物である人が自然界で生きるのに欠かせない機能を担う。体を動かすこと、姿勢を保つこと、呼吸、体温調整、食べること、今起こっている出来事について快か不快かを感じ取り、危険を察知すること、などである。このような「からだの脳」の働きにより、人は自分の身を守り、生きていける。
次の「おりこうさん脳(大脳新皮質)」は、1歳から18歳くらいまでの間に時間をかけて発達するが、6歳以降、小中学生の間に大きく伸びる。言葉を使う力、計算と記憶、知識を蓄えて考える力、手指を細かく動かす力などをつかさどる。
3つ目の「こころの脳(前頭葉)」は、10歳~15歳にかけてつくられ、18歳前後まで発達し続ける。この脳は、想像力を働かせる、判断する、感情をコントロールする、人を思いやって行動するなどの「人らしい能力」をつかさどっている。感情や衝動を抑える力、じっくり考える力、論理的思考力、コミュニケーションをスムーズに取る力などもこの脳の働きである。
そして、「こころの脳(前頭葉)」は「おりこうさん脳(大脳新皮質)」に知識や情報などの記憶が十分蓄積されてから発達するので、「おりこうさん脳」の発達が前提となる。また、「おりこうさん脳」も、最初に「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」が育たないとうまく育たない。
つまり、「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)→おりこうさん脳(大脳新皮質)→こころの脳(前頭葉)」の順番に脳の部位を育てていくことが、脳の健全な発達に欠かせない。
そして、このような脳の育つ順番やバランスが崩れて「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」が育っていない子は、「発達障害」として勘違いされてしまうことが往々にしてある。
「早起きの習慣づけ」によって「からだの脳」が育てられる
一方で、脳は何歳からでも作り直すことができる。いくつになっても、よい刺激をもとに「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」を立て直すことは可能である。特に子供ならすぐに変われるので、「からだの脳」を育て直して脳のバランスを整え直すことが第一に重要である。
「からだの脳」を育てるためには、人は昼行性の動物であり、人の本来の生活リズムの中で得られる五感(味覚、嗅覚、視覚、触覚、聴覚)からの刺激を効率よく、たくさん取り入れることが重要である。それが「生活の改善」「規則正しい生活の繰り返し」により可能になる。
睡眠は命を守るのに必要不可欠な生理現象である。睡眠不足が「発達障害もどき」を引き起こしている可能性がある。睡眠を変えることで体も心も健康になり、発達障害もどきから抜け出した子は多く、「睡眠不足が子供の気になる言動を引き起こしている」といっても過言ではない。
「睡眠を変える」だけで「発達障害もどき」の行動は改善する
睡眠を変えるだけで、偏食がなくなった、かんしゃく・パニックが消えた、夜寝るようになった、朝スムーズに起きれるようになったなど、子供の様子はガラリと変わり、「気になる行動が消えた子」がたくさんいる。
脳の中で一番最初に育てるべきは「寝る・食べる・動く」をつかさどり、生きるために欠かせない働きをする「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」である。そして、この脳を育てるためには、早起きし、しっかり食べ、よく寝ることを繰り返すことが大事である。立派な「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」が育っていれば、あと二つの脳もしっかりと育ち、人間として社会の中で生き延びることができる。
心を落ち着かせ、意欲のもととなる「セロトニン」分泌のピークは朝の5時から7時といわれている。この時間に起きて朝日を浴び、活動できれば、イライラが減り、幸せな気持ちで1日を過ごせる。
十分に睡眠が取れている子は、セロトニンの働きで不安やイライラがない。落ち着いて穏やかな心を保てるので、朝起きて、ご飯をしっかり食べて元気に学校へ行き、友達と楽しく遊べる。授業もしっかりと聞けて、成績も安定していることが多い。
逆に「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」を育てるべき大切な時期に夜を徹して勉強させたり、習い事をいくつもやらせたりして十分な睡眠時間をとらせないと、いずれ社会生活ができなくなることが多い。
早起きをたった1週間続けて、生活リズムを立て直すだけで、問題となる言動が改善される子供が数多くいる。「朝の早起き」の習慣をつけ、「朝型生活」に変えることが最重要である。
「早く寝かせる」より「早く起きる」が大事である。まず1週間、毎朝7時より前に起こすことから始めよう。早起きから始めると、前の日に寝る時刻は自然と早くなる。
親が早起きの習慣をつけて朝型生活を始めるのが改善の近道
また、親も十分な睡眠がとれている必要がある。そうでないと親も「からだの脳(脳幹、間脳、偏桃体など)」がうまく働かない。ホルモンや自律神経の機能が低下し、頭痛や腹痛、腰痛、倦怠感など体のあちこちに不調が起こる。仕事や家事の効率が落ちて、生活がうまく回らなくなり、自分も家族もイライラすることが多くなる。家族間で言い争いなどが起きやすくなる。
「子供が寝付かないと親はイライラして怒りの気持ちが湧く。そうすると親の体が緊張する、そんな緊張した親のそばにいる子供は危険だから寝てはいけないと緊張し、かえって目がさえて、寝付けなくなる」という悪循環になる。
そしてこれらが、子供の問題行動を引き起こす可能性がある。子供は叱られると不安と攻撃性が増す。不安と攻撃性から出た行動(落ち着かない、すぐキレる、友達とうまくコミュニケーションがとれないなど)から、発達障害と間違われることがある。なので、「人を傷つける、ものを盗む、命の危険を冒す、社会のルールに反するなど」以外では、子供をなるべく叱らないようにする。
まず親がきちんと睡眠をとる必要がある。親が朝型生活に変えてしまうのがベストである。まず、親が率先し、一家そろって朝は早く起きて朝日を浴び、家族で食卓を囲むような生活リズムに整えることから始めよう。親も子供と一緒に寝てしまい、朝早く起きて家事や仕事を片付けるのがよい。その方が効率がよくパフォーマンスも上がる。
以上、本書の内容のうち、筆者が学ぶ選択理論の観点から、基本的欲求としての「生存の欲求」を十分に満たすための「睡眠の改善(早起きの習慣づけ)」とそれがもたらす「発達障害もどき」の子の問題行動の改善に主に焦点を当てて、内容を編集し、紹介しました。
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