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【『逃げ上手の若君』全力応援!】(166)北畠顕家が放つ大音響の「鏑矢」に対して奥州武士たちのとった態度とは一体……そして、古典『太平記』が「強運」と語る背後に秘された足利尊氏の都合の悪い真実が暴かれようとしている!?

 南北朝時代を楽しむ会の会員の間でも話題騒然の週刊少年ジャンプ新連載『逃げ上手の若君』ーー主人公が北条時行、メインキャラクターに諏訪頼重! 私は松井優征先生の慧眼(けいがん=物事をよく見抜くすぐれた眼力。鋭い洞察力。)に初回から度肝を抜かれました。
 鎌倉時代末期から南北朝時代というのは、これまでの支配体制や価値観が崩壊し、旧時代と新時代のせめぎあいの中で、人々がそれぞれに生き方の模索を生きながらにしていた時代だと思います。死をも恐れぬ潔さをよしとした武士が〝逃げる〟という選択をすることの意義とは……?
〔以下の本文は、2024年8月3日に某小説投稿サイトに投稿した作品です。〕


 「ギュウウウウウン

 弓を構えた北畠顕家を一瞥した尊氏でしたが、すでに彼には顕家が手にした矢が見えていたのかもしれません。飛翔する矢が放つ大音響に対して、顕家軍の武将と奥州武士たちの動きが止まり、その表情に緊張が走ります。
 編集部が親切に「放たれた退却の鏑矢……!!」と説明を入れてますが、第165話で顕家は、「とうとう世の分の矢も尽きたか」「残るは退却の合図の鏑矢のみ」であることを確認していました。
 軍を率いた尊氏の参戦が意味するところは、顕家軍の敗北であり、第166話は始まりからすでに重苦しいはずなのですが……どこまでも美しく誇り高い顕家と、何を考えているかまるでわからない尊氏の微笑で、まだ何が起こるのかわからないままに読み進めていきました。

 ちなみに、「鏑矢」の構造や音が気になったので、少し調べてみました。

鏑矢(かぶらや)
 矢の一種、篦 (の) (矢幹)の先に球形状の木または鹿 (しか) の角を中空とし、前方に数個の孔 (あな) をうがった鏑というものをつけた矢。これが飛翔 (ひしょう) すると孔に風を受け鋭い音響を発する。その形が蕪 (かぶら) に似ていることから蕪矢とも、また音を発することから鳴鏑 (なりかぶら) 、鳴矢 (なりや) 、鳴鏑矢 (なりかぶらや) 、響矢 (なりや) 、嚆矢 (こうし) とも書くことがある。その作り方は矢束を通常よりやや長めとし、筈 (はず) は觘 (ぬた) 筈、矢羽は四立(四枚羽)、鏑の先に走り羽と直角になるように雁股 (かりまた) を割根 (わりね) にすげる。笠懸 (かさがけ) や犬追物 (いぬおうもの) には、鏃 (やじり) をつけない鏑の一種である蟇目 (ひきめ) (引目)を用いた。嚆矢が開戦の合図を意味したように鏑矢は古く北方アジア騎馬民族が信号用として使用していたらしい。日本でも古墳からの発掘品や正倉院宝物にこれが残されており、源平の合戦描写にもしばしば使用する場面が描かれている。
〔日本大百科全書(ニッポニカ)〕

 音については、YouTubeで「鏑矢」と検索欄に入れただけで、すかさず「鏑矢 音」という二語で検索するように誘導されました。音だけならばいくつか動画がありましたが、ひとつだけ動画のリンクを示しておきます。この動画のチャンネルを運営されている方は、中世の馬術や弓に興味がおありのようで、ご自身でいろいろと試されている動画がたくさんあったので、応援したいと思いました(ぜひ、他の動画もご覧になってみてください)。

【 江戸時代の弓で奏でる中世の音・蟇目鏑(ひきめかぶら)  】

〔YouTubeチャンネル「市村弘」(https://www.youtube.com/@user-kr4gg7ic3p)より〕

 弓の引き方でも音が違うことを実験した動画もあり、弓の名手とされた北畠顕家の全力であれば、ものすごい音がしたのではないかと思いました。

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 第168話が、重苦しいだけでなく展開するのは、顕家と奥州武士たちとのやり取りが、最期の時であっても変わることがないからということもあります。美しい顕家よりも、白目を剥いている顕家の方が、私はやっぱり好きです(笑)。

 「ボリボリボリ」「ペッ」「ほじほじ ピッ」「ブッ」「ブビュ

 奥州武士たちが「思い思いに」その身体から発する「老廃物をまき散らし」(左から順に、頭垢(ふけ)、唾、鼻糞(はなくそ)、屁、鼻血ですね……)て、感動の場面を「不浄」空間することが、どれだけのブーイング行為であるかは、私のこのシリーズを連続して読んでいらっしゃる方は、しつこいほど目にしていらっしゃると思いますので割愛したいと思います。とはいえ、初めての方や、まだ見ていないという方のために、リンクだけ以下に掲載しておきます(どんだけ好きなんだとか、どうか突っ込まないでください(汗))。

 「老廃物をまき散ら」すこと自体がある意味〝攻撃〟ともなりかねません。しかし、顕家は奥州武士たちに対する絶対的な「敬意」があるので動じることなどないのですが、尊氏もまるで意に介していませんね。

 気になったのは、今回は雫が「黒曜石」を口の中から吐き出しています。〝え、雫も尊氏みたいに「ダラアアアア」なんですか!?〟というのは野暮すぎで、かわいい女の子や美しい女性の唾液というのは、お酒を作るためにも必要でした。

 諏訪の黒曜石は、つい先日アニメでも登場しましたし(原作は第6話「郎党1333」)、黒曜石の破魔矢の威力は清原信濃守(国司)で立証済み(第69話「破魔1335」)ですが、確かに「今の尊氏にどこまで効くか」は、私も気になるところです(身体割れて目玉ごろごろ流れ出しちゃうくらいにはなるかな、って……う~ん、ホラーで不浄すぎる展開だ)。
 
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 「尊氏の強運は筋金入りで 『太平記』の作者も半ば呆れつつ何度も何度も書き重ねている

 尊氏の「強運」については、私のこのシリーズではそれこそ、「涎」とか「血」とか「老廃物」以上に、しつこく何度も何度も書いています(一番強烈な「多々良浜の戦い」について説明した回のものだけ取り上げておきます)。

 それにしても、尊氏の「強運」の正体についてここまで突き詰めているのは、私の知る限り、松井先生の『逃げ上手の若君』が初めてかもしれません。そして、だんだんと私は、〝『太平記』は後世に足利サイドで手が入れられてずいぶん内容が変えられてしまっているというし、「強運」として書いている出来事の背後には、書き残してはいけない都合の悪い真実があったってことなのだろうか〟と想像するようになっています(……それってやっぱり〝宇宙人〟!?)。

ヤバ顔の出るこうした瞬間に尊氏に潜む〝魔〟が発動する?
(諏訪頼重が指摘した「人間の動揺」〔第109話「引き継ぐ1335」〕を
どうやって引き出せばいいのか?)


 顕家がその命を人として燃やし尽くそうとして輝くのに対して、尊氏の禍々しく光る瞳は一体何を見ているのでしょうか。そして、前回からずっと高師直はひざまずいて尊氏に対して手を合わせていたんかい!というのに、がっかりが極まったところで、第167話を待ちたいと思います。

〔参考とした辞書・事典類は記事の中で示しています。〕



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