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行為の7段階理論 -ユーザの行為とUI/UX-
行為の7段階理論(行為の7段階モデル)とは
行為の7段階理論とは、ユーザの行為は7段階に分類することができるとD.A.ノーマンが提唱した理論です。この理論はUI/UXの分野で注目されています。ユーザにとって使いやすいモノを実現させるためには、そのモノに対する行為の構造を検討する必要です。そのために、ユーザの行為を以下の7段階に分類しています。
1. ゴールの形成
2. 意図の形成
3. 行為の詳細化
4. 行為の実行
5. 外界の状況の知覚
6. 外界の状況の解釈
7. 結果の評価
この7段階は大きく3つに分類されます。1がゴール。2、3、4が実行過程。5、6、7が評価過程です。
次に、この7段階をひとつずつ説明していきます。
1. ゴールの形成
ゴールとは、達成されるべき状態のことです。行為の7段階理論において、ゴールのある状態が出発点となります。「何かをするためには、何をしたいか?」、それがゴールという単純な考えです。
2. 意図の形成
意図とは、ゴールを達成するための特定の行為のことです。初めのゴールは明確ではなく、曖昧な場合が多いです。例えば、「何かを食べよう」「遊びに行こう」「YouTubeを見よう」のように明確に特定されていないこともあります。「何をするか」ということ、つまり、「何を手に取るか」「どこにどのように行くか」「何を見るか」などについての具体的な内容はゴールには明確に含まれていません。行為に繋げるためには、ゴールは「するべきこと」に関する特定の表現に変換されなくてはいけません。この特定の表現が意図です。
3. 行為の詳細化
行為の詳細化とは、意図を実現するための詳細な行為の流れことです。具体例を挙げると以下のようになります。
あなたは部屋で椅子に腰かけて本を読んでいます。もう夕暮れになり、徐々に薄暗くなってきました。あなたは部屋をもっと明るくする必要があると考えました。これがゴールです(ゴール:部屋をもっと明るくする)。
そして、部屋を明るくするために、あなたは蛍光灯スタンドのスイッチボタンを押そうと考えます。これが意図です(意図:蛍光灯スタンドのスイッチボタンを押す)。このように、ゴールは意図に変換されます。
しかし、これだけではありません。あなたは「自分の体をどう動かすか」「どのように手を伸ばしてスイッチに手を届かせるか」「スタンドを倒さないように、指をどう伸ばしてボタンを押すか」などのように詳細に判断しなくてはいけません。これが行動の詳細化です(行動の詳細化:蛍光灯スタンドのスイッチを押すための詳細な流れを組み立てる)。
以上の例のように、ゴールは意図に変換され、意図が筋肉をコントロールできるような詳細な行為の流れに変換されます。注意として、ひとつのゴールでも意図や行為の流れは複数あります。例えば、自分で蛍光灯スタンドのスイッチボタンを押すだけでなく、近くを通った誰かに代わりに押してもらうなどです。
4. 行為の実行
行為の詳細化はまだ頭の中だけで生じています。行為の実行とは、その行為の詳細化を基に実際に行動することです。頭の中から外界に向けて行為が実行されます。
5. 外界の状況の知覚
外界の状況の知覚とは、行為の実行によって外界に何が起こったのかを感じ取ることです。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚器官を通して外界の情報を受け取ります。
6. 外界の状況の解釈
外界の状況の解釈とは、知覚した外界の状況の意味を理解しようとすることです。
7. 結果の評価
結果の評価は、ゴールと実際に起こったことを比較することです。実行によるフィードバックを基に求めていたゴールを得られたかを評価します。
例①(蛍光灯スタンド)
行為の詳細化で説明した蛍光灯スタンドの例の続きをします。あなたは部屋で椅子に腰かけて本を読んでいます。もう夕暮れになり、徐々に薄暗くなってきました。
1. ゴールの形成:部屋をもっと明るくしたい
2. 意図の形成:蛍光灯スタンドのスイッチを押そう
3. 行為の詳細化:蛍光灯スタンドのスイッチを押すための詳細な流れを組み立てる
4. 行為の実行:蛍光灯スタンドのスイッチを押す
5. 外界の状況の知覚:部屋が明るくなった
6. 外界の状況の解釈:蛍光灯が正常に点いた
7. 結果の評価:部屋が明るくなったからゴールは達成された
例②(エレベーター)
あなたは、会社のエレベーターに乗っています。ドアが閉まる瞬間、ドアの向こうから「エレベーターに乗せてくれ」と言わんばかりに上司が全速力で走ってきました。
1. ゴールの形成:閉まるエレベーターのドアを開けたい
2. 意図の形成:開けるボタンを押そう
3. 行為の詳細化:開けるボタンを押すための詳細な流れを組み立てる(人差し指で押す?それとも親指?)
4. 行為の実行:間違って閉まるボタンを押す
5. 外界の状況の知覚:ドアが閉まる
6. 外界の状況の解釈:ボタン間違えた?
7. 結果の評価:ゴールが達成されなかったため、恥ずかしい
エレベーターのボタンによる間違えはUI分野では有名な問題です。とっさに判断するのは難しいと思います。このように開けるボタンではなく、間違って閉まるボタンを押してしまう人為的ミスのことをヒューマンエラーと言います。このヒューマンエラーはユーザに原因があると思われがちですが、そうではありません。大抵はデザインによるものです。そして、このヒューマンエラーの構造は行為の7段階理論によって明らかにすることができます。
「へだたり」という課題
ユーザの行為を困難にしている原因は何か?それは「へだたり」です。「へだたり」とは、ユーザの心理状態(意図や期待)と外界の物理的状態(許される操作行為、状態からの知覚や解釈のしやすさ)との距離のことです。この「へだたり」は、「実行のへだたり」と「評価のへだたり」の2つがあります。
実行のへだたり
あるシステムがある時、そのシステムはユーザが意図する通りの行為を可能にしているでしょうか?「実行のへだたり」とは、ユーザの意図とシステムで許される行為の間の差異のことです。この「実行のへだたり」が小さいほど、ユーザが意図した通りにシステムが使用できています。つまり、上記で説明したエレベーターの例のようなヒューマンエラーの発生を防ぐことができ、より良いUIを可能とします。
評価のへだたり
あるシステムがある時、ユーザはそのシステムの状態を知覚・解釈可能であり、その結果がユーザの期待(予測)に応えられているでしょうか?「評価のへだたり」とは、ユーザがシステムの状態を解釈することで得られるユーザの期待(予測)に対する満足度の距離のことです。この「評価のへだたり」が小さいほど、システムの状態がわかりやすく、ユーザの期待(予測)に対応できています。つまり、満足度の高いユーザ体験を実現し、UXを高めることができます。
注意:行為の7段階理論は完璧なものではない
行為の7段階理論は近似的モデルであり、完璧な理論ではありません。それには以下のような理由があります。
・それぞれの段階は明確に分離されるものではない。
・7段階すべてを経由する必要はない行為もある。
・ひとつの行為で完成するわけではない。
・行為の詳細化は数え切れないほどある。
・ゴール(または意図)は新たなゴール(または意図)を生み出す。
・活動しているうちにゴールが忘れられたり、捨てられたり、組み立てられたりする。
また、この行為の7段階理論はどの段階からでも始めることができます。それは、自分でゴールを持つのでなく、外界の出来事に反応することです。例えば、夏休みの宿題を最後にまとめてする場合などです。提出日まで残りわずかになった時に、宿題に取り組み始めます。
まとめ
行為の7段階理論とは、ユーザの行為を以下の7段階に分類したものです。
ゴール
1. ゴールの形成
実行過程
2. 意図の形成
3. 行為の詳細化
4. 行為の実行
評価過程
5. 外界の状況の知覚
6. 外界の状況の解釈
7. 結果の評価
その7段階の中で、ユーザの行為を困難にしている原因は2つあります。
・実行のへだたり
・評価のへだたり
より良いUI/UXを実現させるためには、行為の7段階理論によって構造化し、実行と評価におけるへだたりを小さくする必要があります。これから、UI/UXをデザインする方は、D.A.ノーマンによる行為の7段階理論をぜひ活用してみてください。