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全国自然博物館の旅【8】埼玉県立自然の博物館

「化石が天然記念物になる」というのは意外に聞こえるかもしれません。天然記念物として指定されるのは貴重な動植物だけでなく、地質や鉱物も含まれます。大地の成り立ちと生命進化の軌跡を秘めた化石は、まさに地球が後世に託した遺産なのです。
埼玉県の秩父地域には、哺乳類化石として初めて天然記念物となった標本があります。太古の埼玉の様相を想像しながら、秩父の地を練り歩いてみましょう。


観光地・秩父は日本地質学の聖地だった!

秩父市は埼玉県の中で最も広い市町村であり、明媚な自然が広がる観光地として有名です。四季を通じて多様な動植物を観察できるだけでなく、太古の地質現象によって築かれた壮麗な岩の大地を見ることができます。地層からは多くの古生物の化石が産出していて、秩父の長瀞地域は「日本地質学発祥の地」と呼ばれています。
現在では、秩父市内の広大なエリアが「ジオパーク秩父」に制定されていて、国内15番目の日本ジオパークとなりました。ジオパークの詳細につきましては、下記リンクをご覧ください。

この地質学・古生物学の聖地とも言うべき秩父市の長瀞に、埼玉県立自然の博物館が立っています。加えて、天然記念物の哺乳類化石まであるのですから、古生物マニアとしては行くしかありません。

池袋スタートでしたので、西武鉄道→秩父鉄道と乗り継いで長瀞駅まで来ました。博物館の最寄り駅は上長瀞駅ですが、筆者は他にも観光があったので長瀞駅で下車しました(笑)。
秩父地域は観光名所が多く、見どころがたくさんあります。関東圏内の方は自家用車で遊びに来るのもありですね。
長瀞は日本地質学発祥の地。地質学的に尊い価値のある大地は、教育や研究の場となっています。

秩父鉄道で長瀞駅に着いた後、線路沿いをゆったり歩きながら博物館へと向かいます。20分もしないうちに、看板と共にかっこいいメガロドンが現れました。

太古の巨大ザメ・メガロドンをあしらった看板が目印です。もちろん、この最強のサメの化石は、埼玉県の地層からも発見されています。
古代の海洋哺乳類パレオパラドキシアの模型も見どころ。奥に見えるのが博物館です。

太古から現代へ、秩父の記憶を綴る自然博物館

ジオパーク秩父の誇り! 天然記念物の化石との出会い

入館直後、来館者は巨大なメガロドンの復元模型に度肝を抜かれることになります。太古の秩父地域は海であり、そこには最強の巨大ザメことメガロドンが生息していました。
これほど大きなサメが世界中で泳ぎ回っていたとは、改めてスケールの大きさに驚かされます。メガロドンは古代の海における強大な捕食者であり、クジラなどの海洋生物を食べていました。

エントランスホールの天井から吊り下げられた、メガロドンの実物大復元模型。これほどの大きさなら、確かにクジラを倒せます!
極めつけはメガロドンの大顎の復元模型。すごく大きいです! 噛みつく力は10 t~20 tあったと考えられており、骨ごと獲物を砕いたようです。

順路に従って展示を巡っていくと、長大な首と尾を備えるダチョウ型恐竜ガリミムスの全身骨格が現れます。躍動感のあふれるポーズはかっこいいです!

ダチョウ型恐竜ガリミムス。成体では全長6 mに達しました。ダチョウと同じく、走るのが速かったと考えられています。

恐竜だけでなく、埼玉県で発見された数々の古生物も注目ポイントです。日本列島で広く繁栄したアケボノゾウ、秩父盆地の地層から見つかった古代魚チチブサワラなど、実に多様な種族の古生物が目白押しです。

アケボノゾウの全身骨格。埼玉県狭山市にて発見された標本です。ゾウとしてはやや小型の部類に入ります。
チチブサワラの復元模型。秩父で発見されたサバ科の古代魚です。

そして、何と言っても最大の目玉は、国の天然記念物に指定されている海洋哺乳類化石群です。約1700万年〜約1500万年前の秩父地域には「古秩父湾」という太古の海が存在し、その地層からは当時の様々な海洋生物の化石が産出しています。
その中でも、本館のトップスターとなっているのが古代の水棲哺乳類パレオパラドキシアです。束柱類という絶滅した哺乳類の一群であり、ジュゴンのごとく浅い海域を泳ぎ回り、貝や海草を食べていたと考えられています。その奇獣の実物化石を本館で拝むことができるのです。

国の天然記念物・1972年に発見されたパレオパラドキシアの骨格化石。頭から腰までの骨が残されています。
国の天然記念物・1981年に発見されたパレオパラドキシアの骨格化石。フジツボの化石が付着していた他、脊椎にはサメの歯の化石が刺さっていました。
3体のパレオパラドキシアの全身骨格模型。哺乳類としては珍しく直立歩行をしておらず、カエルのように四肢が横に突き出ていました。

パレオパラドキシアと並ぶ古秩父湾の天然記念物化石は、古代のヒゲクジラ類チチブクジラです。約1500万年前の海に生息していて、恐ろしいメガロドンに警戒しながら暮らしていたと考えられます。

国の天然記念物・チチブクジラの断片的な化石。ケトテリウム類という小型のヒゲクジラの一種で、全長は5 mほどだと考えられています。
哺乳類化石としては初めて天然記念物に指定されたため、かなり特別感が出ています。この称号は本館の大きな強みでしょう。

鮮やかに輝く秩父の自然環境

秩父にはジオパークならではの景観美を感じさせてくれる素晴らしい地形があり、その一つが長瀞渓谷の岩畳いわだたみです(下記リンク参照)。変成岩帯が地表に露出している場所のことで、起伏に富んだ地形が多くの生物の棲家となっています。

独特な岩畳の地形。静謐な河川と響き合う情景が素敵です。

岩畳には水辺が多く、河畔林もあることから、昆虫には棲みやすい環境です。トンボの仲間だけでも30種類以上が確認されています。
岩畳に生息する地衣類ちいるい。地衣類は菌類の仲間で、藻類と共生しているので光合成が可能です。

埼玉県には1万5000種以上の生き物が確認されており、生物相の豊かな地域なのです。奥秩父のような深い山林もあれば、低地のヨシ原や石灰岩地もあるので、様々な環境の中で実に多くの生物が生きています。
多種多様な埼玉の生き物たちについて、本館ではじっくりと学べます。

見事な昆虫標本。地方ごとに見て比較するのが筆者の楽しみです。
ファイティングポーズで展示されているカマキリたち、かっこよすぎる!
秩父地域の固有亜種である陸棲貝類チチブギセル。自然林の林床に生息しています。

現生動物の展示となれば、もちろん剥製にも注目です。埼玉の山林に生きる野生の命を、味わい深いジオラマと共に見せてくれます。

剥製によるジオラマ展示。埼玉の山林にはツキノワグマも棲んでいます。彼らとの共存は我々にとって重要な課題です。
ニホンカモシカの幼獣の剥製。いろいろなポージングができるのも剥製の強みですね。
木の模型にてヤマネの剥製発見。小さすぎて最初はどこにいるのかわかりませんでした(笑)。

本館の展示から、古代現代問わず、秩父には大自然の楽園が広がっていることがわかります。それを示唆するように、動植物の標本がとても豊富です。
埼玉のフィールドで昆虫や動物を探す楽しみが倍増しました。ぜひ本館で秩父の素晴らしい自然を学んで、アウトドアレジャーに繰り出しましょう。

最後に階段の上からメガロドンとアイコンタクト(笑)。大きくて強くて最高!

埼玉県立自然の博物館 総合レビュー

所在地:埼玉県秩父郡長瀞町長瀞1417−1

強み:日本地質学の聖地にて積み重ねられてきた古秩父湾研究の知見、国の天然記念物に制定された哺乳類化石の展示、自然豊かな秩父地方で採集された膨大な生物・鉱物標本

アクセス面:博物館は秩父鉄道の上長瀞駅・長瀞駅から近く、アクセス環境はとても良好です。東京方面からお越しの場合は、西武鉄道池袋駅→西武秩父駅→徒歩移動で秩父鉄道の御花畑駅→上長瀞駅または長瀞駅→徒歩で博物館へ、となります。西武秩父駅から秩父の御花畑駅までは若干の徒歩移動がありますが、逆手に取って秩父の街歩きを楽しみましょう(笑)。

天然記念物の哺乳類化石があるという事実は、古生物マニアを惹きつける魅力となります。貴重な標本と間近で対面すれば、化石好きの人は震えが止まらないでしょう。
古秩父湾に関する展示の学術性の高さに加え、迫力満点の「魅せる展示」も素晴らしく、メガロドンの大顎と全身復元模型には圧倒されました。3体並んだパレオパラドキシアもとっても壮観です。
豊かな秩父の自然環境も見どころです。岩畳などの特殊な環境下で暮らす生物について学ぶことができ、独特の生態系の秘密への関心が高まります。地衣類や陸棲貝類といったマニア心をくすぐる生物たちの展示も嬉しいところ。

東京方面からの行き帰りには、西武鉄道の特急ラビューを使いましょう。大きな窓がとても開放的です。

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