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全国自然博物館の旅【13】ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」

今年2023年は、偉大なる昆虫研究家ジャン・アンリ・ファーブル先生の生誕200周年にあたります。子供時代に『昆虫記』を愛読していた筆者にとって、ファーブル先生はまさにヒーローであり、永遠の憧れです。
もちろん、先生のファンは世界中にたくさんいます。ファーブル先生を敬い、『昆虫記』を愛する人々によって築かれた昆虫博物館が、文京区千駄木の住宅街に立っています。それが「虫の詩人の館」なのです。


ファーブル生誕200周年! 今こそ『昆虫記』を読もう!!

ファーブル先生は偉大なる博物学者であり、不朽の名著『昆虫記』の作者でもあります。昆虫好き・生物好きの方の中には、きっと『昆虫記』の読者も大勢いらっしゃると思います。筆者もその一人であり、小学校の図書館で何十回も借りて読みまくりました。

生命の実像に迫ろうというファーブル先生の強い探究心に自分もワクワクし、そして幾多の試行錯誤によって解明されていく虫たちの驚くべき生態に大興奮しました。次はどんな虫たちが登場するのだろう、どんな秘密がわかっていくんだろうと、昆虫記を読みながら知的好奇心を高めていきました。

世界中の人々に愛されている昆虫記。ファーブル先生の言葉と研究成果は、21世紀になっても全昆虫ファンに感動を与え続けています。
ですので、ファーブル先生の意思を理想として運営されている昆虫館には、ぜひ行ってみたいとかねがね考えておりました。

昆虫館は東京の文京区にありますので、(若干の徒歩移動はあるものの)アクセス面ではかなり恵まれています。
開館時間は土日の午後のみです。日時的にラッシュに巻き込まれる心配はないので、公共交通機関を使って来館しましょう。

西日暮里駅。JR線や東京メトロ千代田線が通るので、首都圏にお住まいの方なら比較的容易に来られるでしょう。
地上に出て、道灌山通りを西方向に進みます。そのまま直進すれば、千駄木の街が見えてきます。

437号線の千駄木メインストリートを過ぎて、住宅街の坂を上がっていけば、昆虫館に到着。ここまでの徒歩移動は、およそ15分程度です。

千駄木の住宅街の中に立つ昆虫館。入館料は無料です。

本施設は、NPO「日本アンリ・ファーブル会」によって運営されています。たくさんのスタッフさんと支援者の方々によって、我々は昆虫との出会いの場を楽しむことができるのです。

本当にファーブル先生が現れそうな雰囲気ですね。どんな展示があるのか楽しみです。

人々と昆虫をつなぐ貴重な学びの場

昆虫好きの人々の想いが込められた多様な展示

本館の雰囲気は、とても暖かいです。スタッフさんと来館者の距離が近く、展示について詳しく解説されているスタッフさんの姿が目に入ります。内装を見ているだけでも、昆虫好きの人たちが作った施設だとよくわかります。

ハンドメイド感あふれる施設内の装飾。昆虫標本との組み合わせで、楽しい空間を演出してくれています。

観覧エリアは1階と地下1階。展示の種類は多様で、標本点数も多いです。じっくり見ながら学び、疑問に感じたことはスタッフさんに訊くなどして、昆虫に対する理解を深めましょう。

豊富な数の標本と、工夫満載の展示スタイル。施設内を余すことなく眺めて、昆虫館を楽しみましょう。
天井からは、スズメバチやアシナガバチの造形物が吊り下げられています。どの方向を見ても楽しめる施設です。
1階では生体も展示されています。珍しい種類もいますので、ぜひじっくり観察してみてください。

全体を通して、本館には人々の目を引く興味深い展示がたくさんあります。一風変わったスタイルの標本、独自の研究資料のキャプション、体験型の学習展示など実に様々です。五感をフルに使って、虫たちとの時間を楽しめます。

クシヒゲカミキリ類の飛翔を再現した標本。ドイツ箱ではなくクリアケースに入れることで、迫力と躍動感を高めています。
中学生の方が作成したトンボ類の飼育資料。たくさんの種類を採卵し、孵化させたのは本当にすごいと思います。
昆虫の素晴らしさを知るには、細部をじっくり観察するのも有効な手段です。この体験型展示では、昆虫の各部位を拡大して、細かな特徴を見ることができます。虫たちの体に直接触れるのもメリットです。

そして、子供をはじめ多くの人々が期待するのは生体展示でしょう。本館では、虫好きのスタッフさんたちが各地で採集してきた様々な昆虫に出会えます。

小さなカップの中で飼育されているヒナカマキリ。全長2 cm前後ですが、これでも立派な成虫です。
ゲンゴロウやタガメなどの水生昆虫も展示されています。遊泳型と水中待ち伏せ型、それぞれの虫たちの動き方を見比べてみましょう。
山梨県で採集されたコクワガタ。一般への販売もされていました。

昆虫の飼育から施設の営業までこなすスタッフさんたちの努力と知識はすごいと思います。そして、昆虫学に触れられる場所をたくさんの人々に提供しているのですから、同じ生き物好きとして心から尊敬します。

カビに感染して死亡したナミハンミョウの展示。標本を用いて、カビと害虫駆除の関係についても説明してくれています。

受け継がれる「虫の詩人」の魂

多くの人に知っていただきたいのは、本館の名に冠されているファーブル先生がめちゃくちゃすごい人だということです。

  • 驚異的な洞察力で昆虫の行動研究のパイオニアとなった

  • 超人的な頭の良さと努力量(師範学校に主席で入学。独学で数学・物理・化学をマスターした)

  • 文才も超優れている(ノーベル文学賞の候補にノミネートされた)

  • 進化論で有名なダーウィンにも影響を与えた

ファーブル先生は昆虫記を著し、昆虫の実像と魅力を多くの人に伝えようとしました。本館を運営されているNPO「日本アンリ・ファーブルの会」においても、昆虫と人々をつなぐ大きな役割を果たしているので、まさにファーブル先生の意思を継いでおられると思います。

ファーブル先生の偉大さを踏まえたうえで、後半の展示へと移りましょう。
昆虫の針刺し標本は、多くの博物館で目にすると思います。しかし、本館ではただ固定するだけでなく、虫たち1体1体の見せ方に独特の工夫がなされています。見ていて楽しめるだけでなく、躍動感あふれる姿から、昆虫たちがどのような生き方をしていたのか知ることができるのです。

ゴライアスオオツノハナムグリの標本。展翅の仕方を工夫することで、昆虫が飛び立つ過程を視覚的に説明してくれています。
標本を使って、ハンミョウの狩りのシーンを再現。各個体ごとにポージングを変えているのがわかります。ハンミョウがどのような昆虫なのか、この展示を見ればスムーズに理解できますね。
こちらも標本を使って、樹幹に集まるカブトムシやクワガタムシの姿を再現。世界中の人気のカブト・クワガタが集結していますね。

もちろん、純粋な昆虫標本も数多く見ることができます。力強く、美しく、不思議な虫たちの共演にうっとりしましょう。

カラフルで多様なチョウ目とコウチュウ目。優れた昆虫標本には芸術的な価値があると筆者は思います。
スタッフさんが作られた標本。来館者に販売されているものもあります。
筆者が好きなカミキリムシの1つ、オバケオオウスバカミキリ。日本のカミキリムシよりずっと大きいです。このグループは、とても大型になることが知られています。

本館の展示には工夫やギミックが多いです。標本を使った種同定クイズなどのユニークな展示もあり、大人も子供も楽しんで学べると思います。科学は楽しく学ぼうという気持ちが伝わってきます。

クイズ形式で昆虫の同定に挑戦。手元の資料を使って、答えを探していきます。
立派なスズメバチの巣。傍らのパネルのキャプションでは、巣を見つけたときの対処法についても書かれています。
地下1階の通路には、昆虫たちの写真が並んでいます。自然界の中での生活を切り取ったワンショット、とても美麗です。

本館でたくさんの昆虫を見て、虫好きなスタッフさんとたくさんのお話ができたのなら、きっと昆虫への関心がMAXレベルに高まっていると思います。
今年はファーブル先生の生誕200周年という節目の年ですので、未読の人も既読の人も、ぜひ昆虫記を読んでみましょう。筆者も、昆虫館への来訪に際して再読してみました。子供の頃に読んだ本を大人になってから読み直してみると、新しい発見にたくさん出会えます
生物学史の偉人が何を疑問に感じ、どのように試行錯誤しながら昆虫たちと向き合ったのかを知れば、きっと人生に役立つものが得られると思います。

ファーブル昆虫館「虫の詩人の館」 総合レビュー

所在地:東京都文京区千駄木5-46-6

強み:博物館スタッフによる口頭での丁寧な展示解説、展翅やポージングに工夫を凝らした昆虫標本、来館者が自らクイズなどに挑戦することで学ぶ能動的な学習展示

アクセス面:文京区の千駄木に位置しているため、アクセスはかなり良好です。西日暮里駅(JR線・東京メトロ千代田線)、千駄木駅(東京メトロ千代田線)から徒歩10~15分ほどで到着します。近くの地域にお住まいの方は、文京コミュニティバスの活用も視野に入ると思います。千駄木小学校の前で下車すれば、バス停から歩いて3分弱で辿り着けます。

昆虫を愛する人々が創った博物館なので、昆虫マニアの人なら本館の雰囲気から並々ならぬ愛情を感じ取れると思います。コンパクトながら、楽しみがいっぱいの施設です。なおかつ、昆虫に詳しいスタッフの方々とお話ができるため、昆虫採集や飼育に関する情報をたくさんゲットすることもできます。
各展示エリアの昆虫標本には、かなりの工夫が見られます。展翅の仕方やポージングに芸を凝らすことで、飛翔の過程を段階的に見せたり、生前の姿を再現したりと、展示から昆虫たちの生態を仔細に学べます。
前述の通り、生体展示ではマニアックな虫たちと会える可能性があります。採集場所や飼育方法について、ぜひスタッフさんからお話を聞いてみてください。

なお、本館はボランティアスタッフの方々の努力によって運営されています。入館料は無料ですが、この素晴らしい施設を伝えゆくために、来館者の方には無理のない範囲で募金箱にお気持ちを入れていただければと思います。

地下1階の1区画では、ファーブル先生の生家(19世紀のフランス南部サンレオンの民家)を再現。貧しい家庭で生まれたファーブル先生の家にはこれほどたくさんの物はなかったと思われますので、一種の民俗学展示として楽しみましょう。

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