全国自然博物館の旅【22】山形県立博物館
山形県への旅となったら、大半の人は蔵王を目的地に選ぶと思います。きれいな雪景色とスキーと温泉、まさに山形旅行の鉄板です。
ただ、個人的には、旅行のタイムスケジュールの中で2時間ほど空けて行っていただきたい場所があります。そこを訪れれば、山形県に秘められた大自然の真実と出会うことができます。
蔵王に行く前に山形県の自然を学ぼう
山形新幹線でJR山形駅に着いたら、大半の人はそのままレンタカーやバスに乗って、蔵王や天童温泉に直行すると思います。ただ、山形県の大自然の魅力を感じてみたい方は、蔵王などの観光地へ行く前の時間で山形県立博物館を訪れてみてはいかがでしょうか。
山形駅の西口から北へ10分ほど歩くと、山形城の跡がある霞城公園に着きます。もちろん公園内には駐車場があるので、蔵王に行く前に車で立ち寄ることもできます。
山形城跡だけでなく、スポーツ施設や美術館もあるので、山形市民にとって重要なスポットとなっています。山形藩の初代当主・最上義光像のすぐ近くにて、県立博物館が立っています。
博物館の目印は、山形県産の古代哺乳類ヤマガタダイカイギュウの金属アート。ジュゴンやマナティーと同じカイギュウ類であり、日本固有の古生物です。ジュゴンの仲間が大昔の山形の海を泳ぐ姿、想像するだけでワクワクしますね。
太古も今もロマンあふれる山形の自然
現代に甦れ、ヤマガタダイカイギュウ!
山形県が誇る新生代の古生物・ヤマガタダイカイギュウ。彼らは約1000万年前の地球に誕生し、山形の浅い海を泳ぎ回っていました。本館の自然科学展示の主役であり、大々的な博物館の顔となっています。
メインの展示室は2階のフロアですが、まずは1階の古生物展示を制覇しましょう。古生代の無脊椎動物から新生代の哺乳類まで、広範な時代の生命について学べます。
1階のケースの一角では、ヤマガタダイカイギュウに関する展示があります。復元模型や骨格のレプリカといった造形物があり、本種に対するイメージを鮮明にしてくれます。
メイン展示室で古代の山形県の海洋生物と対面するのが、ますます楽しみになります。
ケースの化石展示を堪能して階段裏のホールに回ると、クロミンククジラの全身骨格が出現。
本区画の主役は、山形県・真室川町にて発見されたマムロガワクジラです。鮮新世という時代に生きていたヒゲクジラ類であり、1993~1994年にかけて発掘調査が行われました。
ここからはステージが変わります。エントランス手前の階段を上がり、2階の展示室へと入りましょう。
待っているのは、もちろんヤマガタダイカイギュウ! 約1000万年前の山形県の浅海域に生息していた古代カイギュウ類です。山形の古生物学を象徴する勇姿、思いきり目に焼きつけてください。
全身骨格を見ると、ヤマガタダイカイギュウが棲んでいた世界の環境を知りたくなります。ですが、彼らが登場した時期は、超壮大な地球史で言うと最近の話。ヤマガタダイカイギュウが誕生するよりもはるか前の時代に遡り、地球と山形県の歴史を追っていきましょう。
本館では山形県産の新生代の生物化石が多数展示されており、ヤマガタダイカイギュウを取り巻く環境についての理解を深めてくれますり
燦々と太陽光が降り注ぐ浅い海を、ゆったりと泳ぐヤマガタダイカイギュウ。イメージすると、とっても癒されますね。
ただ、海の中には恐ろしい肉食動物も棲んでいました。
その名はメガロドン! ヤマガタダイカイギュウだけでなく、クジラさえも捕食する巨大なサメです。本館では、最強のメガロドンがクジラを襲った証拠となる化石ーー太古の自然界の記録を見ることができます。
メガロドンの大きさは全長10~15 m、ヤマガタダイカイギュウは全長4 m未満。また、カイギュウ類は泳ぐスピードが遅いので、巨大で凶暴なメガロドンに狙われたら一貫の終わりだったと思われます。穏やかに見える温暖な海では、想像を絶する厳しい生存競争が展開されていたのです。
山形県では、地上の大型動物化石も発見されています。
新生代の陸を代表する動物と言えば、ナウマンゾウ。数十万年前から数万年前まで日本に暮らしていた温帯のゾウです。古代山形の陸地では、ナウマンゾウをはじめとする動物たちが力強く繁栄していました。
東北の大地で戦い抜く生命たち
地方博物館は、当地の自然科学研究のプロです。その土地の自然環境や生き物に関する展示はとても濃密であり、生物マニアのハートを熱くさせてくれます。
現代の自然環境展示にて最初に出迎えてくれるのは、陸と空の王者ーーツキノワグマとイヌワシです。怖くてかっこいい剥製に圧倒されそうです。
山形県の豊かな森林を形成するのは、もちろん多様な植物たち。この展示室では、博物館スタッフによってフィールドで採集された山形産の草本と木本を見ることができます。
風雪の激しい東北の大地においても、雄々しく繁栄する植物たちの生命力には本当に感嘆しますね。東北地方と他の地方との植生の違いを探してみるのもおもしろいと思います。
大森林と並んで山形県に恵みを与えるもう1つの環境は、大いなる日本海です。東北の海は寒そうなイメージがありますが、庄内海岸などの地域は対馬海流という暖流の影響を受けているので、冬でも海は比較的暖かく保たれています。
多くの地球の力が絡み合い、築かれていく複雑な環境。山形県の海は、その好例なのです。
ものすごく秀逸で感動したのは、鳥類の繁殖状況のジオラマ展示です。剥製標本と見事な造形の植生模型などを駆使して、種々の鳥たちの巣や卵の形、繁殖地の環境を再現しています。種類ごとの繁殖スタイルの違いがわかり、とっても興味深い展示です。
お待たせしました、いよいよ昆虫です。東北地方の気候や地形が昆虫たちにどのような変化を与えるのか、マニアにとっては非常に気になるところです。
今回は、圧倒的なファンの数を持つチョウ類に着目してみたいと思います。
山形県では、生物種ごとに県のシンボルが定められています。それを決めたのは国でも行政でもなく、山形県民の方々の投票によって、シンボル生物が選出されたのです。
本館には、県のシンボルの特設展示コーナーがあります。県民の皆様によって選ばれた、美しい山形の代表選手たちを見てみましょう。
やっぱり、地方の自然博物館は楽しいです。地方の大自然については、当地の博物館の職員さんが誰よりも精通しています。各都道府県の自然探究を極めたいのであれば、地方博物館での学習が最も有効であると思います。
なお、本館は自然科学資料に加えて、人文科学資料も展示する総合博物館です。縄文時代から現代までの山形県の歴史文化を深く知ることができます。山形の人々がどのような想いで時代を築いてきたのか、貴重な資料と共に学びたくなりますね。
山形県立博物館 総合レビュー
所在地:山形県山形市霞城町1-8
強み:ヤマガタダイカイギュウやマムロガワクジラといった山形県固有の古代海洋哺乳類の学術展示、山形県の大自然を網羅的に解説する広範かつ濃密な専門性、地域の暖かみが感じられるレトロで味わい深い館内の雰囲気
アクセス面:JR山形駅の西口から徒歩15分ほどで到着します。山形県内や周辺の県にお住まい方は、車で来館するのがベストだと思います。多くの県立博物館は地方にあることが多いですが、本館は山形市の中心市街地に位置しているため、アクセスはとても良好です。同じ霞城公園内のスポットも含めて、一気に観光できるでしょう。
山形県の自然史と生態系を専門的に学べる地方総合博物館です。ヤマガタダイカイギュウを看板スターに据えつつ、貴重な資料の展示ラッシュで来館者の探究心をそそってくれます。あえて恐竜に主眼を置かず、当地の古生物たちを強くプッシュされている点に、マニアは大興奮することでしょう。
自然豊かな山形ゆえに、現生動植物の標本展示はとても充実しています。特に、植物標本と昆虫標本の資料性の高さに筆者は強く惹かれました。山形県の自然環境が網羅的に解説されており、地形や気候の特性を学びながら、生き物たちの多様性の秘密も知ることができます。
日本の自然の魅力を改めて気づかせてくれる、素晴らしい地域の学術拠点。山形旅行の際に来館し、リラックスして心ゆくまで学んでいただきたいと思います。
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