全国自然博物館の旅【27】みどり市大間々博物館
生き物を探求するために博物館に通い続けると、いつの間にか、それが高じて「博物館好き」になっていたりします。そういった段階になると、町角のレトロな博物館にも積極的に見て入りたくなります。
地域博物館は郷土の自然研究に力を入れているので、来館してみるとマニア垂涎の大発見が多々あったります。今回は、楽しい学びと地方の暖かみがあふれる博物館を訪れました。
町角の博物館で学ぶ太古の記憶
博物館好きの人は「大きな博物館に行って恐竜をたくさん見たい!」という段階を越えると、規模の大小に関係なくコアな学術施設に関心を抱くようになります。郷土研究に特化した地域の博物館はマニアックな標本や展示を有していることが多く、歴然の生物マニアがワクワクして来訪します。
今回の舞台は、群馬県みどり市の大間々町。高崎市でレンタカーを借りて、いろいろな学術施設を巡りながら来ました。
タイミングよく、筆者が訪れた日は大間々で町をあげてのイベントが行われていました。たくさんの露店が道路に並び、広場では大がかりなショーなどが開かれていました。
もちろん筆者は食べ歩きしました(笑)。暖かい町の空気、いいですねえ。
赤城駅から車で3分ほどのところに、みどり市大間々博物館が位置しています。駐車場は博物館から少し離れたおり、標識に従って指定の駐車場に車を停めにいきます。
レトロな建屋に相対すると、大正時代にタイムスリップしたかのような感覚に見舞われます。
マニア大満足! 発見と感動に満ちた地域の総合博物館
地域自然から世界の化石まで広範な展示内容
群馬県には尊く豊かな自然環境があり、個々の地域を美しく彩っています。緑広がる大間々町では、四季を通じて様々な生命と出会えます。
本館の展示のトップバッターは、みどり市東部の大地に息づく野生の命。様々なタイプの展示資料から、本地域の自然の特色を学びましょう。
野生動物の標本展示では、剥製がメインとなります。他の多くの博物館と同じように、ジオラマと剥製を組み合わせることで、野生動物の生息環境がリアルに再現されています。
本館には、かっこいい恐竜たちの骨格もあります。多くは有名な海外のスターたちで、来館者の子供たちもきっと興奮するでしょう。レトロモダンな博物館の中で恐竜を見る体験、本当に幸せです。
大型恐竜たちは強さとかっこよさが魅力。壁側の大型ガラスケースには、凛々しい恐竜たちの頭骨が並べられています。
頭骨からは口の構造だけでなく、脳の大きさや耳の器官の形などもわかります。解剖学的な構造研究は、恐竜たちの食性や生態について多大なる理解をもたらしてくれるのです。
恐竜たちの個性的な顔を見比べてみると、きっと大きな学びがあります。
化石マニアの皆さんが気になるのは、収蔵されているコアな標本の内容だと思います。本館には世界の化石コーナーがあり、区画内の展示標本は大半が実物化石です。
かくいう筆者もマニアの1人。純粋に興奮して、標本1点1点を楽しみました。
世界の化石コーナーということで、貴重な恐竜の標本も展示されています。ほとんどが実物化石ですので、しっかりと目に焼きつけておきましょう。ガラスケースの中から、恐竜たちの息吹が聞こえてきそうです。
主役はコノドント! 古代環境の語り部の声を聞こう!!
本館の二つ名は「コノドント館」。この愛称を聞いた時点で、化石マニアは本館へ行きたい衝動に駆られると思います。
コノドントは太古の微小な歯状化石の総称であり、「コノドント動物」と呼ばれる古生物の歯だと考えられています。世界中の約6億年~約1億8000万年前の地層から発見されており、持ち主の正体は謎のままでした。現在の見解では、コノドント動物とは原始的な脊椎動物であるとされています。
実は、大間々町はコノドントの聖地なのです。1953年、大間々町にて日本で初めてのコノドント化石が発見されました。つまり、日本の古生物学にとって、本館は極めて重要な施設と言えます。
聖地ということもあり、本館のコノドント展示コーナーは、かなりの特別感があります。化石も模型もキャプションもイラストも超充実しており、コノドントの実像を詳しく理解できます。
コノドントの化石が見つかっているという事実からお察しの方もいらっしゃるかもしれませんが、群馬県は多種多様な生物化石の産地でもあります。
ここからは地域博物館の醍醐味、県内で発見された化石のラッシュです。コノドント動物と同じ古生代の生き物だけでなく、新生代の地層から出土した標本も見ることができます。化石の宝庫、群馬県の懐の広さを感じてください。
化石マニアの皆さんへの嬉しい展示は、さらに続きます。群馬県のみならず、関東地方の他県で採集された数々の化石が現れます。
関東には化石スポットがたくさん。本館で理解を深めたら、東日本における太古の聖地を訪れてみましょう。
化石の展示室を抜けると、壁面に大きな岩肌の写真パネルが出現。群馬県南部の神流町の恐竜スポット「漣岩」の拡大写真画像です。白亜紀において、この地層は泥と砂の土壌であったと考えられ、恐竜の足跡が多数残されています。
漣岩を有する神流町は、恐竜化石の重要な産地です。当地には、恐竜専門の素晴らしい博物館「神流町恐竜センター」がありますので、ぜひ訪れてみてください(下記リンク参照)。
コノドント館の異名は伊達ではなく、期待を大きく超えて超満足しました。博物館の素晴らしさとは規模ではなく、学術的な烈情を駆り立てる内容の強さだと感じました。
大間々町の魅力が詰め込まれた学術施設。コノドントを含め、古生物を愛する全ての化石マニアの方々に強くオススメできる施設です。
みどり市大間々博物館 総合レビュー
所在地:群馬県みどり市大間々町大間々1030
強み:コノドントを主役に据えた濃密な専門的解説展示、幅広い国と地域から収集・寄贈された貴重な実物化石標本、レトロな雰囲気に包まれた館全体の趣深い空気感
アクセス面:車での来館を推奨。旅行者の方は高崎市でレンタカーを借りて、様々なスポットを巡りつつ本館に向かうのが吉だと思います。上毛電気鉄道の赤城駅からは徒歩15〜20分ほどで到着しますので、電車での来館も十分可能です。なお、他の観光スポットを巡る時間は十二分に生まれると思いますので、赤城駅からレンタカーを利用することも視野に入れてみてください。わたらせ渓谷鐵道で自然景観を巡るご予定でしたら、そのまま電車旅を楽しみましょう。
レトロな雰囲気がたまらない地域博物館。大正時代の空気が香る空間で、化石・剥製標本を観覧する時間はとても特別に感じられます。博物館好きの人だけでなく、近代建築が好きな人も本館に吸い寄せられると思います。
「コノドント館」の愛称がつくほどコノドントについての展示は充実しており、化石マニアならばぜひ訪れておきたい施設です。加えて、世界の化石コーナーの標本はほとんどが貴重な実物化石であり、眼福の極みだと言えます。さらに、かっこいい恐竜たちの頭骨の豪華な展示もあり、全体的に見応えはかなり強いです。
地域博物館のすごさ、改めて実感しました。大衆向けな大型博物館も素晴らしいですが、ときには町の一角にある展示施設も訪れてみてください。きっと、その博物館だけが持つ魅力を味わえるはずです。