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全国水族館の旅【36】栃木県なかがわ水遊園

関東屈指の大自然を有する栃木県。陸水域の環境もとても豊かであり、生物マニアの探究心をくすぐられます。筆者も淡水魚や水棲生物を観察するために、よく栃木県の河川を探索したりします。
自然界での生き物探しに際して、栃木が誇る素晴らしい淡水生物水族館を訪れましょう。観覧後には、淡水環境への関心がさらに高まるはずです。


命あふれる栃木の淡水環境を探検しよう!

スタートはJR宇都宮駅。なかがわ水遊園は大田原市に位置していますので、せっかく長距離ドライブするなら、様々な水辺に寄って淡水生物の探索を楽しむのが最良手です。

レンタカーに胴長とタモ網を積んで、さっそく生き物探しに出発。知人からの有力な情報を得て、県内某所のタガメの生息地へやってきました。そして見事にタガメ、ガムシ、マルガタゲンゴロウの採集という大成果をあげました!
大半が貴重な水生昆虫ですので、捕獲後はリリースいたしました。ちなみに、タガメの無許可の飼育販売は違法ですが、捕獲して飼育する場合は罪に問われません

県内のいくつかの水辺を車で回りました。なお、タガメを狙う場合、こういった川よりも流れの緩やかな水域の方が見つけやすいです。
栃木県の水辺にて水生昆虫の採集。超レアなタガメとマルガタゲンゴロウを発見しました!
幼虫のタガメとガムシもゲット。タガメはとても貴重ですので、本記事では採集場所は明かさず「栃木県のどこか」と述べさせていただきます。

昆虫たちとの出会いを楽しみ、テンションはMAX。最高潮の勢いを維持したまま、なかがわ水遊園へと向かいます。

本園は淡水生物水族館をメインとして、2001年にオープンした施設です。広大な敷地内には公園や展望台、飲食店などが設けられており、水族館と合わせて1日中楽しく過ごせる学びと憩いの場になっています。
水棲生物たちが展示されているのは、池に囲まれた「おもしろ魚館」。

お目てのなかがわ水遊園に到着。約700台を停められる無料駐車場がありますので、やはり車での来訪がベストです。
水遊園の飼育展示施設「おもしろ魚館」。非常に多種の水棲生物と出会える魅力的な水族館です。
おもしろ魚館を囲む池には、大きなコイ類が泳いでいます。すでに生き物たちとの出会いは始まっています。

なかがわ水遊園での滞在時間はきっと長くなりますので、折を見て園内の飲食店へ入りましょう。筆者が選択したのは、おもしろ魚館の中にあるアマゾンカフェ。デザートやドリンクが充実しているうえに、淡水魚をモチーフにしたメニューが味わえます。
筆者はピラルクーグリーンカレーを食べて幸福の絶頂。お腹も心もいっぱいにして、水遊園を100%以上楽しみましょう。

館内の飲食店「アマゾンカフェ」。観覧前後のタイミングでランチをとりましょう。
熱帯魚ピラルクーの肉が入ったグリーンカレー。とってもヘルシーでおいしいです!
おいしいご飯で元気をチャージしたら観覧スタート。入口前に飾られたピラルクーの編み物がとってもかっこいいですね。

栃木県とアマゾンの淡水生物が夢の大共演

栃木の生命を育む那珂川の自然環境

本館は淡水生物メインの専門水族館ですが、最初に来館者が目にするのは海水魚たちの展示水槽です! 青々とした空間を舞う魚たちの姿は、これから探究の旅に出る人々のワクワク感をさらに鼓舞してくれます。
魚たちをたっぷり愛でて気分が上がったら、エスカレーターを下って、展示エリアへと出発。栃木県の水域探検スタートです。

入口前の大型水槽。淡水メインの水族館で見る海水生物の展示水槽は、とても特別な感じがしますね。
サービス精神旺盛なハリセンボン。よく人慣れしているのがわかります。
エスカレーターを下って展示エリアへ。壁面には、個性豊かな淡水魚たちのパネルが貼られています。

前半戦で中核となるのは、栃木県が有する一級河川・那珂川に棲む生き物たちです。那須の山を源流とする那珂川は、栃木の広範な大地を潤しながら、150 km下流の海へと旅をします。
多くの河川がそうであるように、那珂川においても、流域ごとに環境特性や生態系が異なっています。本館では上流域・中流域・下流域のそれぞれにおいて、那珂川の河川生態系を詳しく展示解説してくれています。個々の環境でどのようか生命が息づいているのか、体系的に学ぶことができます。

美しさと迫力を兼ね備えた大型水槽と、写真・イラスト付きの大型キャプション。見やすさとインパクトが両立した素晴らしい水族展示です。
ジオラマ風の展示水槽もあります。淡水環境は陸地からの影響をダイレクトに受けるので、
上流域~下流域の広範囲にかけて、那珂川に棲む生命を解説。生息環境と分布する生物たちの特性を明瞭に理解できます。

広大な那珂川には、50種類以上の魚たちが棲んでいます。水族展示で出会う魚種はとても多様で、水域環境が豊かであることを示唆しています。どのような魚がどのような場所に生息しているのか、彼らの生態と流域環境をセットで学びましょう。

ニッコウイワナ、ヤマメ、ニジマスが舞う上流域の水槽。不覚にもおいしそうと思ってしまいました(笑)。
中流域ではアユ、オイカワ、ウグイが現れます。彼らもおいしい魚です。
底生魚のスナゴカマツカたち。これまでカマツカは1種類だと考えられてきましたが、近年の研究の結果、日本には3種類のカマツカが生息していると判明しました。
下流域のほとりに棲むウキゴリ。ほとりには湾のように入り組んだ場所があり、ウキゴリにとっては格好の棲家となります。
下流域に棲む大型魚と言えばナマズ。悠々と泳ぐ姿は迫力満点です。

個人的に特別萌えたのは、可愛らしい稚魚たちです。サケ類は成熟するとすごくかっこいいうえに、稚魚のときは天使のごとく愛らしく見えます。水族館で稚魚と出会った際には、ぜひ成魚との相違点に注目してみてください。

ヤマメの稚魚。サケ科の稚魚には「パーマーク」と呼ばれる楕円形の模様があり、ヤマメの場合、成長してもパーマークが消えることはありません。
サケの稚魚。成魚はパワフルでかっこいいですが、稚魚なスマートで可愛いですね。

生き物好きにとって、淡水魚と同じく楽しみなのが水生昆虫との出会いです。本館では、生体展示に加えて、標本展示でも不思議な虫たちの姿を拝むことができます。トビケラやカワゲラなど、一般の人々に目に触れる機会の少ない水生昆虫を大々的に展示してくれているのは、生物マニアとして嬉しい限りです。

水生昆虫マニアの永遠の憧れ・ゲンゴロウ。現在は個体数が減少しており、栃木県のレッドリストでは絶滅危惧Ⅱ類となっています。
標本展示コーナー。キャプションや解説映像と合わせて、水生昆虫の特徴を理解できます。
水生昆虫の液浸標本展示。カワゲラ類は幼虫の期間を水の中で過ごし、成虫になると翅を得て飛翔します。
ヒゲナガカワトビケラの幼虫の液浸標本。川石に網状の糸を張り、流れてきた獲物を捕まえます。

他の河川と同じく、那珂川でも外来種による生態系への影響が問題となっています。筆者は常に申しておりますが、外来種は決して悪者ではなく、彼らを日本に連れてきた人間こそがそもそもの原因なのです
とても美しく、神秘的な外来種の生き物たち。生体展示を通して、彼らの魅力を感じてください。

つぶらな瞳が可愛いブルーギル。外来生物も愛すべき生命だということを理解していただきたいと思います。
中国からの外来種カラドジョウ。ヒゲの長さなどの特徴で、日本のドジョウと見分けられます。
コクチバス。彼らは特定外来生物であり、無許可での飼育・搬入・放流が禁止されていますので、野外個体を捕まえたらリリースするか調理して食べましょう
特殊な技法を用いたコクチバス対策のレポート。外来種はまったく悪くありませんが、在来種を守るためには、苦肉の策として捕獲駆除をするしかないのです。

本館には淡水のみならず、海水環境の水族展示もあります。那珂川は数多くの地域の水を集めて流れ、やがて無限なる海洋に到達します。
海と川はもちろん、全ての環境は相互に影響して関わり合っています。川からの恵みの流れを受けた海に暮らす生き物たちの姿はとても麗しく、生態系保全のためには海と川のどちらにも目を向けることが必要なのだと実感します。

ギンユゴイ。浅い海の岩礁地帯に棲んでいます。
ヨツメジ。ヒゲには味覚を感じる細胞があり、巧みに動かしながら、砂中に潜む小動物を探します。
マナマコ。食用にもなるおいしいナマコです。
岩礁地帯に棲む魚と言えばウツボ。太平洋では岩手県以南の海に生息しています。
こちらは沖合の魚たちを展示している大型水槽。おいしそうな海水魚がたくさん舞っています。

那珂川をめぐる水の旅は怒涛のボリュームです。これまでの展示を振り返る時間も含めて、軽く休憩タイムをとりましょう。水族館周辺の池を眺めて小休止していると、栃木県の河川や湖沼へ生物探索に出かけたいという強い欲求が芽生えてきます。

池に面した休憩コーナー。椅子に腰かけてドリンクを飲みながら、ゆったりと水を感じてください。

圧巻のスケール! 栃木の淡水からアマゾンの大河へ繰り出そう

那珂川の他にも、栃木県には魅力的な淡水生態系があふれています。風光明媚な観光地である中禅寺湖、大小様々な魚種がひしめく渡良瀬遊水池など、探究すべき場所はたくさんあります。
本館の生体展示を見た後は、栃木県の淡水環境への関心が爆上がりしていることでしょう。旅行で中禅寺湖をはじめとする淡水スポットに行った際には、ぜひ現地の生き物たちを観察してみてください。

栃木県の有名な観光地・中禅寺湖に棲む魚たち。突発的な地殻変動で生まれた中禅寺湖にはもともと魚は生息していませんでしたが、人為的な放流により、現在では多様な淡水魚を見ることができます。
渡良瀬遊水池をはじめ、様々な淡水環境に生きる水棲生物たちの水槽。希少な天然記念物も展示されています。
国の天然記念物・ミヤコタナゴ。栃木県内では、なかがわ水遊園のスタッフさんたちによる野生個体の保全活動が実施されています。
在来魚と外来魚が共に泳ぐ渡良瀬遊水池の水槽。アオウオの大きさと迫力には圧倒されます。

淡水魚に関する重要なテーマの1つが養殖です。栃木県では、ご当地サーモンの養殖に力を入れており、独自のブランド魚「ヤシオマス」「銀桜サーモン」を生み出しています。
世はサーモン養殖の戦国時代。栃木県の水産試験場では、おいしい淡水魚を育てるために日々試行錯誤が実施されています。水族館観覧後は、県内のレストランにてご当地サーモン料理を味わってみましょう。

養殖魚ヤシオマス。栃木県の水産試験場にて作出されたニジマスのオリジナル品種です。
サクラマスのオリジナル品種「銀桜サーモン」に関する解説展示。大きく成長する銀桜サーモンは、釣り人のニーズに対応した新品種なのです。
品種作出の過程の解説。ヤシオマスや銀桜サーモンは3倍体の養殖魚であり、遺伝子の染色体を3セット有しています

そして、熱帯淡水魚ファンの皆様お待ちかね!
ここからいよいよ世界の淡水魚たちのオンパレードが始まります。
アマゾンやアフリカの河川環境は、日本と共有している点もあれば、まったく異なっている点もあります。海外の大河は海のごとく超広大でゆったりと流れていると思われがちですが、上流域では日本の渓流と同じように、流れの速い清流の水域が広がっています。水槽の中の淡水魚を観察しながら、彼らの生息環境を考察すると、熱帯の大自然への憧れが強まります。

熱帯淡水生物の最初の展示エリア。展示生物はデジタル画像で解説されます。
カメラ目線をくれたブリキヌス・マクロレピドータス。アフリカに広く分布しています。
レッドフィンバルブ。鮮やかな赤いヒレがかっこいい。
淡水カメ類スッポンモドキ。四肢がヒレ状に発達しており、水中での活動が得意です。

海外の淡水生物展示は、いよいよ佳境へと入ります。ついに神秘の大河・アマゾンへと出発です!
淡水魚の大きさも多様性も、アマゾン川は全てにおいて世界有数の規模を誇ります。本館の雄大なトンネル水槽の中に身を投じ、ピラルクーや大型ナマズ類の巨躯を拝めば、スケールの大きさに改めて圧倒されます。底知れぬアマゾンのパワーを展示から感じてください。

アマゾン川のど真ん中へとつながるトンネル水槽。SNS映えする場所であり、記念撮影スポットとして人気の水槽です。
上下左右、どこからでも淡水魚を観察できます。光る水の中を舞う魚たち、本当に感動的です。
水槽の奥で佇んでいるのは大型淡水魚ピラルクー。本館のスター生物の一角です。
側面からトンネル水槽を覗ける大きな窓。本当にアマゾン川の中を歩いているかのようです。
本館で飼育されているピラルクーたち。個体ごとに性格が違っていて、魚に知性があることを改めて実感します。

アマゾンには不思議と謎がいっぱい。人間を襲う怖い魚や、淡水性の軟骨魚類も確認されています。今もなお新種の生物が次々と発見されるアマゾンの偉大さを感じながら、淡水魚たちのミステリアスな姿を目に焼きつけましょう。

危険な肉食魚ブルーカンディル。獲物の体内に入り込んで食い荒らす性質を有しており、現地の人々にも恐れられています。
淡水に棲むエイであるプレシオトリゴン・ナナ。アマゾン川の支流などに分布しています。
アマゾンの淡水魚の骨格展示。こちらのブラックコロソマは見ての通り顎の力が強く、水面に落ちてきた硬い木の実でも噛み砕くことができます

通路を抜けると、熱帯植物に彩られた広大な空間「アクアドーム」に出ます。空と木々の緑が織り成す世界は、まるでジャングル。素晴らしい空間演出により、来館者のテンションはさらに爆上がりです。

ジャングルのように広大な展示空間「アクアドーム」。ワクワク度が高まります。
エリア中央部には大型水槽があります。階段の上から見ると壮観ですね。
あらゆる位置から水槽を覗ける構造になっています。アマゾンの淡水魚たちには、広い水域が似合いますね。

ジャングルに棲むスターは、淡水魚たちだけではありません。アクアドーム内では、熱帯雨林に生息する陸棲脊椎動物たちがたくさん迎えてくれます。個性豊かで可愛らしいジャングルの生命をじっくりと観察してください。

頭上を見上げればルリコンゴウインコがいました。彼らは極めて高い知能を有する鳥類です。
お昼寝中のフタユビナマケモノ。動きが超スローモーで、なおかつ木の上で丸まっていることが多いため、敵に見つかりにくくなっています。
お食事中のカピバラ。子供たちから大人気です。
木の上で休むグリーンイグアナ。たまに通路を歩いていることがあるようです。
アカアシガメ。多湿な熱帯雨林の環境を好むリクガメです。

栃木県とアマゾン。2つの水の世界を深く知ることで、地球環境の尊さと壮大さを強く感じました。生き物との出会いを心から楽しめるうえに、水域環境の特性を学ぶことのできる本館は、まさに万人に大いなる心の実りをもたらす水族館です。地球の淡水環境を好きになるために、なかがわ水遊園を訪れてみてください。

トリはサンゴ礁の海をイメージした水槽。生物多様性に富んだ「海の中のアマゾン」と言えます。

栃木県なかがわ水遊園 総合レビュー

所在地:栃木県大田原市佐良土2686

強み:各水域・各生息環境ごとに詳しくゾーニングされた栃木県の水棲生物展示、栃木県内での環境保全対策や養殖業を各種展示にて詳細に伝える学術性の高さ、大型水槽や広大なジャングルエリアなど迫力と臨場感を併せ持つ展示空間

アクセス面:立地の都合上、車での来館がベストです。もし宇都宮市からレンタカーでスタートする場合は、筆者のように栃木県内の自然スポットを巡って生物観察・採集しながら向かうのがいいと思います。公共交通機関として、JR西那須野駅から水族園方面へ向かう路線バスが出ています。マニアの方々にアドバイスをさせていただきますと、水遊園で淡水生物を見たら栃木県で生物探究したくなる可能性が高いので、やはりレンタカーでの来館をオススメします

栃木県の麗しい水域生態系と、超スケールの熱帯域の淡水環境を学べる淡水生物メインの水族館。視覚的インパクトの強い大型水槽が多く、生息マニアも家族連れも大満足できる万人向けの飼育展示施設となっています。大迫力のトンネル水槽とピラルクーの巨体、そしてアマゾンの個性豊かな爬虫類・哺乳類たちは子供から大人まで多くの来館者のハートをがっちりと掴むでしょう。
学術性も極めて高く、那珂川や中禅寺湖など栃木県の水域環境の特性を体系的に学習できます。上流域から下流域、そして海へとつながる水族展示にはストーリー性があり、水の流れを体感しながら河川生態系の知識が身についていきます。水生昆虫や希少な淡水魚の展示も充実していて、生物マニアも大満足です。
栃木県のみならず、淡水環境の生態系を広く学習できる素敵な水族館です。水棲生物への理解を深めたいのならば、ぜひとも来館しておきたい展示施設です。

水遊園の敷地内にある飲食店「味処ゆづかみ」。次回リピートした際は、ぜひここでランチを食べたいと思います。

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