ブックレビュー「スター・シェイカー」
人間六度著、長編SF小説「スター・シェイカー」を読みました。
ハヤカワSFコンテストの3年ぶりの大賞受賞作にして学生作家によるデビュー作という話題の本です。
まず、概要にだまされます。
「テレポーテーションが一般化された未来社会」という舞台の説明から、古風でどこかライトな感覚の懐かしさのあるSF小説を想像してしまいましたが、さにあらず。
ものすごい熱量と密度で、未来社会のサバイバルを描いた大作でした。
登場人物はみんな重いものを抱えていて、不安定な感情をぶつけ合いながら世界の謎に迫っていく物語。
キャラクターの中では最も若年で最も落ち着いてるマフラー(かわいい)が、そんなストーリーを陰から支えている様に好感が持てました。
テレポーテーションを支える原理と技術を駆使した凄絶な血まみれバトルもあり。
高速道路の上に下界とは一線を画す世界があるという「マッドマックス」を思わせる設定はそれだけで独立したSF小説にできそうです。
付録の「ハヤカワSFコンテスト選評」では、構成がグダグダで(出版にあたっての改稿はあったでしょうが)詰め込みすぎのように評されていましたが、次に何が来るかわからない展開が自分には楽しかったです。
面白いのは、主人公が最後にたどり着くテレポーテーションの通路ともいうべき「空」と呼ばれる異界が、列車のイメージをとっていたこと。
瞬間移動の一般化により、自動車すら物珍しい主人公にとって、まったく馴染みのない交通機関、移動手段として描かれていますが、これがとても相応しい。
思えば「銀河鉄道の夜」から、「ブラックジャック」の最終回、「千と千尋の神隠し」や「エヴァンゲリオン」で主人公の心象風景として描かれてきた列車という乗り物が、ここでも最後に辿り着いた場所というのは興味深いです。
「スター・シェイカー」も含めてこれらの作品に登場する「列車」は、どこか現世と死の世界を結ぶ存在として映る気がします。
「スター・シェイカー」は、世界を縦横無尽に飛んでいるように見えて「行くべきところへ行く」だけの一直線な人生を駆け抜ける、若さのある疾走感に満ちた快作です。