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【長編SF小説】十月は黄昏の銀河帝国

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先に連載した長編SF小説「銀河皇帝のいない八月」の続編。 数々の障害を乗り越え銀河皇帝に即位した女子高生、遠藤空里(あさと)。 だが、その地位は安泰とは程遠いものだった。 空里を…
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2025年1月の記事一覧

十月は黄昏の銀河帝国 ⑯

十月は黄昏の銀河帝国 ⑯

第二章
1.ミラーグラスの女

 銀河帝国に首府はない。

 時の銀河皇帝が、直轄領や出身惑星を首都や帝都と定めることはあったが、そこに政府省庁や行政機関が集中して存在しているわけではなく、あくまで名目上の首府であった。
 しかし、帝国の重要機関や施設が集中して存在する中心的都市惑星は存在した。

 その一つが、惑星〈刻の市〉である。

 〈刻の市〉の惑星本体は、いわゆるMクラス(地球型)惑星より

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑰

十月は黄昏の銀河帝国 ⑰

2.ユーナス・ザニ紛争

 ヴィンヌジャール卿のむくんだ手が、傍らに立つ美少年に合図した。

 少年が手元に現れたホログラム・インターフェースを操作すると、部屋の照明が落ち、立体プロジェクターが中空に一つの惑星の像を結んだ。
 黄白色の大陸と青い大洋が複雑に入り組んだ特徴ある地形は、見間違えようがない。
 惑星〈千のナイフ〉。
 その姿が与える印象は、見る者によって様々だ。
 ある者は郷愁を。ある

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑱

十月は黄昏の銀河帝国 ⑱

3.無血昇龍

 都市惑星〈刻の市〉を構成する球状都市群は、ヴィラスチールとメタグラスで造られた巨大なパイプによって接続されている。
 パイプの中には人間が生身で通れる無重力路から、大規模輸送用のリパルシング・レールウェイまで様々な交通機関が通っていた。

 そのうちの一つ。
 無重力走路を走る小型の乗用コミューターで、 ミラーグラスの女……ネープ一四一は、惑星本体にあたる最下層の区画へ向かってい

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十月は黄昏の銀河帝国 ⑲

十月は黄昏の銀河帝国 ⑲

4.イースとサーレオ

「お久しぶりね、一四一」

 ホウティーの入ったカップを差し出しながらトワが言った。
「あなた方はまだ、私をその名前で呼ぶのですか……」
 北部銀河の特定星域に残る古語で数字の一四一を指す「イース」。
 サーレオとトワは、まだ少年だった一四一をそう呼んでいた時のままの笑顔を浮かべていた。「久しぶり」という挨拶も彼に合わせてのものだ。時空生命体とも呼ばれる〈それ以外の者〉であ

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