古賀コン7(第7回私立古賀裕人文学祭) 作品全感想
はじめに
佐藤の能力不足+時間不足により的外れなことを書いている可能性があります。どうぞご指摘ください。今回はいつもよりも時間がヤバかったので感想が薄いです!すいません!
1. 夏目ジウさん「二人だけのラストダンス【エンタメ小説】」
今回のトップバッターは夏目ジウさん。いきなりカオスです。
そもそも募集要項が12月5日の19時に発表されたのに、19時52分に投稿されているのがヤバい。募集期間は12月5日(木)21時~なのにフライングしている。まあ、古賀コンだからいいのか。とにかく、夏目さんの古賀コンにかける情熱が伝わってきます。
内容は濃厚な古賀ハギワラ作品。二人への愛がこれでもかと凝縮されています。古賀さんが総理大臣という発想が良かったです。ヤバい。「記憶にございません」とか言ってそう。ハギワラさんは厚生労働大臣とかでしょうか。
全作品を読み終えて気づいたのは、前回まで一大勢力だった古賀裕人ネタが古賀コン7では少なかったこと。そんな中、夏目さんの古賀ネタにかける思いは輝いていました。
2. 奥野じゅんさん「着道楽のステップは見るに堪えない」
構成が見事な作品。ウォークインクローゼットの中で死んだなら語り手の父親にとっては本望だった気がします。まあ、残された家族にとってはどうでもいいことだけど。
最後の一文に皮肉が効いていて良かったです。
3. 憚譚之傍見さん「泣かないで」
今回もセンスがいい作品。センスがない僕にはたどり着けない世界。うらやましいです。声に出して読んでみるとリズムの良さがわかります。文章が踊っているようです。
4. 短歌よむ千住さん「秋風」
出だしに笑いましたが、最後の落ち葉と踊る僕の姿に泣きました。もう季節は冬ですが、短かった秋の風物が懐かしくなります。
5. 非常口ドットさん「自由なる男」
男がすがすがしいくらいにクソで、ここまで徹底的にダメな男をかけるのがすばらしい。何も同情する余地がない屑を書き切った後でおとずれる、オチが見事です。スカッとします。ショートショートはこう書かなくてはいけないというお手本のような作品でした。
6. 矢馳哲さん「誰もダンスは見ていない」
評論のような作品。僕もコミュ障なのでいろいろと刺さる作品でした。大学時代をほとんど読書に捧げましたが、もっとサークルとかに入ればよかった。「間違った方法でしか意思を示せない」とか泣きました。この作品をコミュニケーション強者の古賀さんがどう評価するのか楽しみです。
7. 大江信さん「・・・アイルトン・セナ・・」
大江さんらしい手の込んだ作品。ミステリアスでおもしろかったです。アイルトンセナが人気だった時に瀬奈という名前をつけるのが流行ったと長嶋有が小説で書いていたことを思い出しました。
8. 門歩 鸞さん『あの世に向かって「ダンス・ダンス・ダンス」』
火葬の場面の描写に作者さんの力量を感じました。「焼くと急に上半身が起きあがって、ひとしきり「ダンスを踊った」後、一番重い頭が途中でちぎれてそのままお腹か股間のあたりにぽとりと落ちるのである」とか簡潔ながらも力強い文章です。最後の語り手の問いかけもすばらしく、短編小説としてうまくまとまった作品だと思いました。
9. 吉野玄冬さん「ファンタスマゴリア」
これから新しい物語がはじまるのを予感させる高揚感を味わえる作品。語り手が敵と戦いながら城にたどり着くまでの描写に緊迫感があり楽しめました。
10. 太代祐一さん「残雪 川柳十句」
川柳の文字を下揃えにしたことに作者さんの美意識を感じます。雪が地面の底に残っているようです。その上に、言葉が積み重なっている。「ねえ、ねえ、ねえ、君は白紙で息をする」から「必要な雪なら残るから戦」の並びが好きです。
11. まかさん「ダンスダンスレボリューション」
無茶苦茶で笑えます。それでいてリズム感がある文章はまかさんらしくてさすがだなと思いました。タイトルを含めてネタの世代が全体的に僕に近いのもうれしかったです。
12. 葉月氷菓さん「焼酎ロック・アンセム」
浮かぶ雲のように、誰もキミを掴めないってそういうことかよ、という楽しい作品。勇気出せよ!
でも、語り手はいい仲間に恵まれてるなとうらやましくなります。
僕もラルクは好きなので久しぶりに聞きたくなりました、というか書きながら聞いてます。
13. 蓼原 憂さん「廻雪(かいせつ)」
白金の世界を切り裂く鉛のような切れ味の言葉が美しかったです。雪の中で踊るような冬にぴったりの詩だったと思います。
14. 比良岡美紀さん「ダンスはうまく踊れない」
エッセイ的な前半(まさかの反省文)から高校生の話につなげるのがユニークでよかったです。計画的なのかどうかはわかりませんが、意外性がありました。巧みです。
ちなみに、『ダンス・ダンス・ダンス』は村上春樹の小説の中でも僕は好きです。
15. 曾根崎十三さん「メダカも魚もダンスの内」
働くこと、生きること、日常の辛さの描写からの、「すべてはダンスだったのだ。全部ダンスの一部なのだ。生命が発生したその瞬間から踊っている。そして死ぬまで踊り続ける。体が動かなくとも、踊っている」という畳みかける文章が印象に残ります。今回の古賀コンのテーマを象徴するようです。
16. 赤木青緑さん「爆音でベートーヴェン聴こうと思ったのにイヤホン忘れた、無音で踊れってことかよ」
夢中で踊っているときは自分がかっこいいという幻想に陥ることが多いですが、他人から見たらみっともない。それは真理です。だけど、踊らない人生なんてつまらない。そんな古賀コン、そして人生において大切なことを思い出させてくれる作品。だからこそ、タミオの「高速カマキリムカデ」は笑えるとともに胸を打つ。「周りの注目を独り占めにし」て、誰も目を離すことができない。感動しました。
17. 甘衣 君彩さん「文字だったら踊らせられる」
少女マンガみたいなノリで好きです。カエルサンタがかわいいです。「ただでさえ丸い目をさらに真ん丸にした」とかいい。文字になっちゃう、という発想もおもしろいです。
18. 草野理恵子さん「わたしの鳩サブレ―」
いつもの草野さんの詩とは印象が違うなと感じました。肉感的?というか、おもしろいです。鳩サブレーという発想もおもしろくてよかったです。鳩サブレーには小さなころからなじみがあって好きなので、この詩を読んで食べたくなりました。
19. 佐藤 相平「オレはハゲ」
自分の作品
20. エンプティ・オーブンさん「アヤノリマー アーガリーいせきのひほう」
マッキーで猫といったら小林猫太さん!
幼稚園とか小学校低学年の時に読んだ冒険小説、『かいけつゾロリ』シリーズとかを思い出す、楽しい作品。あの頃に戻りたくなります。ゆるくて好きです。絵もかわいい。
21. やまだ。さん「ダンスをご覧下さい」
凄惨な人生のダンスを見せつけてくれる作品。最後は自分の人生に責任をもつという潔さに好感がもてます。はじめから終わりまで言葉に力があり目が離せなかったです。
22. 久乙矢さん「ミトコンドリア・ダンス」
乙矢さんには珍しい、僕が知る限り初めての詩作品。ですが、乙矢さんらしくしっかりと構成を練られてから書かれたのが伝わってきます。知的な雰囲気です。ブレインストーミング?の過程ものせているのが乙矢さんらしく誠実だなと思いました。
23. 貞久萬さん「チェリオス効果 VS ガッターマン反応 最強の敵」
古賀コンを盛り上げてきたチェリオス効果シリーズも今回が最終回。さびしいです。最後も古賀っちの投稿を利用する自由さがおもしろかったです。古賀裕人愛が伝わってきます。二人の今後が気になるので続編も期待したいです。
24. それいけ!まちか2世さん『私のダンスをご覧ください。』
十代の繊細さ、悩み、自意識過剰が上手く表現されていると思いました。とても好みです。「私はもっと現実を見たい。ぼやけた視界じゃなくて、正しく世界を見たい。本当のことだけを知りたい」とか好きです。忘れかけていた、忘れてはいけない、大事な感覚を思い出させてくれます。最後のさわやかさもよかったです。
25. 夏原 秋さん「舞台・エフブンノイチ」
正統派の踊り小説。出だしの照明の描写から緊張感があります。(たしかにステージの照明は明るい。だいたい明るすぎる)「木を模倣する」という発想がユニークかつ力強く、観客だけでなくこの作品の読者さえ木のリズムで揺れてしまうような体験を味わえます。
26. 安戸 染さん「卍(漫字)踊り」
五回くらい見返してネタに気づきました。発想が最高です。次回作も楽しみにしています。
「桶り」みたいなネタでくるのかと予想していましたが、違いました。
27. 藍笹キミコさん「綿花」
現役の綿花農家の方ですかというくらい、綿花についての描写にリアリティがあってすばらしいです。丁寧に育てた綿花に愛情が湧くという設定がよかったです。最後も感動的でした。
28. こい瀬 伊音さん「くにゃん、くれ。くにゃん、さら。あたしのダンスをご覧になって。そのまんまで生きろぉ」
kpop感のある作品。こい瀬さんらしいスピード感がいいです。
作中前半のシーンは先に帰国を決めた(夢をあきらめた?)カンドクを見送るシーン。「おれこっちに来てはじめて日本人になったわ。あっちに戻ったらまた韓国人なのにな」というセリフから康徳=カンドクは韓国系の日本人でしょうか。李良枝の小説を思い出しました。
後半のシーンでわかるのはミリョンも夢をあきらめて?日本に帰ってきたようです。
あらすじをまとめただけの感想になってしまった。
韓国に行きたくなりました。
29. ユイニコール七里さん「安全な場所に入れられているといっても、捕らわれていることに変わりはないさ」
前半ではよくわからないまま周囲に流されていく人々が上手く表現されていると思います。現代を象徴しているようで面白かったです。
後半は由利本荘しょうぶ音頭が登場して展開が変わり、読んでいて飽きません。また、下の動画のコメントにはたしかに歌の癖が強くなったと書いてあります。「いたずらに郷土、郷土品を示してる気がした」という一文に皮肉が効いていていいです。
そして最後はMTGネタです。僕も結構プレイしたはずですが、このカードのことは知りませんでした。僕の好きなフレーバーテキストは「石の雨」の「こんな雨のあとに、どんな虹がかかる?」です。
30. 𝐀𝐘𝐀𝐊𝐀さん「𝐃𝐚𝐧𝐜𝐞 𝐨𝐟 𝐃𝐚𝐫𝐤𝐧𝐞𝐬𝐬」
出だしから強いです。知的なカオス。wkipediaネタは僕もやりたいので参考になります。フリガナの使い方も水樹奈々みたいで好きです。「あのひとのお墨付きはデッカい浮き輪みたいなもんやからな」とか笑いました。
31. 七名菜々さん『ネクロマンス・アロマンス』
あの魔法使いが十秒で負けた、という絶望感がいいです。死ぬまで強制的に踊らされるというのも残酷で興奮しました。
32. 浅黄幻影さん「ベッドで踊る猫」
『読んでない本について堂々と語る方法』みたいなナンパ術が披露される作品。オチが予想外でよかったです。
33. 添島 譲さん「店内ではお静かに」
舞台は神保町でしょうか。僕もめちゃくちゃ優柔不断で本を買おうかどうか迷いに迷って万引きに間違えられたことがあるので共感できました。本代のために食費を削るところも共感できます。オチも決まっていてよかったです。
34. 染水翔太さん「プレイボール」
「マウンドに立っている男がそわそわと周囲を見る」という表現からしみさんの世界観に入り込みます。変な話なのに状況は想像できるのがさすがの筆力。
そして、きぬた歯科が登場するというのもポイントが高い。しかし、横浜市民の僕としてはきぬた泰和よりきぬた久和の方がなじみがあります。横浜駅はAGAときぬた歯科の広告に支配されています。僕は「きぬたぬき」というゆるキャラが割と好きです。ちなみに、ふたりは兄弟で久和の方が若く見えるけれど兄のようです。
兄弟の対話記事は必見です。
35. 小林猫太さん「ポシェットギャンブラー単&複〜ダンスダンスダンスVSダンスインザダークVSダークライ〜」
今回も小林さんらしく人を傷つけずに完成度が高い笑いを読めてうれしいです。しかも、僕が好きなポケモンを題材にしているということでテンションが上がりました。
みなさんご存じのように、アニメポケモン史上最高視聴率だった回は第33話の「ほのおのポケモンだいレース」というサトシがひのうまポケモン・ポニータにまたがり、レースに出場するという競馬回なので、ポケモン=競馬です。
「光中」=ピカチュウやVSダークライ構文という小ネタもいいです。また、次回予告が好きなので、今回は二話分もあって大満足です。
ちなみにターフィー君はこんなかんじです。僕は知らない馬です。
36. ましこさん「Shall we dance 〜閉ざされた扉を開けて〜」
少女たちの瑞々しい交流がいいです。はじめてボールルームに足を踏み入れた瞬間のきらめき、胸の高鳴り、最高です。読んでいる僕の気持ちもあがりました。
前回同様1時間で書いたとは思えない充実した内容。ここまででも完成されていますが続きが読みたくなりました。
37. 渋皮ヨロイさん「にんべん」
うまい。こういうのがオレも書きたい、という作品。そして、お好み焼きが食べたくなる。渋川さんらしくセンスがよくて、謎のエロさがある。作品全体が踊っている。もちろん、踊り方もオシャレ。たまにあえてダサい動きを入れるんだけど、よりオシャレさが際立つ。きっと着ている服もみんなオシャレ。オレは入れない。憧れるしかない。そういう世界観。
38. 両目洞窟人間さん『心が踊ればダンスだろ』
いいです。青春を思い出します。こんな友達がほしいです。映画を一本み終えたような充実感を味わえます。
39. RSオンリー・イエスタデイさん「Lucky Kilimanjaroの踊らない曲」
古賀コンは音楽に詳しい人が多くて、自然と僕も勉強できてうれしいです。今この文章もLucky Kilimanjaroの曲を聴きながら書いてます。すてきな音楽を教えてくれてありがとうございます。
40. じゅーりさん「イージードダンス」
「ダンスやめたら射殺される国」という発想が最高です。ソーラン節を「ニシン漁ダンス」と呼ぶくだりで笑いました。最後まで楽しかったです。
作中に登場する他の曲もなじみがあって楽しめました。
41. 子鹿白介さん「第2ボタン・ノーリターン」
楽しかった。ストレートなSF恋愛小説は古賀コンの中では珍しくて、よかったです。細かいギャグも安定しておもしろい。
しかし、ロボ先輩はお好み焼きを食べれるのだろうか?
42. ケムニマキコさん「リヴァイアサン」
しっかりとパワハラ、お題、そして古賀裕人と向き合った作品。さりげなくポコルぺも効いていていいです。タマたちが踊り狂う展開の壮絶さが良かったです。勢いがヤバい。
リヴァイアサンといえばトマス・ホッブズ、かと思いきや関係なかったですね。
43. 洛杜きんるいさん「踊らせるほど美味しく」
コーヒーを踊らせるという発想は他にないけれど納得感もあってすばらしいです。丁寧な説明の途中でキレはじめる緩急が読んでいて楽しかったです。
44. 海音寺ジョーさん「村人Bとして」
思えば僕も二十歳の時は三十歳までに芥川賞をとる予定でしたが最近はそんな野望も持たなくなりました。最後のダンスシーン、語り手は野望を取り戻したのか、それともこれが野望とのラストダンスなのか、どちらとも受け止められる余地があってよかったです。
45. 万庭苔子さん「スパニッシュダンサー」
静かな店内から、暗い生物飼育室へと話が展開される。舞台設定がいいです。好み。光が遮断された世界で映える「エキセントリックなデザインや、サイケデリックな色彩」が美しい。。テグリくんの「らくだの耳だ、ぼくは」というセリフも謎めいていてよかったです。
46. 生駒通子さん「キリンが見上げている穴の底」
とても知的な作品。「キリン」が僕たちの知らないキリンのようでもあり、僕たちの知っているキリンのようでもある、もしかしたらその両方でありえるという、私たちの日常的な認識に異議を問いかける。日常的であると同時に世間を超越した描写がよかったです。
47. 平沼辰流さん「エアロ・イコノクラスム」
文章が最初から最後までかっこいいです。遥かなロマンを感じました。こういう作品が書けるようになりたいです。
48. オガワメイさん「ショウリョウバッタのダンス」
これはすごいです。みんな読んだ方がいい。
虫をすなおにかっこいいと思う感性が好きです。バッタが自分のことをかっこいいと言い切るところもいい。みえとかじゃなくて本当にそう思っている。自然な自信。そして、「みぎ いって ぴょん」からはじまる、バッタのダンスがかわいすぎます。
49. 谷亜里砂さん「ダンスをご覧ください」
完成度が高いSFファンタジー作品。文章が安定していて素晴らしいです。卵型の船の正体がわからないところや、ウイルスが肩透かし?なのか、というところなの、考察の余地があっておもしろかったです。
50. 百目鬼 祐壱さん「牛窓徹」
人生の悲哀を味合わせてくれる佳作。
「醜悪は非凡の専有物ではない。平凡な醜悪こそ、もっとも救いのない代物だ」という一文に、古典作品の中で出会うような重厚感があります。
突き放すような終わり方もいいです。人間同士がわかりえたような気分になれるのは一瞬だけで、結局は孤独に生きるしかないという事実を突きつけられたような気がします。
51. 我那覇キヨさん「ダンス・ダンス・デッドダンス」
「デッドダンス」というゲームのことはこの作品で知りました。
「あんまりいいゲームじゃない」はずなのに、ちょっと遊んでみたくなるのは文章の力だと思います。今回もありがとうございました。
52. 日よりさん「もわもわ」
表現が本当に「もわもわ」していました。やわらかさと優しさを感じます。「本日は」からはじまる、文章のテンポが切り替わる場面もよかったです。感動を押し付けないところが好感がもてます。
53. 大福さん「今宵、貴方が王子さま」
すてきな作品でした。短編としてとても完成度が高いと思います。
大沢さんのキャラクターがいいです。とても暖かい気持ちになりました。二人のその後を描いた続編が読みたくなります。
54. えこさん「ポ・コルペ ポコ・ポ・ルペ ー王の舞ー」
壮大なファンタジー作品。まさかポコルぺで感動するとは思いませんでした。一時間で書いたとは思えないほど展開が巧みです。
55. 秋待諷月さん「イワシダンシングの実験金魚」
大学のよくわからない実験はあるあるですよね。僕も学生時代にいくつか参加しました。イワシと金魚がヒレを取り合いダンスするという発想が面白いし、見てみたくなりました。
56. 和立 初月さん「Odd Dance」
「ダンスをご覧ください」というテーマのわりには少なかったアイドル小説を楽しめると思っていたら、なんでラスコー洞窟に?という超展開が楽しかったです。「山野の姿はラスコー洞窟にあった」は伊藤の間違いかなと思いましたが(僕の勘違いだったらすいません)、結果的にカオス感が増していてむしろよかった気がします。古賀コンだからね。
57. 野田莉帆さん『春を告げるクラゲ』
王道の恋愛小説。彼女はどうして五年間成仏しなかったのか。そして、どうしてクラゲのダンスを見て、頭をなでられて成仏したのか。幻想的で美しい作品でした。
追記
本当に申し訳ないです。読み間違えていました。「ときどき、彼女は現れる。そして、突然いなくなってしまう。まるで夢だったかのように、ふっと消えてしまうのだ」という文があるので、「いつのまにか、彼女の姿は前触れもなく消えていた」と最後にあっても成仏したことにはならないですね。恥ずかしいです。野田さん、すいませんでした。
追記2
「成仏した」という表現を使ったのは適切ではなかったと思いますが、彼女(幽体)が最後の場面(、またはその後)で完全に消えてしまうのではないかと解釈したことには自分なりの理由があります。
①自殺してすぐ、語り手(僕)の前に彼女が現れた場面の描写。
「もう思い出せないの」と、彼女は言った。「水をこぼしたみたいに記憶が薄くなっていて、あなたのこともいつまで覚えていられるかわからない」
ここから5年が経った水族館の場面では、彼女の記憶はかなり薄れているのではないか。また、存在もかなり薄れているのではないか、と読みましたが、今思えば少し踏み込み過ぎったのかもしれません。
②物語の終わりに近いシーンに以下の描写があります。
「生き返りたいな」と、ぽつりと彼女がつぶやいた。
「もう遅いけどね」淋しそうにクラゲを見つめている。
僕にとっての彼女は、ずいぶん歳下の女の子になってしまったなと思った。彼女だけが永遠に、歳を取らない。
自殺した直後に彼女と話すシーンと比べて、僕の彼女に対する気持ちに少し距離があるように感じました。「ずいぶん歳下の女の子になってしまった」という部分が特に(あくまで僕の解釈です)。死んでから年をとらない彼女とは違い、「僕」にとっては五年というのは長い年月だと思います。
この描写が「もう遅いけどね」という「彼女」のセリフの直後にあったので、「彼女」は「僕」の気持ちが離れはじめていると感じているのではないか。そして、「彼女」も「僕」から去る決心をしたのではないか、と読みました。
序盤に
「恋人はいないの?」何回めかに現れたとき、彼女はそう僕に聞いた。
「なかなか、君みたいな物好きな人がいなくて」と、僕は答えた。
「そんなことはないと思う」と、彼女は真剣な表情になった。
というやり取りがあります。「真剣な表情になった」というのが個人的にはひっかかりました。「彼女」は「僕」に新しい彼女をつくるなどして前に進んでほしい、そうしたら「僕」の前から消えるつもりだったのかなと読みました。一方で、「彼女」は「僕」に対する愛情もある。だから幽体として5年間「僕」の近くに時々、現れ続けた。でも、ついに止まっていた時間が動きはじめる。
改めて考えてみると、「春を告げるクラゲ」というタイトルから、2人が新しい方向に踏み出す作品だ、という先入観を持っていたのは事実です。
今思えば、「もう遅いけどね」は自殺したことに対する後悔と読むのが自然だったと思います。(野田さんからも、そういう意図で書いたという返事がありました)
後で、「彼女」の存在自体が「僕」の思いがつくっている幻想、という解釈を他の方がされているのを知り、そっちの方がおもしろいなと思いました。(野田さん自身もその考えに近いようです)
感想が長くなってしまいました。野田さん素敵な作品+対応ありがとうございました。
58. 洸村静樹さん「踊り手と虜」
洸村さんらしく崇高さを感じる詩的な作品。一文目から文章に対する誠実さを感じました。「白い雪原」や「つばさ」という言葉を使った瞬間に大事な部分が切り落とされる。だけど、文学を書くなら言葉で、言葉を使って表現するしかない。言葉の限界と可能性に挑むという洸村さんの文学的姿勢の宣言として読みました。
59. 樺島ざくろさん「ダンスは上手く踊れない」
丁寧に家族の交流が描かれた佳作。「窓は、暖かい部屋の内側から拭く係と、寒いベランダ側から拭く係に分かれて磨く」のような日常を細やかに切り取った描写が好きなので、読んでいて幸せになりました。
60. 門前日和さん「鉄板」
熱い鉄板の上で踊る、というネタは今回の古賀コンで多かったですが、自分からやろうとするのはヤバいです。最高です。「自分が焼ける匂いがした」とか冷静に分析しているのに笑ってしまいました。
61. 所沢海行さん「スプラッシュ!」
カオスなイメージがあふれる作品。シュールでおもしろいです。
最後の「水の流れる音がした。」でトイレの詰まりがなおったのかなと思いました。
62. くさのこうやさん「からからから から」
二人の愛情が伝わってくる読んだだけで幸せになれる作品でした。文章からうれしそうな声が聞こえてくるようです。今回も素敵な作品をありがとうございました。
63. はんぺんたさん「サンタには効かない儀式」
小学校低学年の男子の、いい意味でバカっぽい感じが出ていてよかったです。心が温まりました。最後のシーンも上手で、うまくまとまっていたと思います。タイトルもうまいです。
64. 波野發作さん「Look at my dance.」
就活をしたことがないのですが、こんなに面白いなら経験しておけばよかったなと思いました。社会勉強になります。小説としての完成度が高く、一気に読み終えることができました。見習いたいです。
65. 和泉眞弓さん「夢は解釈をきらう」
彼女のパニックの原因は何かと探る解釈をきらう作品。もちろん、タイパを重視しすぎた現代社会や育児や親子関係など、原因らしきものはたくさん登場するけれど、どれも原因ではないのかもしれない。そしてこの作品自体も安易な解釈をきらうしたたかさを感じました。
66. 大杉玲加さん「反転」
ダンスシーンの描写が好きです。丁寧かつ繊細な身体表現。
「右足を伸ばし斜め前方へ、ゆっくりと床におろす。かかとからおろした足を膝を曲げて勢いをつけて爪先へ、そして地面を蹴る」
とか
「少しの間、暗闇を見つめる。ひとつ息を吐く。私は舞台の中央に振り返って右手を伸ばす。ゆっくりと前に半円を描くようにして右手を上げて、からだの前で左の手のひらと合わせようと思うのだが、すれ違う。左手をそのまま真上に伸ばして、後にあった暗闇のなかに半円を描いて戻ってくる。その左手を右手は押し、外側へと押し出された左腕の反動で私はターンをした」
とかすごくいい。引用が長くなってしまったけれど、もっと引用したくなります。
「ダンスをご覧なさい」というお題に正面から取り組んだ、爽やかかつ完成度の高い作品だと感じました。
67. 桜雪さん「真実の愛なんていらない」
いろいろな作品のパロディーが組み合わさっていて最後まで楽しかったです。「ば、ババアが立った!」に笑いました。「真実の愛なんていらない」というタイトルも力強くていいです。
68. なんようはぎぎょさん「ダンスをご覧ください」
現代の若者の感覚をうまく描いた作品だなと思いました。未完ということで評価が難しいですが、最後の与謝野晶子が気になるので続きが読みたいです。
69. はしもとゆずさん「わたしの心臓はピンクに染まる」
今回は文字メインの作品ですね。もちろん、イラストもかわいい。
イメージカラーがピンクで今年三十一歳ということは知念侑李くんかなと思いました。たしかに、昔はかわいかったですが、最近はかっこよくなりましたよね。
52分ならギリギリではなくない?筆が早くてうらやましいと思いました。
70. 南国アイスさん「ダンスをご覧ください」
まぶしいくらいの青春を読ませてもらいました。「行かない理由なし!」とかセリフがいいです。「ステージの名は、日常。」とはっきり書ける強さがすばらしいしうらやましいと思いました
71. 鮭さんさん「占い」
「警察と対峙する。警察と対峙するぞ」とかヤバくて笑いました。「警察に引き剥がされ別々に事情聴取を受けるのだ!さあ頑張るぞ!」とか意味不明ですごいです。
72. 柚木ハッカさん「スナイパー・スナイパー」
ハードボイルドな雰囲気の作品。トランプ大統領の狙撃事件を題材にしたのでしょうか?
やっぱりイケオジのスナイパーはかっこいいよね、と思います。楽しかったです。
73. 紙文さん「求愛のダンスおじさん」
冬にぴったりな作品。なぜだか序盤は文章から村上春樹っぽさを感じました。
冷静な部分と狂気のバランスが上手いです。ラストシーンには謎の爽快感、開放感があります。そして、北海道に行きたくなりました。
74. 海人さん「ダンスをご覧ください」
運動神経が悪い仲間たちと集まりパッとしないダンスを発表するというのが自分にも体験があって、話に入りやすかったです。林さんの「体育が下手な生徒ばかりを同じグループにするような体育教師のいい加減なやり方に腹を立てていたのだろう。それが、私が提案するテーマ曲に片っ端から反対するという形で現れたのだと思う」という繊細さを掬い取った描写がいいです。
作品ではがんばって踊った結果、ちょっと学校生活が好転したようで、よんでいる僕もうれしくなりまりました。
75. 萬朶維基さん「HEN OF THE WOODS」
萬朶さんらしい完成度の高いホラ話。最高です。何がすごいって、知識量。『今昔物語集』の「尼共、入山食舞茸語」とかタッシリ・ナジェールがちゃんと実在する。ジョルジョ・サモリーニやテレンス・マッケナも適当な人名をつくっているのかと思っていたら実在の人物。
「まいたけダンス」は萬朶さんのこの作品で知りました。古賀コンの感想を書くのに忙しくて、あまった時間はありませんが、楽しく聞いています。
76. 三上アルカさん『ラストダンス』
正統派のダンス小説。本来は6枚目で完結する作品のようですが、時間が足りなかったようです。古賀コンあるある。
個人的には、5枚目の最後、「私は裁判にかけられ、判決を言いわたされた」で十分話はまとまっているのではないか、これはこれで余韻があっていいのではないかと思ったりします。
もちろん、作者さんの理想の形で読んでもらえるのが、作品にとって一番だとは思いますが。
77. 蒼桐大紀さん「それでは、ダンスをご覧ください」
今回は百合ではなくてSFですが、やはり完成度が高いです。「踊っていれば、踊り続けていれば、舞台がなくなってもまた踊れるようになります」
「だから、踊るんですよ。最後まで。自分が決めた最後まで」というセリフに僕も書き続ける勇気をもらいました。
78. 日比野心労さん「ひらけ! 天の岩ポーゥ!」
神話ネタか、と思わせてからの超展開。壮大なバカバカしさ。
盛り上がり方がいいです。読んでいる僕もポーゥ、と気分が上がりました。
79. 暇崎ルアさん「ダンス・マカブル」
実話風ホラーでしょうか。叙述が巧みです。話し手の高飛車な感じがおもしろい。ホラーとダンスは相性がいいなと改めて思いました。
80. うたかたさん『情熱で……なんとか』
現役の芸人ですか?というくらいライブシーンにリアリティがあっておもしろいです。コンビの二人や後輩の人間性の良さに好感が持てます。オチも見事で心が温かくなりました。
81. 高遠みかみさん「シー・モア・ダンス」
「彼女は胎児のころから踊るのが好きだった。」という一文目から高遠みかみさんの世界です。異常な設定をさらりと納得させる筆力はさすがです。(こういうときはドームに喩えるのが一般的であるが)などのツッコミも安定しておもしろかったです。踊り死ぬという展開はゾラの『居酒屋』を連想させるユーモアと絶望感がありました。
それで作品が終わらず、場面転換。感傷を許さないクールさが素敵です。
82. 筒井透子さん「みよちゃんへ」
とても叙述が巧みな作品。文章が安定しています。語り手がどの程度ボケているのかがわからないスリリングさが最後まで楽しめました。
83. 寒竹泉美さん「見えないダンス」
理系っぽい知的な作品でした。
「それって運命みたいじゃないか? と、言ったのが物理教師だったのか、あとからわたしが自分で思いついて記憶を捏造してしまったのか、今ではもうわからない」という記憶の不確かさに対する叙述が良かったです。
84. 笹慎さん「世紀末ダンスバトル」
ダンスで発生する衝撃波って何?という細かい疑問はふっとばす爽快な作品。妻からの愛に気づいた時に、自分が妻を殺したしまったと気づくシーンには謎の感動がありました。
85. 入谷匙さん「踵を鳴らしますか?」
大学生の日常を描く内容かと思いきや、意表をつく結末につながるのがおもしろいです。
「Y橋」は佐藤洋二郎の「Y字橋」と関係があるのでしょうか?
86. 泊木空さん「県民ピアスホール」
会話だけで構成された作品。テンポがいいです。「なんでも、ネーミングライツの権利を賭けて余所者のお偉いさんが殺し合いをするらしいよ」で笑うと同時に、現実にもつながる真理だなと思いました。
87. 永田大空さん「12/09 your blank」
言葉が空から雪が舞うようにゆっくりと落ちてくる、または羽が舞うように上っていく。ふつう日本語の文章は左から右、上から下へ読んでいくが、この作品では読者は上下左右斜めに、読んでいくことになる。この作品を本当に読むためには。
僕は作品の一部を引用して感想をごまかすのが得意技?なのだけど、この作品ではそれができない。それぞれの言葉は置かれた空間において、周りの言葉との関係によって意味が形成される。一文だけを抜き出して成り立つのが名文とされている、僕もある程度はその考え方に同意しているけれど、そうした考え方に変更を強いられる。硬直した思考が分解されていくのを感じる。
改めて読み直すと、スマホの画面で読んだ時と、パソコンの画面で読んだ時で、印象が変わった。一文字一文字を一直線に追っていけばいい普通の作品と違って、画面の大きさ、言葉と言葉の空間・距離によって、作品の読み方だけでなく、意味まで変わる。
「それで、」からの段落で語りが加速する。風視点、道視点の描写の後であらわれる「私」は誰なのか。そんなことはどうでもいいと思えるのがすばらしい。
すてきな作品をありがとうございました。
88. げんなりさん「踊っているのでないのなら踊らされているのだろうさ」
げんなりさんらしいハードボイルドな雰囲気のある作品。今回はちょっと詩的でかっこよかったです。
そして、カニクリームコロッケが食べたくなりました。
89. 木西 炎東さん「誰がために踊る」
シュールな作品。横浜駅前の雰囲気を思い出します。
しかし、女性の踊りで本当に世界が救われたような気になるのは僕だけでしょうか。一心不乱に踊る姿に静かな迫力がありました。
90. 群青 すいさん「みてますか」
群青すいさんらしい丁寧で美しい詩。天上の静謐と地上の汚さがうまく対比されていたような気がします。「わたしたちがそれにおどらされるのを」という結びにドキッとしてしまいました。
91. 睦八 五十一さん「終わりのダンスをご覧ください」
お好み焼きネタはやっぱり鉄板でおもしろい。
そして、あとがきも良かったです。
「もうね、創作の世界なんてね、かぶりかぶられですよ。
気にしてたらなんも書けない。
書いた先で差をつけていくしかないんですわ。」
は共感できます(特に古賀コンではそう)
「参加したことに意味がある。」というのもその通りだなと思います。
92. 杏杏さん「クリスマス発表会」
え、死んでたの、という内容を、最後まで育児ブログみたいな文体で描いたのがユニークでした。リアリティがすごい。そして、軽さがすてき。また、自分が死んだことより、夫が娘の幼稚園の先生と結婚することに驚いているのがいい。
93. サクラクロニクルさん「ダンシング・ウィズ・スプリングフィールド」
今回の古賀コンの最多文字数はやはりサクラクロニクルさん。量は正義。さすがです。
少女の繊細さが今回も見事に表現されています。アイスダンスという着眼点もいいです。冬にぴったりなのに他にいなかった。最後が寸止めなのも、サクラクロニクルさんらしいくていいなと思いました。
94. 化野夕陽さん「ダンサー」
全作品を読みましたが、もっとも「ダンス」と真摯に向き合った作品でした。はじめから最後までダンス愛に満ちています。短い作品の中で三世代、四世代の家族の歴史を描き切っているのがさすがだなと思います。
「祖母の舞いは、ますます、磨きがかかっていた。かといって、別に恐ろしいほどの凄みというのでもない。そこはぐっと抑えてあるのだ」とかすごい名文だなと思います。
全作品を読み終えた後で化野さんの作品に投票しました。今回、僕は自分の作品に自信があります。いろいろなものを賭けています。だけど、化野さんの作品に負けるなら仕方ないと思ったのが、投票の理由です。
なんだか上から目線かつ勝手な理由ですいません。
95. 只鳴どれみさん「満ち満ちて」
「シュッ、シュッ、ウエストポーチ」で笑いました。「手足をベネベネさせながら」もヤバいです。読んでいる僕もめくったり、めいたり、めくらなかったり、はたまた全くめくれなかったりしながら、満ち満ちてしまいました。
96. ハギワラシンジさん「舞踏転生」
最後まで正気に戻らず勢いで駆け抜けたところが良かった。途中で緩んでいたら0点だったけどやりきったから100点。ギリギリを責めていた。面接に行くフリをするシーンはわかっていても泣いてしまう。
文章のノリについていけないという方に、これだけは知ってほしい。このテンションでなければ書けないような現実があるんです。
こういう話が読みたかったんです。ありがとう。
97. 継橋さん「身勝手な復讐」
復讐のために費やした時間と労力から、冷静な文章の底に隠した語り手の感情の強さが伝わってきます。「くだらない理由」という言葉とは裏腹に、語り手にとって細金への思いが大切だったかが読者はわかる。今回の古賀コンのテーマの生かし方、「私のダンスを、見ろ!」というセリフも、とても上手だったと思います。
98. 津早原晶子さん「ねぇ、Ba-dee-ya」
僕の作品の影響を受けた作品?すいません。
先輩を見習って、僕もダンスを練習しようかなと思いました。立派なミラーボールを目指します。
ハゲがニット帽をかぶるのは照れ隠しというより防寒のためな場合が多いというのが個人的な意見です。またはファッション。ハゲを隠す目的で帽子を被ってもむなしくなるだけです。
99. うさみんさん「踊るちくわ」
漫才のような作品。次々と場面が変わるテンポ感がいいです。
『古賀さんコン』と呼ぶべきではないか、という指摘は鋭いなと思いました。
100. 伊吹 真火さん「そしてわれらは夜明けの中」
冒頭の香港行きの飛行機についての描写から異境へと連れていかれるような感覚になります。ベビーの夢についての文章も幻想的なのにリアリティがあってすごいです。「日本語では到達のできない世界。」をあえて日本語で書こうという難しい試みに挑んだ野心的な作品。終わらせ方もかっこいいです。
101. rta太郎さん「鉄板焼き」
ストレートな鉄板焼きダンス作品。グロいのが好きな人は楽しめるはずです。ヘラで人間を鉄板に押し付けるシーンが、僕は割と好き。
102. 冬樹まささん「わがダンスをご覧あれ!」
古賀コンには珍しい時代小説。時代の雰囲気が出ています。
僕は時代小説を書こうとして挫折したことがあるので勉強になりました。
103. 碧 はるさん「錠剤と」
デエビゴという睡眠薬を飲んだ後を描いた作品。幻覚世界の描写がいいです。
もしかして、本当に飲んで書いたのでしょうか?というくらいの本物らしさがあります。
104. 常森 拓ミさんさん「加熱するアイランドキッチン」
「玄関モニターに映った母ちゃんは、まるで巨大な戦車だった。肩越しに背負った長ネギが主砲のようだ」という出だしがいいです。
お母さんのキャラもいいし、「内から湧き出るこの“旨い”という歓びを、表現せずにはいられんねや!」と踊りだす語り手もいいキャラです。
爽快でテンポがよくて楽しい作品。いい親子だなと羨ましくなりました。
105. ひなたひつじさん「おおあごぐぱぁ」
出だしは児童文学かな、と思ったので、突然クモ太郎の情欲が迸るのを見せられて驚愕しました。ほのぼのとした文章、クモ太郎の欲望、アリとアリグモについての細かい描写が合わさり、斬新なカオスを形成しています。クモ夫が登場してからの展開もいいです。
古賀コンならではの怪作を楽しみました。ありがとうございます。
106. 坂水さん「彼はダンスが下手なので」
完成度が高い作品です。文章も構成も美しい。
離島で自分の意のままに従ってくれる美人を娶るという男の欲望を、完膚なきまで見事に踏みつけてくれます。
107. 花鳥あすかさん「嵐山乱惨」
二作連続の踏みつけ作品です。
恵まれているように見える人間でもストレスはあるということを教えてくれます。瑠璃様は「げらげらと笑いながらホテルから続く坂を転げ落ちた。そして、雨をはけきれない夜の渡月橋を身一つで駆け抜けて、見る者がいないのを良いことにジャンプやターンなどもしてみた」などかなりアクティブですね。日傘の骨を折るのもかなりの脚力がいるでしょう。そんなところも素敵です。
108. 和生吉音さん「Take it easy、Enjoy the dances」
ショートショートとしてうまくまとっている作品だなと思いました。これでもかといろいろなダンスが出てきて楽しかったです。
「オンライン仏壇のアプリ」を調べたら、ちゃんと実在して驚きました。もちろん死者からのメッセージは届かないみたいだけど。
109. 長尾たぐいさん「ふりふり・ふりふら・ふりふり」
LOVOTみたいなロボットに癒されます。僕も買いたくなりました。
しかし、作中に不穏な雰囲気が挟まっていることも感じます。「にこぼはしっている。すべてを、すべてを。みてごらんよ。みせてあげるよ」とかちょっと怖くて、作品のアクセントになっていたと思います。
110. 栗山 心さん「レビュ-の夜」
前回の古賀コンのテーマ「架空の☆1レヴュー」を思い出すタイトルがうれしい作品。十二月感満載でよかったです。「冴ゆる夜に良いお年と別れをり」でもう今年が終わってしまうことを実感し、さみしくなりました。
111. ときのきさん「教えてあげるよおじさんの憂鬱」
切れ味のある作品。
教えてあげるおじさん達にも苦悩があるという着眼点がいいです。どうしょうもない苦悩ですが。「歳月により磨かれることなく随所ががたぴしと錆びついたアクロバティックな絶技」とか最高でした。
僕も文芸おしえてあげるよおじさんにならないように気をつけたいです。
112. さかしまテトラさん「Survival Bon Dance」
「目からレーザービームを出すようにカード上の『サム』の字を睨みつけた」とか「まさにゼロサムゲームだ」とかいいです。笑った。謎の大会を真面目な文章で描いたところがよかったです。サムが死んでからラストシーンへの流れには謎の感動がありました。ダンスに対する情熱が胸を打ちます。
TRFネタが多いのは、やはりダンス=TRFというのが令和においても健在ということなのでしょう。
113. 空の色さん「ダンスをご覧ください」
彼女に騙されるとかみかんに毒が入っているのかと思いきや、ただ幸福なカップルを見せつけられました。うらやましいです。
114. 桜木潮さん「ダンスが食べたい」
今回の古賀コンは118作品と歴代最多ですが、ダンスを食べようとしたのはこの作品だけです。発想の勝利。おじいさんがセルフ丸焼きになるシーンで笑いました。「ダンスは、国境も人種も性別も年齢も、あらゆる壁を超えるんだ!」というセリフには感動します。
初参加とは思えない古賀コンを象徴するような名作だと思います。
115. 持野キナ子さん「煌々と輝く。」
おばあちゃんとの交流を描いた感動作。万華鏡の使い方が見事です。美しい物語でした。
116. 堀部未知さん「やわらかいとき」
「よくわからない文章」なのに最後まで飽きずに読めるのはすごい筆力です。ユーモアと知性がやわらかく調和しています。出だしの不安さがはぐらかされていくのがおもしろいです。「ヒアシンスハウス」が妙に印象に残ります。
117. 若山香帆さん「降臨」
異常な事態がさらりと描かれているところに筆力の高さを感じました。僕も怪獣と一緒に住みたくなります。でも食費がかかりそう。
118. かいばみさん「テラウヨ、キヲ」
ほとんど句読点がない息の長い文章が独特の読書感を与えてくれる実験的作品。「息子3人を理系の大学の院まで進学させたシングルマザーの自伝と初回限定特典のオフショットDVD」などのユーモアと「金曜がこない病気」などの不穏さが融合していておもしろいです。
史上最も混とんとしていた古賀コン7の最後にふさわしい、カオスな作品だったと思います。
最後に
この感想が僕のポコルペです。
追記
洛杜きんるいさんがより丁寧な感想を書いてくださいました。ぜひ読んでください。
蒼桐大紀さんも全作感想を書いてくれました。とても丁寧に作品と向き合っています。