「君たちはもっと本を読むべきだ」
今回書くのは私の創作ではありません。故人の言葉の紹介です。
その方はT田先生、私が高校一年の時のクラス担任。英語の先生で、たしかフランス語もできる方でした。
細身の男性で、顔もどちらかというと細長くとがった感じで、今思えばシャーロック・ホームズの役が似合いそうな人。そうそう、喋り方も特徴的で、テレビで視たホームズに雰囲気が似ていた気がします。
その先生があるとき、クラスのみんなにいいました。
「君たちはもっと本を読むべきだ。作家が何年もかけて書いたものを、わずか何百円かのお金でで買うことができるのだから。」
はじめの「君たちはもっと本を読むべきだ。」は、一語のまちがいもなく、このとおりだったと記憶しています。そのあとは、どういう言葉を使ったか細かく憶えてはいませんが、意味するところはこのとおりです。
作家は一冊の本を書き上げるのに長い時間をかけています。短くても何ケ月、長い例では何年間もかけています。それを文庫本だと、ン百ン十円で買って読んで、自分の栄養にできるのですから、本を読まないという手はありません。
私個人の話をさせていただくと、そのあと高3の年に学校の図書室で『若草物語』に出会いました。翻訳は恩地三保子先生、旺文社文庫の特別版で薄緑色のハードカバーでした。この本にものすごくはまり、四姉妹がディケンズのファンだというのでディケンズの作品もあれこれ読んだことを記憶しています。
高校卒業以降、T田先生とお会いすることはありませんでした。風のうわさで病気で他界されたと聞きました。
T田先生には授業で英語を教えていただきました。教えていただいた文法や英文を読むこつは大人になってからずいぶん役に立ちました。英語を使って仕事をしたり、人気のファンタジーを原書で読んだりしました。
でも、自分にとって もっとも栄養になったのは「君たちはもっと本を読むべきだ。」という、この言葉かも知れません。
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冒頭に書いたとおり、これは創作ではありません。
願わくば、シャーロック・ホームズ似のT田先生のこの言葉がいろんな人に、とくに十代の人たちに届きますように。
2024.09.03
(見出し画像は、みんなのフォトギャラリーから)