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執筆の地を知らずに素通りした私も今なら言える。「『白鯨』ってすっごく面白いんですよ‼️」

「白鯨ってすごく面白いんですよ‼️‼️‼️‼️」

年明けにSNSで流れてきたこちらのツイート…じゃなくてポスト。

勇気が出ずにタイミングを逃してしまいましたが…生命科学系博士&英日翻訳者の私からも言わせてください。

白鯨ってすごく面白いんですよ‼️‼️‼️‼️

すっごく面白いので…現代科学の目でハーマン・メルヴィル著『白鯨(Moby-Dick; or, The Whale)』を解剖(文字通り)してしまう本を訳しました。

▼それがこちら▼


『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち :『白鯨』でひもとく海の自然史』リチャード・J・キング著、坪子理美訳(慶應義塾大学出版会)

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち :『白鯨』でひもとく海の自然史』
リチャード・J・キング著、坪子理美訳(慶應義塾大学出版会)
坪子理美|思いを「つなぐ」サイエンティスト|TSUBOKO Satomi, PhD

元祖『白鯨』にも負けない上下巻組。


『クジラの海をゆく探究者たち』ってどんな本?

小説『白鯨』を現代の科学でとことん解体

小説『白鯨』は、その名の通り巨大な白いマッコウクジラをめぐる長大な物語。
白鯨「モービィ・ディック」を追う捕鯨船での不穏な人間模様と、淡々と綴られる博物学的記述とが絡み合います。

この小説『白鯨』を現代科学の目で大胆かつ精緻に解体していくのが、『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち :『白鯨』でひもとく海の自然史』です。

原書が発売されたアメリカの読書サイトレビューでは、「この本のおかげで初めて『白鯨』を完読できた」との声も。

海洋小説である『白鯨』がマサチューセッツ州のいちばん内陸で執筆された背景ですとか、
(何せこんなところなんです…↓)

米国マサチューセッツ州内陸部で撮影。こんな緑あふれる地で『白鯨』を書いていたメルヴィル。
坪子理美|思いを「つなぐ」サイエンティスト|TSUBOKO Satomi, PhD

生物学者たちによるガチ鯨学(解剖学あり、分類学あり、進化学あり、生態学あり)ですとか、
(※ 小説『白鯨』第32章「鯨学」は、読者を混沌の海へと放り込み、読破を阻む障壁として知られています)

小説に描かれた時代の航海技術ですとか、

『白鯨』という作品(とそこに出てくるモノ・生き物たち)をとにかく濃く深く解剖しています。


著者のリチャード・J・キング氏は海洋文学研究者

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち 』の著者は、海洋文学研究の博士号を持つリチャード・J・キング氏。日本語版のためにイラストを寄せ、オンラインでの意見交換にも応じてくださいました。

リチャード・J・キング(Richard J. King)
海洋文学研究者、ライター、イラストレーター。
セント・アンドリュース大学で海洋文学(Literature of the Sea)の博士号を取得。 同大で教員を務めた後、米国・ウッズホール海洋研究所内の海洋教育協会(Sea Education Association)で客員准教授を務める。 海洋文学とその背景にある海事・漁業文化を研究する傍ら、イラストレーター・コラムニストとして一般向け雑誌・ウェブサイトに寄稿。 過去25年以上にわたり、商業漁船乗組員・教育用クルーズ船講師として数々の航海に出ている。 著作に“Lobster” (Reaktion Books, 2012)、The Devil’s Cormorant: A Natural History (University of New Hampshire Press, 2014)などがある。

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち :『白鯨』でひもとく海の自然史』リチャード・J・キング著、坪子理美訳(慶應義塾大学出版会)著者紹介

自身も船乗りで、イラストレーターでもあるキング氏は、漁師や航海士など、海に生きる人々の生き様を描くルポルタージュや、海の生き物の不思議をイラストと文章で綴る本も出しています。


「横のものを縦にする」ことで現代の読者が『白鯨』を読み解けるようになる

英日翻訳はよく「横のものを縦にする」仕事だと言われます。

横書きの英文をただひょいと90°転がして縦書きの和文にするのではなく、
視野も文化背景も大きく転回させながら、あたかも元からその言語で書かれた文を読んでいるかのような感覚を読者に与える試み。

そして、『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち』には文字通りの「ヨコ↔︎タテ」の視野の転換が取り入れられていて、小説『白鯨』を現代の読者が読む上で大きな助けになっています。

水平方向(海の広さ)から垂直方向(船乗りが見張りに立つ檣頭の高さ、鯨が潜り、転落者が沈む海の深さ)へと移行する本書の視野に、「横のものを縦にする」英日翻訳の過程とどこか重なるものを感じながら翻訳を進める。(中略)
本書は私たち現代人が抱える矛盾や葛藤にも目を向けながら、ある時は生きた巨鯨を腑分けし、ある時は化石の断片からその全身を復元するかのように、人間を含めた海の生命のネットワークを浮かび上がらせていく。

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち』(慶應義塾大学出版会)
訳者あとがき 坪子 理美

小説『白鯨』を読み通せなかった人も、俯瞰し、解体することで味わいを楽しめるかも

冒頭でもお伝えしたように、小説『白鯨』はすごく面白いです。
でも、長いです。それなりに古いです。複雑です。
その背景には、著者メルヴィルが仕掛けた意図的な「わかりにくさ」と、作品そのものの魅力でもある本質的な「わからなさ」があります。

その「わかりにくさ」と「わからなさ」を大小のスケールで解きほぐしていくのが、本書『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち』の試み。
原書が発売されたアメリカの読書サイトレビューでは、「この本のおかげで初めて『白鯨』を完読できた」との声も出ています。

荒海にただ飲み込まれていくのではなく、その構造を俯瞰し、解体し、再構築することで、現代の私たちは小説『白鯨』を味わえるようになるのかもしれません。

私たちは時に視点を変え、視野を広げながら、変わりゆく地球の中で生きていかなければならない。海と人間のつながりは、もはや追い求めるものから迫り来るものへと変わっている。

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち』(慶應義塾大学出版会)
訳者あとがき 坪子 理美

訳者の個人的なおすすめ章

『クジラの海をゆく探究者〈ハンター〉たち :『白鯨』でひもとく海の自然史』を翻訳した私が、白鯨本編とのつながりから個人的におすすめしたい章はこちらです。

第18章 竜涎香――海に隠された香りの秘密

フレグランス、パフューム、お香など、香り好きの方必読
クジラと海が生み出す謎の香料、アンバーグリス(龍涎香)について。
『白鯨』作中でもいい味(香り)を出しています。

第14章 新鮮な料理――船上食と鯨肉

当時の捕鯨航海、やたら長いのです。大海原をゆく年単位の船旅。ではその間の食料はどうしていたのか? 『白鯨』の食事・料理シーンを含め、当時の捕鯨船の食文化を探ります。

第16章 実用鯨学――潮吹き、五感、頭部の解剖

マッコウクジラをはじめとするクジラたちの解剖学から、そもそも当時はなぜアメリカ東海岸から熱心に捕鯨船を送り出していたのか? という話につながります。

第25章 航海術――羅針盤と死の推測航法

某M:Iシリーズの副題にも使われた「デッドレコニング」の元ネタがこの「推測航法(Dead Reckoning)」。GPSに慣れた現代人には怖くて仕方がありませんが、それに頼るしかない時もあります。
ただ、ピークォッド号が推測航法に頼るべきだったかというと…? 続きは本書で。


さて、ここまであれこれ語ってしまいましたが…実は私も、数年前まで『白鯨』を読んだことはありませんでした。
手に取ることになったきっかけは、次の投稿で。 

坪子 理美(英日翻訳者、複業フリーランス)

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坪子理美|TSUBOKO Satomi, PhD|視点を「つなぐ」サイエンティスト
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