わたしの移動祝祭日
結婚って縁とタイミングだってよく言わるけど、きっとすべてがそうで、本との出会いも好きになるかどうかは縁とタイミングなんじゃないでしょうか。なーんて思えてきた最近の読書から、読んでよかったと共有したくなった一冊はこちらです。
◉移動祝祭日 アーネスト・ヘミングウェイ 訳・高見浩
「次は、何を読むかな?」と、Kindleのライブラリーをスクロールしていたら目に留まりました。いつ、なんで購入したのか、まったく記憶になくて驚きましたが、ちょうど昔の文豪の作品を読むことに意欲的になっているところだったので、今が読むベストなタイミングだった気がします。で、ハマりまくりました。
晩年のヘミングウェイが回想する、パリで暮らしていた20代の頃の物語。主に、若きヘミングウェイと作家・芸術家たちとの交流、愛妻との日々が描かれているのですが、活字を追っているだけで当時の雰囲気と、そこにいる人物の姿がありありと浮かんでくるんです。あまりにありありとしていたから、読み終えたときは喪失感のような切なさを感じたくらい。もしかしたらヘミングウェイも脱稿したときに似たような感覚になったんじゃないかと想像してしまいました。
エッセイのようですが、本人は前書きで「意図的に書かなかったこともあるし、フィクションと思ってもらって構わない」という趣旨のことを記載しています。フィクションということにしければ書けなかったのかもしれません。全体に漂うノスタルジーが、更年期を迎えているわたしとどこか通じて、ヘミングウェイという人物をこれまでなく身近に感じました。
読んだ後、東京で暮らしていた7年間の、忘れていた記憶(おそらく生きるために封をしていた記憶)が堰を切ったように溢れてきました。刺激的な面々に囲まれ、口をひらけばクリエイティブ論をぶちまけ、青いなりに真剣な愛に包まれていた日々…そうか、わたしにとっての移動祝祭日は東京だったのか。
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