🇬🇧 キュー王立植物園(Royal Botanic Gardens, Kew):持続可能な未来への緑の拠点

ロンドンのキューガーデンは、テムズ河に沿って広がる緑豊かな場所にあります。その歴史は王室から始まり、植物学研究、生態学、環境保護において国際的な重要性を持っています。今回は、キューガーデンについて、サステイナビリティへの取り組みにも焦点を当ててご紹介いたします。

キューガーデンの歴史

キュー・ガーデンのあたりは、中世初期キュー・ガーデンの南側にあるリッチモンドとともに狩りの場所として王侯貴族たちのお気に入りの場所でした。そのエリアに貴族の方が住み庭園として手入れされるようになったのは17世紀後半。現在のキューガーデンの土地は元々カペル家（Arthur Capelは、1641年にカペルの初代男爵に）が所有していました。王室との本格的なつながりは、 1718年にリッチモンド・ロッジ（1772年に解体）に父王ジョージ１世との確執を抱えていたジョージ２世（当時は皇太子、初代キュー公爵であるフレデリック・プリンス・オブ・ウェールズ）とその妻キャロライン妃が、セント・ジェームズ・パレスから移り住んできたことから始まります。ガーデニングを愛したキャロライン妃は庭園造りに夢中になったそうです。

キューパレス

この地が植物園となる過程で重要な役割を果たしたのは、ジョージ３世の母親オーガスタ妃です。夫フレデリックに先立たれた後、寂しさを埋めるかのように夫が進めていた庭園の整備を続行し、1759年に外国産の植物のための庭園が設立されました。オーガスタ妃は、現在にも残るオランジェリーやパゴダといった建造物の建築にも力を入れ、1768年までに熱帯植物も含めた2700種類以上の植物を集めたそう。1772年、オーガスタ妃の亡き後、キュー・ガーデンを引き継いだのがジョージ３世。農民王として国民から慕われたジョージ３世はキュー・パレス（当時はダッチ・ハウス）を住まいとし、キュー・ガーデンの改修・整備にいそしんだのです。1772年から1819年のジョセフ・バンクス卿の管理下で、庭園は有名になり、世界中からの植物標本を含むコレクションが大幅に拡大しました。ジョセフ・バンクス卿は、イギリスの自然科学者であり、1768年から1771年にかけて行われたジェームズ・クックの最初の太平洋航海に参加しました。この航海で彼は、多くの新種の植物を収集し、英国の科学研究をリードする役割を果たしました。

王室園芸園から王立植物園への変遷

歴代の王に引き継がれ、改修・拡大を続けていたキュー・ガーデンですが、ヴィクトリア女王が即位した際に王室の手を離れることになり、維持費の捻出問題に直面してしまいます。一般市民からは庭園を公共のものにするべきだという意見があがっていたため、議会はキュー・パレスなどの一部を除き、庭園を国立植物園とすることを決定。1840年に「キュー王立植物園Royal Botanic Gardens, Kew」が誕生し、一般公開されたのです。その後はヴィクトリア女王の後援のもと、絶滅に瀕している品種の研究や保護に力を入れ、植物学・環境問題の分野で世界的にも重要な役割を果たすようになりました。植物学研究機関へと転換してからは、世界中から収集された植物のコレクションがさらに増え、世界でも希少な植物種が栽培・展示される他、科学的な研究と植物の収集が盛んに行われています。特に温室や王立植物園内の庭園は、植物愛好家や研究者にとって重要なリソースで、植物学の発展に貢献をしています。

様々な観点から国際的な評価も高く、2003年、キューガーデンはUNESCOの世界遺産に登録されました。

キューガーデンが取り組んでいる生態系の保全と持続可能な資源管理

キューガーデンは生態系の保全にも大きな役割を果たしています。世界中の植物を収集・保存し、絶滅危惧種の保護と復元に取り組んでいます。また、生態系の健全性を研究し、環境保護プログラムを実施しています。例えば、世界のどこかの地域が自然災害や戦争などで、その土地の植物が全滅してしまった場合、キューガーデンでは種の保存をしているので、それを現地に提供し環境を復元させ、保護するということも実際に行っています。それにより、多くの重要な植物種が保護され、絶滅の危機から救われています。

また、キューガーデンは持続可能な資源管理にも焦点を当てており、植物ベースのソリューションや持続可能な農業の推進に取り組んでいます。植物を利用した食品、薬品、エネルギー源などの開発にも貢献しています。

キューガーデンは気候変動が植物の分布に与える影響も研究していて、気温上昇や降水パターンの変化などが植物の生態系に及ぼす影響を評価しています。これにより、将来の気候変動に適応するための戦略を開発するのに役立っています。

サステナビリティへの取り組み

キューガーデンのクリスマスはサステイナビリティにも配慮

2005年、キューガーデンは世界で初めてISO14001の認定を受けた世界遺産となりました。ISO14001は、国際的に合意された環境管理の規格で、資源の効率的な利用と廃棄物の削減をし、環境に優しい運営を行なっています。
例えば、ネットゼロ対応電気ヒートポンプが設置されていたり、持続可能な行動を実際に目にすることができるようにしている場所もあり、ファミリーキッチン＆ショップには、屋根の太陽光パネルから生成されるエネルギー量をリアルタイムで表示するディスプレイが設置されています。

11月15日から始まる、Christmas at Kewでも、以下のような取り組みをしています。

①LEDの照明
照明はできる限りLEDを使用。今後数年間で、キューのクリスマストレイルのアート作品の照明を100％LEDに移行するように計画しているそう。（現在のLED率は75％）トレイルの照明のプランを立てる時に、安全上の理由から必要と判断された場合にのみ使用されていて、小道の連続照明を避けているそう。小道の連続照明を避けるのは、エコロジーの観点からです。

②再生可能エネルギー
2013年にキューでのクリスマスが始まって以来、キューでのクリスマスチームはエネルギー使用量を削減し、持続可能な電力を調達する方法を模索しています。可能な限り、再生可能エネルギーを使った主電源を使用していますが、庭園が広いため、電力が供給されていない場所では臨時の発電機の使用を行なっています。2020年からHVOバイオ燃料発電機（Hydrotreated Vegetable Oil：植物油脂から製造される再生可能ディーゼル）の試行を開始し、今年のキューでのクリスマスはすべての発電機が再生可能なバイオ燃料で稼働しています。

③廃棄物管理キューガーデンのクリスマストレイルの途中には、ホットドリンクを飲める場所も多数あります。そこで利用されているカップにはプラスチックを使用せず、リサイクルもコンポストも可能です。また、カップ1箱につき10本の木がEden Reforestation Projectによって植えられています。すべての屋台では、ビーガンやベジタリアン向けのメニューも提供し、トレイルには使い捨てプラスチックは一切使用していません。また、ガラスやプラスチックのゴミもリサイクルしています。 プラスチックフリーの堆肥化可能なパッケージの使用を促進するため、サプライチェーンと協力しているそうです。

④野生動物や木へも配慮したクリスマスデコレーションキューガーデンでのクリスマスのデコレーションは、期間限定とはいえ常駐する野生動物に迷惑がかからないように庭園内の照明や音響の配置には細心の注意を払い、コウモリやアナグマ、傷つきやすい樹木を保護しています。木々のライトは、樹木を最もよく知るキューガーデンのチームによって行われ、樹木の保護も重要視しているそうです。

Christmas at Kewは、2023年11月15日から2024年1月7日まで開催されています。
https://www.kew.org/