【ショートショート】宝石
とある小さい街で、宝石展が開かれた。
ビルひとつない寂れた街だったので、数年に1度の大イベントだった。
その宝石展では世界にひとつの大宝玉が展示されるという情報が入った。
名前は「ナイトダイヤモンド」
なんとも不思議な宝石で、水よりも澄み、昼夜で見え方が異なるそうだ。
人々は宝石展に殺到した。入場料は決して安くはなかったが、寂れた世の中にとってその宝石を見ることは人々の希望となった。
ナイトダイヤモンドは少しでも光が当たると変容してしまう。そのため展示は厳重で、黒く分厚い遮光幕に囲まれた小部屋にショーケースが置かれ、人々はその外側から遠目に見るより他なかった。
「おお、あそこにナイトダイヤモンドが。なんと神聖なのだ。近づけただけでも天に召されるような心地だよ。」
「本物の宝石というのは見ずともその神々しさが伝わるのだな。」
展示を見たものは口々にこう言った。
数日後のある夜、事件は起こった。
ナイトダイヤモンドが盗まれたのだ。
宝石商は狼狽えた。何せ世界にひとつである。
警察にも訴えた。
「うちの宝石が盗まれた。捜査をお願いしたい。」
「なんと大変だ。どのような宝石なのですか。」
「ナイトダイヤモンドさ。宝石展にあったろう。」
「宝石の特徴は?どんな形をしているのですか。」
「わからない。」
警察は首を傾げる。
「分からないとは何ですか。あなたのものなのではないですか。」
「光が当たってはいけない宝石なのです。私自信、買い付けてから今まで1度たりとも光の元で見たことがございませんから。」
「見えないものをずっと守っていたのですか。人々もどれほど金を払ったと思っている。気でも狂っているのか。」
「それが価値というものです。宗教も同じようなものではないですか!」
【ショートショート】宝石
705字
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