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軽食はいかがですか?【中国語】丹麦甜饼、牛角面包、多士

男服务生走来,问他,“来点儿什么?”
“咖啡,一杯就够。”
“要浓缩的?”
“对。”
“别的呢?”
“别的?”他看了看四周。
“面点类的,”服务生说,“有丹麦甜饼,牛角面包,还有多士。”
“多士吧,来一份多士。”

店員が注文を取りに来た。「何にします?」
「コーヒー。コーヒーだけでいいよ」(注1 )
「エスプレッソで?」
「ああ」
「他には?」
「他?」彼は周囲をちらりと見た。
「軽食はいかがです?」店員は言った。「丹麦甜饼、牛角面包、多士もありますが」
「多士にするよ、多士」(注2)

于晓威《午夜落》(2014)

『三体』を数年かけて読んでいると、中国語の普通の小説がむしょうに読みたくなった。

昔、古本屋で手に入れた大連の文芸誌《海燕》から、巻頭の短編を読んでみた。

今にも降り出しそうなある晩、男が喫茶店にやってくる。パーテーションで区切られた狭い店内に、若い女がひとりコーヒーを飲んでいる。

ジャンルも作風も話の筋もまだまったくつかめないが、なんだかなつかしい、ハードボイルドチックな書き出しだ。

まずわからないのが“丹麦甜饼”。

“丹麦”が「デンマーク」だというのは知っていたが、“丹麦甜饼”とはなにか。デンマークの甘い焼き菓子?

調べてみたらデニッシュ(ペストリー)のことだった。

デニッシュって、デンマークの形容詞形だったのだ!

そのことに驚いた。

うかつだった。

「デニッシュ」って、もう字面と響きからして「みっしりしてしっとりした甘いパン」の雰囲気があるから、デーン人とかデンマーク語のことだなんて、気がつかなかったよ。「デンマーキッシュ」とか「デンマキアン」(注3)とかならすぐわかるのに。

次。“牛角面包”。

“面包”はパンだ。牛肉の角煮のサンドイッチか?牛の角煮マンか?と思ったら、クロワッサンだった。

あの形が三日月じゃなくて、牛の角だというのだ。まあわかるけど、そこはもう意訳でいいんじゃないか。(注4)なぜそこでウシを出す。

次。“多士”。

いかにも音訳っぽい。的士(タクシー)みたいだ。いかにも広東語由来くさい。

do1 si2 に近い音の食べ物ってなんだろう。喫茶店のメニューで、小麦粉ベース。ドーナツじゃないしなぁ。

調べてみたら「トースト」だった。前にアクセントがあるから、「ドーシ」に聞こえたんだろうか。これはわからんよ。

というわけで、なんでもない喫茶店のなんでもないメニュー3つのうち、1つもわからなかった。空振り三振だ。

わかったのは“浓缩”がエスプレッソだってことくらいだ。

しかもどのメニューも本編とはまったく関係ない、たぶん。(注5)

この短編、読破に何週間かかるだろう。


注1. 直訳すると「コーヒー、1杯で十分だ」という意味だ。あちらではちゃんと言っておかないと、2杯目3杯目が勝手に出てくるのだろうか。よくわからないが、ここでは“一杯”を「コーヒー」と訳した。

注2. “多士”(トースト)の量詞は「一份」なのか。「枚」としたいところだが、英語の bread などと同じように、不可算名詞らしい。こういうところは律儀なのね。

 注3. 偶然だが、「電気按摩」のアナグラムになっている。

注4. クロワッサンは「月牙形面包」とも言うらしい。牛角よりはこっちの方がいいと思う。

注5. エスプレッソに睡眠薬が入っているとか、トーストに関東軍が残した財宝のありかを示す地図が描かれている、とかいう可能性も、現時点で皆無ではない。

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