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歴史の意義

It was the first time Juzo Mori, a young torpedo pilot—son of a farmer—had ever seen a sunrise from the air. The planes ahead were etched in black silhouette against the red, and it was such a romantic, incongruous sight that he could not believe he was heading for Japan’s most important battle. (p.320)
若き雷撃機のパイロット、農村出身だったモリ・ジュウゾウが空の上から日の出を見たのは、それが初めてのことだった。前方を跳ぶ僚機が赤い空をバックにくっきりとしたシルエットを描き、その光景はとても現実とは思えないほど幻想的で美しく、自分が今から日本の存亡をかけた戦いに挑もうとしているとは、とても信じられなかった。

John Toland / The Rising Sun (1970)

破滅に向かう大日本帝国を描いたノンフィクションより。真珠湾攻撃が始まったところである。

感動的な描写だ。その光景の美しさか目に浮かび、ジュウゾウの健気さや純朴さ、そして恐れが感じられる。狂信的な軍国主義者などでは決してない、どこにでもいる普通の若者の姿だ。

書いているのはアメリカ人なのに。

著者はこの、いまからアメリカに甚大な被害を与えた不意打ちを仕掛けようとしている日本の一青年に感情移入している、ように読める。それを暗に読者にも求めている、ようにも読める。憤りや蔑みや侮りは感じられない。

歴史を書き、歴史を読むという営みの意義の一つは、例えそれが敵であっても、当事者の立場に立って考え、感じることにもあるのだろうと思う。

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