見出し画像

民族的怠慢【名詞句】 heel of one's hand

Sniffing, she scrubbed at her cheeks with the heel of her hand as Samitsu knelt beside him, placing fingertips on his forehead. (p.612)
鼻をすすりながら、ミンがてかかとでほほをぬぐっている間に、サミツはランドの横にひざまずいて、指先をその額に当てていた。

Robert Jordan / A Crown of Swords (1996)

竜王の生まれ変わりとされる主人公ランドが瀕死の重症を負い、僧侶系の魔法使いサミツが治癒している間、恋人のミンが涙をぬぐっている場面である。

これはうかつだった。誰がって、我々日本人がだ。

日本には heel of one's hand 、つまり手のひらの付け根に当たる部分を示す名称がないのだ。開発しなかったのだ。必要としなかったのだ。否、これは民族的怠慢である(?)。

掌底という言葉はあるが(中国語由来かは不明)、武道で使うものであって、普段使いするものではなく、ましてや涙を拭くためのものではない(なお掌底について「手のひら」という説明が多いが、「日本語表現インフォ」の「手のひらの下の部分で、拳を作ったときに指で隠れない部分」という説明が一番正確だと思う)。

仕方がないので、上の拙訳では無理やり「てかかと(手踵)」という造語を入れた。これを機に、わが民族がこれまでの怠慢を猛省し、この言葉を普及定着させてゆかんことを切に願うものである(誰だお前は)。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?