ネズミの歯と変えてくれ【名詞】tooth fairy
作家にとって理想的な執筆環境とはどんなものか、という話で引き合いに出された、T. コラゲッサンボイルの小説中の話だそうだ。森の中に作家の卵のコミュニティがあって、一人一人にキャビンが与えられ、誰にも邪魔されずに創作に打ち込めるのだ。3食昼寝付き。もちろん皮肉だろう。
ともあれ、日本では歯が抜けると「ネズミの歯と変えてくれ」と言って屋根の上に投げる風習があったりするが、西洋では歯の妖精が枕の下に置いた歯をコインと取り替えてくれるというのだ。なんだこの格差は。妖精みたいな格好の女の子がそっと寝室に忍び込み、コインを届けてくれるというラス・ヴェガスチックなファンタジーに比べて、ネズミの歯という貧相さはどうだ。小国のひがみだろうか。
それに、ネズミの歯をもらうというのもいかがなものか。ネズミの歯なんか口に入れたくないし、現代人はそんなに硬いものばかり食べないだろう。一生伸び続ける歯というのは一見頼もしそうだが、なんとなく一生ネズミ男みたいな顔になりそうな気もする。
ありえないことで文句ばかり言っても仕方ないが、ともかく私が気になるのは、Teeth Fairy ではなく Tooth Fairy とされているところだ。なんとなく、サンタのように大きな袋を背負って、世界中の子どもの歯を集めて、コインと取り替えている姿を想像してしまうが(やな商売だ)、一回に歯一個しか運ばないのだろうか。だとしたら、一晩に人間の歯が何個抜けるのか知らないが、べらぼうな数の歯の妖精が必要になる。この辺りで Teeth Fairy に改名してはどうか?英単語の単数複数に神経質な非ネイティブのたわごとだろうか。
とか思ったら、「 toothpaste(歯磨き粉)はなんでteethpasteじゃないんだ?一本一本みがくわけじゃあるまいし」というめんどくさいことを言うネイティブがけっこういるらしく、こちらでややキレ気味に回答がなされている。
eyeglasses, nail polish, nail clippers, footwear, earphones, legwarmers, hairbrush 等と同じように、前にある単語の単数形は総体的な概念を表しているということだ。
なるほど。回答というものは得てして味気ないものである。