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著者の素晴らしさを語りたいのに「マシーン」しかでてこない【読書感想文】三宅香帆『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』

朗読。

以前『IPPONグランプリ』で、松ちゃんがバカリズムのことを「大喜利マシーン」と評していたのを思い出した。もちろん卑下ではなく、その常人離れした正確さ、反応速度、手数の多さなどにたいする驚嘆と畏怖から出た言葉だろう。

著者のことが視界に入るようになってしばらく経つが、若く華やかな女性に似合わず(偏見?)書評家として古典の紹介やら、若い世代への啓蒙やらでがんばっておられるなあと思っていて、いざ著作を読んでみると、誰も傷つけないように細心の注意を払いつつ、無自覚に?寸鉄を忍ばせておられるという感じだった。

「クリシェを使うな」「自分は“好き”でできあがっている」「感想のオリジナリティは細かさに宿る」「空気に対して自覚的であれ」「誰かのマネをしていく中でどうしてもはみ出るものが自分の個性になる」など、なるぼどと思うパワー・フレーズは多いが、SNSで他人の発信にイラッとする時は離れましょう、「インターネットに絶対見ないといけない情報なんてありません」とバッサリ。いきなりの居合抜きである。ま、まあそうなんですけど……

ツッコミどころはあるがスキはない。「防御は最大の防御である」と言いながら戦っている人のようだというか(意味わかりませんね)。

妙な例えだが、バカリズムが一線で活躍してきた他の芸人たちとは違うように、前世紀から読み慣れてきた書評家たちとは何かが本質的に違うように思える。そしてそこがちゃんと面白くもある。

カリスマによる自己啓発本の趣もあるが、もちろんテクニカルで実践的でもある。

個人的には楽しめるが、感想の書き方が分からなくて困っている若い人に無邪気には勧めにくい何かがありもする。

迷いのなさだろうか。頭が良すぎるのかなあ。生活が見えないからだろうか。つまり私にとっては(畏敬の念を込めての)マシーンらしいのだ。

90点。

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