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江戸っ子AIパート2(アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡 1』)

Gaal’s baggage was minor. He stood at a desk, as it was quickly and expertly taken apart and put together again. His visa was inspected and stamped. He himself paid no attention. (p.7)
ガアルの荷物は少なかった。空港のカウンターで待っている間に、荷物は素早くてきぱきと分類され、また一つにまとめられた。ビザが確認され、スタンプが押された。その間、彼はなされるがままでいられた。

巨匠アイザック・アシモフによる宇宙SFの古典より。

物語冒頭、主人公ガアルが惑星トランターに降り立つ場面である。おそらくネイティブなら何も引っかからない、何でもない文章だろう。

私が引っかかたのは2点だ。

まずは minor。荷物が minor とはどういう意味なのか。小さいのか、少ないのか。

次に taken apart and put together とは何が起きているのか。荷物が何かしらのコンパートメントに分かれていて、それをいったんバラバラにして、またすぐにまとめられた、ということなのか。

何のために?ひとつひとつセキュリティチェックしているのだろうか。荷物を解かずに危険物をチェックする技術くらいはありそうだけど。

あとどうでもいいけど、ハイパースペース航法(仕組みはよくわからないが、いわゆるワープ航法らしい)があるのに、まだビザにスタンプを押しているのも気になった。きっと回転式のゴム印だ。担当者は腕に黒い袖カバーをしているに違いない。

まあとりあえず、ガアルの荷物は総量としては少ないが、品数がそこそこあるのだろう、理由はわからないのでぼやかして、大きさなり材質なりでいったん別々にチェックされて、またひとかたまりの荷物にまとめあげられた、ということにした。

では答え合わせをしてみよう。本は手元にないので、Audibleの早川書房版、岡部宏之訳の聞き書きである。

ガアルの手荷物は小さかった。彼はデスクの前に立った。荷物は慣れた手で素早く解かれ、またまとめられた。彼自身が上の空でいるうちにビザが調べられ、検印が押された。

なるほど。私は、宇宙船の貨物室に積んだ荷物がいったんばらばらにされて何かしらのチェックを受け、またまとめられてベルトコンベアーで出ててくるのを想像していたが、そうではなく、手荷物が目の前で開けられたというのだ。

確かに expertly と言えるのは、目の前でその手際を見ているからこそだ。

さらに pay no attention を「彼自身が上の空でいるうちに」としているのも面白い。私はことさらに、未来の空港では乗客は何もしなくてよくなっていることを含ませてしまったが、こちらの方がスマートな訳だ。

最後に参考として、グーグル翻訳を見てみよう。

ガアルの荷物は少なかった。彼は机の前に立っていたが、机は素早く熟練の技で分解され、再び組み立てられた。彼のビザは検査され、スタンプが押された。彼自身は気に留めなかった。

すばらしい。

なぜ荷物がいったんばらばらにされてまたまとめられるのか、と悩んでいたのがバカみたいだ。

it が指すのはその直前の単数名詞 the desk に決まっている。空港専属の職人さんが匠の技で机を分解し、また組み立てたのだ。

それに何の意味があるのかって?んなこたぁ知ったこっちゃねぇよ。細けぇこたぁ気にすんな。ガアルだって気に留めてねぇっつってんじゃねぇか、というわけだ。

江戸っ子AIのご登場である。感服いたしました。


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