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奇貨遺棄譚(J.R.R.トールキン『旅の仲間』)

There is only one way: to find the Cracks of Doom in the depths of Orodruin, the Fire-mountain, and cast the Ring in there, if you really wish to destroy it, to put it beyond the grasp of the Enemy for ever.
方法は一つしかない。火の山オロドルインの奥深くにあるという「滅びの裂け目」を探して、指輪を投げ入れるのだ。敵に奪われることなく指輪を完全に破壊してしまうには、それしかない。

J. R. R. Tolkien / The Fellowship of the Ring (1954)

ファンタジーの名作より。冒頭で魔法使いガンダルフがホビットのフロドに語る旅の目的である。

読んだのは随分昔で、映画『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)はスペクタクルなバトルが印象的だったので忘れていたけど、これはドラゴンを倒しに行くとか、世界を救う話ではなく、「指輪を捨てに行く」話なのだった。

それで思い出すのは映画『ミラクル・ワールド ブッシュマン』(1980)だ。飛行機から投げ捨てられたコーラの空き瓶が、カラハリ砂漠に住むブッシュマンたちにとっては魔法のように便利な道具だったが、やがてその瓶をめぐって争いが起こり、平和を愛するブッシュマンの一人が地の果てに捨てに行くことを決意する。

『ブッシュマン』が『指輪物語』を参照したり、オマージュしたりしているのかはわからないけれど、強力だが良きものにも悪しきものにもなるものを遠くに捨てに行くという物語は、それだけで魅力的だ。

何か原型があって、私が知らないだけで多くのバリエーションがあるのだろうか。

だがもしかすると私がこの類型の発見者かもしれないので、念のためここでツバをつけておこうと思う。

折口信夫の貴種流離譚にならって、ここにこれを「奇貨遺棄譚」と命名しよう。

ちなみに、フタバスズキリュウをタイムマシンで白亜紀に捨てに行く『ドラえもん のび太の恐竜』は、この奇貨遺棄譚のバリエーションのひとつと考えられている。

考えたのは私で、つい今しがただけれども。


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