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ことばのちから【熟語】Best before date(ジャスパー・フォード『文学刑事サーズデイ・ネクスト』)
The industrial age had only just begun; the planet had reached its Best Before date. (p. 317)
まさに産業革命が始まったばかりのころで、この星は賞味期限を迎えようとしていた。
主人公が『ジェイン・エア』の本の世界に入り込んだ場面。
大好きな本の世界に入って最初に気づいたのは、ロチェスターの屋敷に漂う強烈なニスの匂いと漆黒の闇、そして静寂だった。車も飛行機も、大都市の喧騒もまだなかったころの小説だからだ。
言葉だけで構成された小説の中が静寂に包まれている、というのは、ちょっと思いつかない趣向だ。
さて、「賞味期限」のことをあちらでは Best Before date というのだそうだ。
「期限」と言われると、その日を過ぎるともう食べられないような感じがして、膨大なフードロスにつながっていたりするが、「この日までがベスト」と言われたら、「2、3日過ぎちゃったけど、少し味が落ちるくらいならまあいいや」と思えそうだ。
こういうちょっとした言い回しや意味合いの違いで、とてつもなく大きな違いを生むことがある。
今更だけど、言葉ってすごい。