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こちらJR新宿駅公園前派出所【読書感想文】柳美里『JR上野駅公園口』

初柳美里。朗読。

なんという手法か分からないが、語りが過去と現在を行ったり来たりしながら、聞こえてくる周囲の音や人々の話し声をも記録し、戦後日本の復興と地方の荒廃を浮かび上がらせている。

語り手は血肉を持った人間でありながら、時代と運命に翻弄される典型的な人物のようでもある。

胸苦しくなる内容だが、退屈に思える瞬間がなかったのは、朗読者の技量でもあるだろう。

個人的には政治的に過ぎるのが気になるが、こういう小説が多くの人に読まれ、翻訳され、海外でも評価されるというのは、まだまだ世の中捨てたもんじゃないという気にさせられもする。

90点。

ところでこの本を読み終わったあと、読書サイトで探そうとして、なかなか出てこないなぁ、ないわけないのになぁ、と思ったら、「新宿駅」で探していた。

この本は30万部も売れたそうだが、図書館や書店でどんな覚え間違いがあったか、どんな駅名が飛び出したのか、調べてみると面白そうだ。

なお全米図書賞を受賞したという英訳版のタイトルは「TOKYO UENO STATION」だそうだ。

公園が舞台なのに「公園」がタイトルに入ってないのはいかがなものか、と思ったら、原題は『JR上野駅公園口』だった。

つまり私は読み終わるまでずっとこの本のタイトルを『JR新宿駅前公園』だと思っていたわけだ。

ちょっと「こち亀」が混ざってたらしい。



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