ネイティブ、ヤバい。(J. R. R. トールキン『ホビットの冒険』)
ファンタジーの名作より。魔法使いガンダルフと、森に住む大男 Beorn が出会った場面である。
いや〜すばらしい。ここで heard of "him" を使うネイティブの言語感覚がすばらしい。
私ならたぶん the name か your name にしただろう。「そんな名前は聞いたことがないな」か「お前さんの名前なぞ知らんな」にしただろう。
しけしネイティブはここで「そいつのことは聞いたことがないな」と言うのである。目の前にいる人と話しているのに、三人称単数形を使うのだ。
もしかすると、見知らぬ人に対する心理的な距離を表しているのかもしれないが、私は死ぬまで英語を勉強しても、この場面でさっと him が使えるようにはなれないだろう。
そしてトールキンは何も考えずに him を使ったに違いない。
ネイティブ、ヤバい。
ちなみに、クマに変身するというこの B で始まる男の名前、もしやと思って調べてみたら、やはりクマを意味する古英語 björn が語源になっているらしい。
邦訳では「ビヨルン」と表記されているようだが、「馳夫さん(Strider)」とか「つらぬき丸(Stinger)」みたいに、「熊夫さん」とかにしてほしかった。
親切だけどお人好しではない、とても魅力的なおじさんキャラである。