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#毎週ショートショートnote
てるてる坊主のラブレター #毎週ショートショートnote
「お前さん、何をさっきからウジウジしてるんだ」
僕が小学生の頃から机にぶら下がっているてるてる坊主が、いつものように話しかけてきた。
「うるさいなぁ。ほっといてくれよ」
「ははーん。さては、恋だな」
「てるてる坊主に何がわかるってんだ」
「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺だって昔はブイブイ言わせてたもんさ」
ぶら下がっているだけのくせにいつの間に……というかどうやって遊び回ってきたんだか。
「いいか?
祈願上手 #毎週ショートショートnote
「今日も一日頑張ってきます!」
男は、立派とは言いがたい寂れた社に向かい、手を合わせながらいつもの挨拶を口にした。
「キミさ、お祈りするの下手だよね」
「うわぁ!」
普段は自分しかいない境内で、後ろから突然聞こえた声に、男は情けない声をあげてしまった。振り返るとそこには、背の低い白髪の少年がいた。
「なんだよ坊主、おどかすなよ……」
「坊主とは失礼な。それよりキミさ、なんか願い事とかないわけ
行列の出来るリモコン #毎週ショートショートnote
風邪で休んだ日の翌日、いつものように登校したら、自分のクラスに続く長蛇の列があった。しかも、その行列の先は、隣の席の秀一くんのところに続いていた。
秀一くんは、なにやら話を聞いてはノートに必至に書き込んでいる。忙しそうなので、別のクラスメイトに事情を聞いた。
なんでも昨日、市の偉い人がやってきて、秀一くんに「どんなチャンネルでも映るリモコン」というのを渡していったらしい。社会実験として、市
台にアニバーサリー #毎週ショートショートnote
その詩があまりにも素敵で、私は思わず、教科書ごと抱きしめてしまった。
作者は、俵万智さんというらしい。なんでもない一日が記念日に変わったその瞬間、世界がぱぁっと輝いた気がした。
「そうだ、私も、作ろう! 記念日!」
目についたのは、いつも勉強机の代わりに使っているちゃぶ台。そうだ、「台」の記念日にしよう!
そう思い立った私は、日頃の感謝を込めて、家中の台という台をピカピカにすることに
小判食え #毎週ショートショートnote
御触書
妖怪小判食への出現に注意
次を厳守せねば、即ち小判を食わされん
一、夜間は町へ遊び出るべし
一、家屋、道路、及び水路は先んじて汚すべし
一、田畑の手入れを怠るべし
――――
「じいよ、民の様子はどうじゃ」
「予定通りにございます。治安は改善し、景観は保たれ、稲の方も順調にございます」
「小判食えなぞ、おるわけないのにのう」
「庶民の卑しい心を上手く利用されましたな。あっぱ
ごはん杖 #毎週ショートショートnote
「ねぇ、これなんて読むの?」
妹は、双子の兄に、読めない漢字の質問を投げかけた。別に、そこまで本気知りたいと思っているわけでもないのだが、とりあえず兄に聞くのが手っ取り早いという非常に打算的な発想だ。
「見せてご覧?」
兄は、天才の気があった。妹を含む、同級生たちと比べれば圧倒的に学力が高い。それに、自分はお兄ちゃんなんだという自負がある。妹からの質問に答えられないなどあってはならないのだ。漢
親切な暗殺 #毎週ショートショートnote
「今日のターゲットは?」
ビルの屋上。いつものように淡々と準備をする俺の後ろから、問いかけが聞こえてきた。
「ねーえー。無視しないでよ」
放置しすぎれば、面倒なことになるのがわかっている俺は、嫌そうな素振りを振りまきながら徐ろに声のする方へ振り返った。
「仕事中は話しかけるなと言ってるだろう」
「いいじゃない、誰もいないわよこんなとこ。それで、誰なの?」
金髪碧眼で、真っ白なワンピースを着た
忍者ラブレター #毎週ショートショートnote
「私の初恋はねぇ、忍者が相手なんだ」
休日。妻と二人で他愛もない話をしていると、彼女の初恋の思い出話になった。
夏休み、母の実家の方へ遊びに来た彼女が森で探索をしていると、森の中で木々を跳ね回る特訓をしている黒ずくめの小さな忍者を見かけたんだという。
毎日陰から見守るだけだったというが、どんどん軽やかになっていく身のこなしと、努力する姿を見て、恋に落ちたんだそうだ。
「ラブレターも書いた
数学ダージリン #毎週ショートショートnote
「先生! 合格でした!」
僕が人生最大の喜びを最初に伝えた相手は、家庭教師をしてくれていた大学生のマリ先生だった。
「おめでとう。頑張ったね」
電話越しに、いつものように優しい声で、先生は僕を労ってくれた。
「先生のおかげです。本当にありがとうございました」
僕は本心から感謝を告げた。実際、彼女に見てもらった1年半で、どん底だった僕の成績も志望校を狙えるところまで成長したのだから。
どの
秋の空時計 #毎週ショートショートnote
「こら! 窓の外ばっかり見てないで、授業に集中!」
出席簿でバシッと頭を叩かれた俺は、「すみません」と頭を下げて、前を向き直した。もう一度、ちらりと窓の外に目をやると、宙に浮かぶ半透明の巨大な砂時計が時を刻み続けていた。
三年前の夏。ある日突然、その砂時計は姿を現した。当時は空前絶後の大騒動となり、付近に住む住民の避難や自衛隊の出動など、非日常の光景が繰り広げられた。
その後、砂時計の謎は
なるべく動物園 #毎週ショートショートnote
親たちの言い合いが聞こえてきて、僕はおもちゃを手にしたままひっそりと息を潜め、耳を澄ました。
「仕事ばっかりじゃあの子達が……」
いつもの通り、お母さんがお父さんに小言を言っているようだ。
「わかってるさ、次の日曜はなるべく動物園にでも……」
動物園!その単語を耳にして、僕は踊る心を抑えるのに必死だった。僕は眼の前でお人形遊びをしている妹にも教えてあげなければ、という使命感に燃えた。
僕
呪いの臭み #毎週ショートショートnote
「うわっ、なんですかこのにおい!」
部室の扉を開けた僕は、強烈な悪臭に顔をしかめた。
「やあ、遅かったじゃないか」
3年の先輩たちは卒業していき、部員はもう二人だけとなったオカ研部室。真っ黒なローブ(近所のホームセンターで買ってきた布切れで作ったもの)を身にまとった先輩が、グツグツと煮立った鍋をかき混ぜていた。
「先輩たちがいなくなったからって、自由過ぎですよ。今日はなんですか?」
問いか
カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote
「『静寂と平穏を愛する人のための純喫茶』が、取材なんて受けてくれるわけないですよ!」
新人記者の小町は、さっきの会議で手渡された資料を片手に、編集長に泣きついていた。
「上の決定だ。意地でもなんとかしろ! 次また失敗したらクビだぞ、クビ」
「そんなぁ……」
――都会の喧騒から少し離れた郊外。閑静な住宅街に佇むその店、「カフェ4分33秒」に小町は訪れていた。玄関には『未成年、2人以上、飲酒後の
イライラする挨拶代わり #毎週ショートショートnote
「お前が魔王か?」
不躾に扉を開け放ち、勇者が入ってきた。
「貴様に名乗る義理は持ち合わせておらん」
「チッ、まずは挨拶代わりだ! 喰らえ!」
勇者は懐から何かを取り出し、天に掲げた。刹那、閃光が走る。
「くっ、魔道具か小賢しい……」
閃光が収まる。奇襲でも仕掛けてくるかと思ったが、勇者の方に動きはない。
「魔王弱体化の宝珠だ! 王国宮廷魔術師軍団特製だぜ!」
なるほど、人間た