祈願上手 #毎週ショートショートnote
「今日も一日頑張ってきます!」
男は、立派とは言いがたい寂れた社に向かい、手を合わせながらいつもの挨拶を口にした。
「キミさ、お祈りするの下手だよね」
「うわぁ!」
普段は自分しかいない境内で、後ろから突然聞こえた声に、男は情けない声をあげてしまった。振り返るとそこには、背の低い白髪の少年がいた。
「なんだよ坊主、おどかすなよ……」
「坊主とは失礼な。それよりキミさ、なんか願い事とかないわけ? 普通は『彼女が欲しい』だの『宝くじがあたりますように』だの何かしらあるもんだよ」
やけに生意気な口調だったが、不思議と嫌な感じはせず、男は素直に答えた。
「神様も忙しいだろうからなぁ。わざわざ叶えて欲しい願いなんてないさ。ここに来て挨拶していくだけで、なんとなく元気になる気がするし、それだけで十分だよ」
「ふぅん、そんなものか」
少年はつまらなそうに返事を返す。
「ところで、そろそろ行かないと遅刻するんじゃない?」
「うわ、ほんとだ! じゃあな坊主! お前も学校遅れるなよ!」
男は、無駄口を叩きながら、慌てて走り去った。
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「すっげ、信号一個も引っかからなかったわ!」
遅刻を免れた男は、自分の豪運を喜んだ。
今朝出会った少年のことは、なぜだかすっかり忘れてしまっていた。
たらはかにさんの以下の企画に参加しております。
今週のお題は【祈願上手】でした。
霜月透子さんの『祈願成就』応援企画ということで、私もホラーな一作を!……という意気込みはどこへやら、素直に祈願上手(?)な男を書かせてもらいました。
なんと約四ヶ月ぶりの企画参加。生活環境の変化など、色々ありまして、久々に物語を書くことができました。今後もふらりと登場するかもしれませんので、引き続きお手やわらか戦車によろしくお願いいたします。
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