見出し画像

忍者ラブレター #毎週ショートショートnote

「私の初恋はねぇ、忍者が相手なんだ」
 休日。妻と二人で他愛もない話をしていると、彼女の初恋の思い出話になった。

 夏休み、母の実家の方へ遊びに来た彼女が森で探索をしていると、森の中で木々を跳ね回る特訓をしている黒ずくめの小さな忍者を見かけたんだという。
 毎日陰から見守るだけだったというが、どんどん軽やかになっていく身のこなしと、努力する姿を見て、恋に落ちたんだそうだ。

「ラブレターも書いたんだよ! まあ書いた次の日には忍者さんもいなくなっちゃって、渡せなかったんだけどね」
 夢でも見てたのかな、と笑う妻に相槌を打ちながら、私の心臓は鼓動を早めていた。
 時期、場所、格好、全てに覚えがあった。
 誰にも見られてはならないはずの光景を、まさか最愛の妻に見られていたなんて。
 
「そ、そのラブレターはどうしたの?」
 とりあえず慎重に、その爆弾の在り処を問いただした。
「実は今も、宝物入れに入ってるんだ。でも、恥ずかしいから見ちゃダメだよ!」
 
 後日、私はマヌケな忍者宛のラブレターをこっそり盗み出し、文面を脳裏に焼き付けた後、泣く泣く火遁の術で炊き上げた。

===============

 たらはかにさんの以下の企画に参加しております。

 ラブラブな夫婦と、夫の秘密と、トホホなラストを表現してみましたが、いかがだったでしょうか。今週は、個人的に削ぎに削いだ一作だったりします。
 自分で書いておきながら、忍者という職業はいったいどんな日常なのかと思いを馳せたり、波乱万丈な毎日だろうなぁと心配したりもしますね。
 苦難を乗り越えてラブラブ幸せな夫婦を今後も継続してほしい二人でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?