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#10 “Don’t think, just do.” の本当の意味

みなさんは映画『トップガン マーヴェリック』をご覧になりましたか?僕は、1986年のオリジナルの『トップガン』が友人と一緒に観に行った最初の映画でした。ところで、この映画の名セリフと言えば、何を思い出しますか?僕はやはり、

Don’t think, just do.

『トップガン マーヴェリック』より

です。最新作では、敵の基地で乗っ取った第4世代ジェット戦闘機の F-14 を操縦しながら(後席にはかつての相棒グースの息子ルースター)追ってくる敵機に対して、次のような会話がありました。セリフを拾ってみます。この部分は下の動画で観られます。

Rooster:But it’s a dogfight.
     でも空中戦になる(=敵よりあんたの方が強いはずだ)
Maverick:An F-14 against fifth-gen(eration) fighters?
     F-14 一機で第5世代戦闘機と戦うのか?
Rooster:It’s not the plane, it’s the pilot.
     大切なのは機じゃない、パイロットだ。
     〜中略〜
Rooster:Don’t think, just do.

『トップガン マーヴェリック』より(下の動画の 1:40〜)

マーヴェリックはトップガンの教官なので、第4世代と第5世代戦闘機の運動能力が全く異なることを熟知しています。それで自分たちに勝ち目がないと弱気になっているところを、トップガンの生徒であるルースターが発した言葉がこれです。さて、どういう意味でしょうか。もちろん、日本語に訳すならば「考えるな、ただやるだけだ!」になります。でも、その部分だけを見てしまうとこの重要なセリフの本当の意味は分からないように思います。


僕が専門とする言語学や自然言語処理では、ある言語事象が生じた場合、必ず周辺の文脈や背景を考えます。上のセリフの背景として考えたい重要なシーンは、映画でトム・クルーズ演じるマーヴェリックが最初に入ってきて生徒たちに向き合い、彼らが乗る戦闘機 F/A-18 の分厚いマニュアルを見せた時のやりとりです。

マーヴェリック:F/A-18 のことはここに全て書いてある。読んでおけ。
  生徒の一人:もちろん読んだ!(偉そうな口調で)
マーヴェリック:そうだろうとも!(マニュアルを横のゴミ箱に投げ捨てる)

『トップガン マーヴェリック』より

ここでの文脈は、その場の生徒全員が、The top of the top と称されるエリートパイロットばかりだということです。彼等は学業、運動能力、精神力のすべてが優れていることが求められるので、全員の頭にあの電話帳ほどあろうかというマニュアルの内容はきちんと収まっており、「どういう場合にはどの挙動が最適か」というディスカッションも済ませているはずです。つまりは、論理的に「think = 考える」ことを限界まで突き詰めた状態に、映画が始まる前の段階ですでにあるわけです。そして、「反射的に論理的最適解が出てくるところまで磨き上げた」状態で、Don’t think, just do. のセリフが発せられるのです。ここまでを含めれば、

Don’t think, just do.
(前提:もう十分に考えた、すべては頭の中にある)
それ以上考えるな、分かっている通りやるだけだ!

『トップガン マーヴェリック』より

というのが本来の意味だと考えます。回を改めて、日米の宗教的差異なども考慮しながら論じたいのですが、ざっと言うと日本では「論理的思考」に対する評価が欧米に比べて相対的に低く、むしろ「直感的判断」を重んずる部分があります。このセリフも、「あれこれ考えずに、直感的にやろう」的に考えると、日本的価値観で解釈されてしまいます。


今調べると、彼等が操縦する F/A-18 は1機約90億円です。映画でも、「この戦闘機は血税でできている!」というセリフが出てきますが、90億円というと大学の校舎が一棟立つような金額です。それを飛ばすのに「直感的にやろう」とは何とも無責任です。「すべては頭の中にある」人にしか操縦して欲しくありません。映画『トップガン マーヴェリック』のパイロットたちは、そんな究極の「知性派」だと思います。逆説的ですが、とことんまで考え抜いた人のみに許される行為が、 “Don’t think, just do.” なのではないでしょうか。

今日もお読みくださって、ありがとうございました☕️
(2023年7月13日)


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ささきとおる🇳🇱50歳からの海外博士挑戦
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