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10月26日のうんこ論争

今夜は土曜の夜である。

飲まないという選択は、土曜の夜に失礼な行為ではあるまいか。
私は、土曜の夜に非礼を詫びずに済むように、きちんと冷えた缶ビールを冷蔵庫から取り出した。

かしゅっとプルタブを起こす。
この軽快な音は、土曜の夜が喜んでいる音に違いない。祝福の鐘の音。

まずはビール。
黄金の泡だった液体が喉を通り抜けるその快感は、何にも代え難いものがある。少し苦味を伴った切ないあの夜を飲み込んでしまえるような、そんな錯覚に陥ってしまうような。

ような、ような、と一体なんの話だろうか。
切ないあの夜とは、一体どんな夜だったのだろうか。
全く思い出せない。多分、切ない夜なんてなかった。突然、別れの電話がかかってきた、あの夜以外は。

その日の夕食は、肉。
私お得意の「肉が食いたい」が発令されたのだ。

きっと、セロトニンが足りなかったのだろう。NIKUとビールさえ補充すれば、幸せホルモンとアルコールで私はいつの間にか、ふわふわと幸せのKUNIに飛んでいける。

私はロピアのみなもと牛の切り落としがお気に入り。
薄くてすぐに焼ける。そして、とても柔らかい。口に入れて、数回噛むと、いつの間にか肉は消えてなくなっている。サシもいい感じに入っていて、これが切り落としかー!これが、ロピアのやり方かー!と叫ばざるを得ない。

肉をわしわしと食らっていると、愛犬が、何か物欲しそうに見つめてくる。

BBQの匂いが毒なのだろう。
申し訳ない。君にあげられる肉はないのだよ。

と思ったが、味のついていない鶏肉や焼いたにんじんくらいはやってもいいのではないか、という話になった。
愛犬は夫の膝の上に乗り、美味しそうに肉や野菜をパクパクと食べた。
夫の膝の上で、愛犬は幸せそうだった。自分だけ仲間はずれは嫌だよねぇ、と私は思う。

でも、あまり食べるとお腹を壊すかもしれない。
「もうBBQはおしまいだよ」と私は声をかける。
「お腹を壊すと、うんこがゆるくなるかもしれないから」と。

すると、夫が突然、したり顔をこちらに向けた。



「俺は、ポッキーのうんこを

素手で持ったことがあるぜ」



え? 何自慢? と思うだろう。
私にも何自慢かはわからない。ちなみにこの自慢は、たまに夫がする自慢である。

補足すると、家の前を軽く散歩した際や、持ち歩きのうんち袋が切れた際に、夫はやむなくポッキーのうんこを素手で握って持ち帰っているらしい。



放置うんこ禁止



これが、夫のポリシーらしい。素晴らしい。
そして、夫は続けた。

「ポッキーはドックフードしか食べてないけん、うんこが臭くないしな」と。

それを聞いた息子は、こう尋ねた。


「じゃあ、ドッグフードしか食べてない人間のうんこは持てるってことなん?」


そうきたか、と私は思う。
そして、私はこう言った。

「人によるやろ」と。

知らんおっさんがドッグフードしか食べてなくて、うんこが臭くなくても、いくら臭くないうんことは言え、おっさんのうんこは、たぶん素手では持てんな、と私は思ったのだ。

息子が、「みちお(トムブラウン)とかもぐら(空気階段)は?」と聞いてきた。
「みちおは無理かな」と答える。
みちおに失礼すぎる。ごめん、みちお、君がドッグフードしか食べてなくても、君のうんこは持てない。申し訳ない。断言する。

私は逆に息子に尋ねた。
「マツコならいけそうじゃない?」

息子は続ける。
「デビ夫人なら、なんか綺麗そうやね。オーガニックうんこっぽいし」

私たちがうんこ論争を繰り広げてる中、炭はじじじじと温度を保ったまま赤く燃え続けている。
夫が網の上に手をかざす。
「まだ、いい温度やけど」と言った。

私は買ってきたロピアのピザと、冷凍しておいたかんころ餅を網に乗せた。

熱くなったピザを口に運ぶ。
やけどしそうな熱さの耳。ほんのりと温められた表面のチーズ。少しだけ冷たい空気が私の頬を撫ぜる。ビールでほてった頬が気持ち良い。

口に入れた瞬間、そのピザのあまりの美味しさに、私は驚いた。
トースターやレンジで温め直したピザとは違い、格段に美味しかったのだ。カリカリと焼かれた裏面に、とろりととろけるチーズ。次からは、網で焼きたいと思えるほどの美味しさだった。

🌃

その後、私は愛犬の散歩に出かけた。
お酒の入った少しふわふわとした足取りで散歩するのは、気持ちがいい。

愛犬は突如、歩みを緩め立ち止まる。
そして腰を屈める。

私にはそれが、何を意味しているかがわかった。



うんこだ。



まだ肉も野菜も消化されていない、ドックフードのみで構成されたうんこは、臭くもなく、アスファルトも汚すことのない素晴らしいうんこだった。私はビニール袋を介してうんこを握る。まだ、ほんのり暖かい。
そして、私は思う。



素手では握りたくないな、と。





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