労いナッツ
金曜日の夜は、とにかく一週間を労いたい。
誰を労うのか。もちろんそれは私である。夫でも息子たちでもなく、とにかく私は私を労いたい。月曜日から金曜日までお疲れさん、と労いたい。
土日も早起きをするし、溜まっている家の雑務をこなす必要があるので、土日だって全然暇じゃない。土日の朝も愛犬ポッキーが私の体の上に乗り、「わふわふ(早く起きて散歩行こうよ〜)」と朝も早よから起こしてくるので、早起きをしないといけないことはわかっている。忙しいのは忙しいのだが、私の心持ちが違う。何より土日は仕事にいかなくていい、というのがいい。
働くことが嫌いでもないし、仕事が苦痛ということでもない。
それでも、7日間のうち5日間も働いている私を労いたい。
もっとたくさん働いている人がいることも知ってはいるが、私は一週間のうち5日働くのが限界だ。週に6日も働いたら、限界突破して、たぶん全王様もおったまげると思う。
ということで、その日の労いは、ナッツで行うこととナッツ。
その日、私は某所でナッツを物色していた。特にナッツを探し求めて歩いていたわけではないが、私はナッツが好きなのだ。あのポリポリとした食感がたまらなくスキ。無塩でもいいし、味がついていてもいい。塩味でもキャラメリゼでも、なんでもいい。私は前世がリスか何かだったかもしれないと思うくらいに、ナッツが好きなのだ。そういえば、私の前歯は少し前に出ているし、他の歯と比べて大きいから、本当に前世はリスだったかもしれない。ちょっと今度、頬袋にどれだけの食べ物が詰められるのか実験してみたい。
ちなみに左の前歯の方が、右の前歯より少しばかりしゃしゃり出ている。左の前歯もかつて同じだけ前に出ていたのだが、いつだったかディズニーランドのスペースマウンテンに乗った時に、引っ込んだ。どういうことかと気になる方もあると思うので、手短に要点だけ説明したい。
ジェットコースターに乗って、キャーキャーとハイテンションで口を開けっ放しにしていた私は、まっ暗闇の中、がくんと急停止した反動で、前方のバーに勢いよく前歯を強打した。よく分からないが、その拍子で右の前歯が矯正された。信じられない話だが、歯茎から流血していたので、矯正されたのは間違いがないと思っている。その後、右の歯も矯正したいと思い、何度かバーに歯をぶつけないかなと思いながらジェットコースターに乗ってみたが、都合よく顔をバーに強打することはなく、両前歯のスペースマウンテンによる矯正という夢は呆気なく星屑となった。当たり前の話である。
話が千葉方面に飛んで行ったので、福岡に話を戻すことにしよう。よいしょっと。そう、私はそれほどまでにナッツが好きなのだ。しかし毎日毎日、ナッツを食べることはない。なぜなら、たくさん食べてはいけないと思っているからだ。
私は何でも食べ過ぎ、やり過ぎの傾向が強い人間なので、健康にいいからナッツを食べようとなったら、頬袋にナッツを詰め込みながら日常を送ってしまう可能性がある。そのためナッツはたまに食べる程度に控えている。
しかし、今日は労い日。私はナッツを食べるのだ。
店内の棚を一瞥すると、アウトドアスパイスのほりにしがかかったナッツを見つけた。
へ〜、と思う。
うまそうやな、とも思った。
でも100gで500円くらいする。
ちょっと高いなと思った。
でも気になるしな〜、と思った。
だって、アウトドアスパイスほりにしは美味しい。
アウトドアじゃなくても美味しい。
インドアスパイスほりにしでも問題ないんじゃないんだろうかと思うくらいに美味しい。
棚をぐるりと見渡すと、素焼きナッツがあった。
家にはアウトドアスパイスほりにしが、イン冷蔵庫ドアで鎮座している。
これでいいやん。自分でかけちゃえばいいやん。
ナッツとほりにしは戦わせてはいけない。
この2つにはタッグを組んでもらい、私を労ってもらわないといけない。
私はナッツにほりにしを振りかけた。
ナッツがほりにしを浴びて、私を労うんだと飛び跳ねている気がした。私は妄想の中で飛び跳ねているナッツを俊敏な手さばきでひとつつまんで、口に放り投げる。そして私を労おうとしてくれている心優しいナッツたちを、容赦なく噛み砕いた。かりっと口の中でナッツが割れる音がする。
うっま!
間違いないやつや〜ん。美味しいやろ、こんなの〜。
合う合う〜。うま〜。
そこでぐびっと、ビールを煽る。
くっはー。
私、労われた。今週もお疲れ様でした。
来週も頑張ろう。
そしてまた、金曜日になったら私を労おう。