吾輩はおかわり上手である。
吾輩は犬である。名前はポッキー。
猿荻家のアイドルであり、マルチーズとトイプードルの遺伝子を持つものである。吾輩には最近気づいたことがある。吾輩にはもう一軒、出入りできる家があるようだ。家もおかわりできるらしい。
そこには、じいじとばあばが住んでいる。最近まですっかり忘れていたが、猿荻家の面々が2、3日不在にしていた折に、吾輩はじいじとばあばに預けられていたのだった。こたつもあり、ソファーもあり、居心地の良い場所だったことを吾輩は思い出した。
生活の拠点は当然猿荻家にあることを理解しているが、きちんとこちらにも挨拶に行かねばなるまい。吾輩は礼儀正しい犬なので、その辺りはきちんとしておきたい。朝や晩、おかんの表情に余裕がありそうに見える散歩の際には、グイグイとおかんを引っ張り、じいじとばあばのうちに挨拶に行くようにすることにした。
そもそも、おかんは自分の息子の面倒をばあばに頼んだりしているのにも関わらず、お礼などが足りないのではないかと吾輩は思う。礼儀がなっていないのではないか。歩いて3分もかからないのだから、毎日お礼に行くくらいのことは容易にできるはずである。
ばあばは門扉が開くと、吾輩の来訪に気づくようになった。
おかんがピンポンを押さずとも、吾輩が玄関の前でおすわりをしていると、じわじわとドアを開けてくれる。
初めは戸惑いもあったようだが、足ふき用の使い捨ての濡れた布を用意してくれるようになった。「また来たと? わざわざ、来んでいいのに」と言っているが、吾輩は匂いでわかる。喜んでいるのだ、ばあばは。ツンデレってやつであろう。
つい先日も「毎日来るけん、おやつ買っておいたよ」とおやつを出してくれた。優しい。ばあば優しい。スキ。
ばあばが吾輩に「おて」と「おかわり」を要求してくる。そのぐらい簡単だ。吾輩は手慣れた足つきで、おてとおかわりをさっとこなす。というより、早く食べたいのでついつい早回しのようになってしまう。
高速「おて」「おかわり」である。
ばあばは嬉しそうにしている。
「早すぎやろ。ちゃんとしなさい」
吾輩はあっという間におやつを平らげると、さっさと家に帰るのであった。