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ターニングポイントは、コーヒーの香りがする。

コーヒーは苦手だった。

ただ焦げ臭いだけの、泥水。
それが、私がコーヒーに抱いていた印象。

でも今は、コーヒーが大好き。
仕事中のお楽しみ。ほとんど毎日、飲んでいる。

☕️

苦手なコーヒーを飲み始めたのには、きっかけがあった。それは、間食をやめたこと。思いつきでいきなり間食をやめてしまった私は、口寂しさを埋めるためにコーヒーを飲み始めた。

はじめは、コーヒー牛乳。
次はカフェラテ(砂糖入り)。その次は、砂糖なしのカフェラテ。ブラックに、エスプレッソ。

大人になるにつれて苦い恋を経験するみたいに、私の口に入るコーヒーも、徐々に苦くなっていった。そのうちに、コーヒーを飲む量もだんだん増えていく。

3時のコーヒーだったはずが、朝、朝、昼、夕と、気づけば日に4回飲むようになっていた。そのころはちょうど忙しく、幸か不幸か、コーヒーを飲む機会にも恵まれた。コーヒーが、私のリフレッシュタイムであり、カンフル剤だった。


ブラックコーヒーを飲みながら、仕事を頑張る私。


大変だとは思いつつも、少しだけカッコイイかもしれない、とも思っていた。
でも、コーヒーを飲みながら頑張っていた私の体は、いつの間にか、調子を崩してしまっていた。

立つとめまいがするし、肩こりはひどい。夕方になると目はかすむ。車のシートベルトで胸が圧迫されると動悸がした。映画館ではパニックになって映画どころじゃない。美容院でカラーリングをしようもんなら、手が震えてお腹が痛くなった。夜もよく眠れない。


原因はよく分からなかったけど、無理をしすぎたことだけは、私にもわかった。


でも、「耐えながらでも、仕事はこなすべき。多少の無理は必要」というのが、その頃の私の正義だった。


初めは我慢をしていたものの、苦しい日々に耐えられなくなった私は、心に溜まったモヤを吐き出すように、夫に母に、友人にと、自分の現状を話した。病院にも行った。最後に行った婦人科で出してもらった薬が体にあったのか、徐々に体調は良くなっていった。

そして、私は無理をしないことを決めた。
体が最優先、だと。


私のまわりから、コーヒーの香りが消えた。

体のことを考えて、カフェイン断ちをしたのだ。
「頑張ろう」とリフレッシュに飲んでいたコーヒー。「無理をしない」と決めた私には、コーヒーは必要なかった。

☕️


この夏は、久しぶりに体調を悪くした。あまりの暑さに自律神経が乱れたのか、ストレスが重なったのか、ホルモンバランスが乱れたのか、年齢のせいか。
実のところ、原因はよくわからない。

めまい、耳鳴り、動悸、頭痛。懐かしい不調の数々。思い出したくもないあの頃の体調不良が、フラッシュバックした。それに、ものすごく眠かった。寝ても寝ても、眠くて眠くて仕方がない。


眠気を覚ますため。


そう理由をつけて、たまにしか飲まないようにしていたコーヒーを、私は再び飲むようになった。

眠れなくなると困るからと、3時までには飲み終えるようにした。コーヒーのストックがなくなると、私は新しいコーヒーを買いに行った。売り場には、昔は少なかったカフェインレスのコーヒーがたくさん売っていた。試してみると、どれも、普通のコーヒーと同じように美味しい。

カフェインを摂り続けることに、少しばかり不安があった私は、美味しいカフェインレスコーヒーがあることに安堵した。カフェインが入ってないから、眠気を抑えることはできないかもしれない。でも、コーヒーの香りを嗅ぐと、不思議とザワザワしている気持ちが落ち着くような気がした。

私は以前の経験を活かし、すぐに病院に行き、薬をもらった。体を優先して、早く寝たり運動するようにもした。万全ではないけれど、少しずつだが、体調も良くなってきている。

☕️


体調が悪い時は、正直、「ああ、もうダメかも」と思ってしまう。

でも今は、「これはターニングポイントだな」と切り替えられるようになった。生きていれば、体に変化があるのは当然だ。体の使い方や生活を見直すいい機会にしよう、と思ったりもする。

体調を崩す前の私は、体調が悪い人のことを思いやることができなかった。「気合いが足りないんじゃない?」なんてことを、思っていた節さえある。

あの出来事以降、体調が悪い人の話を聞くと、「ああ、わかるなぁ」と思う。それに、「無理しないでね」と、本心で言えるようになった。昔の私が今の私を見たら、「気合いが足りないよ!」と怒るかもしれないけど。


頑張っていた頃の私に会えたら、伝えたい。


気合い入れてた頃の私も好きだけど、
今の私も、案外、悪くないんだよって。







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