セルフコンパッション研究紹介~Self-compassion moderates the perfectionism and depression link in both adolescence and adulthood~
この記事では、完璧主義と抑うつに対するセルフコンパッション(自己慈悲)の効果を検証した研究であるSelf-compassion moderates the perfectionism and depression link in both adolescence and adulthoodについて紹介します。
はじめに
完璧主義は、抑うつを引き起こす重要な要因の一つです。完璧主義とは、自分に対して非常に高い基準を設定し、それに達しないと自己評価が低くなる性質です。
セルフコンパッション(自己慈悲:自分への慈しみ)とは
セルフコンパッションとは、自分に対して優しく、理解し、非批判的に接することです。セルフコンパッションは以下の3つの要素から成り立っています。
自分への優しさ(Self-Kindness):
自分が失敗したり、困難な状況に直面したときに、自分に対して優しく接すること。例えば、仕事でミスをしたときに、「自分はダメだ」と責めるのではなく、「誰にでもミスはある」と自分を慰めること。
共通の人間性(Common Humanity):
自分の失敗や困難を、人間であれば誰しも経験することとして受け入れること。例えば、「自分だけがこんなに苦しいのではなく、他の人も同じように苦しんでいる」と考えること。
マインドフルネス(Mindfulness):
自分の感情や思考を判断せず、そのまま受け入れること。例えば、怒りや悲しみを感じたときに、それを抑え込もうとせず、「今、自分は怒っている」と冷静に認識すること。
研究目的
この研究の目的は、セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの関係をどのように緩和するかを明らかにすることです。特に、青少年と成人の両方を対象に、セルフコンパッションがその関係を弱めるかどうかを検証しました。青少年と成人という異なるライフステージでの影響を比較することで、セルフコンパッションの普遍的な効果を確認しようとしました。
研究方法
この研究は、青少年と成人の2つのグループを対象にし、下記の評価を行いました。
青少年グループ(Study 1)
参加者:541人の学生(男性99人、女性442人)。平均年齢は14.1歳。
評価方法:
完璧主義:Child and Adolescent Perfectionism Scale (CAPS)を使用し、自己に対する高い基準と他者からの期待を評価。
抑うつ:Short Mood and Feelings Questionnaire (SMFQ)を使用し、抑うつ症状を評価。
セルフコンパッション:Self-Compassion Scale–Short form (SCS-s)を使用し、セルフコンパッションのレベルを評価。
成人グループ(Study 2)
参加者:515人の成人(男性158人、女性357人)。平均年齢は25.22歳。
評価方法:
完璧主義:Multidimensional Perfectionism Scale (MPS)を使用し、完璧主義のレベルを評価。
抑うつ:Depression, Anxiety and Stress Scale (DASS-21)の抑うつサブスケールを使用し、抑うつ症状を評価。
セルフコンパッション:Self-Compassion Scale (SCS)を使用し、セルフコンパッションのレベルを評価。
先に結果まとめ
完璧主義傾向が強いと、抑うつも高くなる。
完璧主義傾向が強いと、セルフコンパッションが低くなる。
セルフコンパッションが高いと、完璧主義と抑うつの関係が弱まる
セルフコンパッションが高いと、抑うつが低くなる。
セルフコンパッションが高いと、完璧主義が抑うつに与える影響が小さくなる。
結果の詳細
両グループともに、下記の結果が得られました。
完璧主義と抑うつの相関関係:完璧主義と抑うつの間には強い正の相関が見られました。これは、完璧主義のスコアが高いほど、抑うつのスコアも高くなることを意味します。完璧主義的な考え方が強いほど、抑うつ症状が強い傾向にあるということです。
セルフコンパッションと抑うつの相関関係:セルフコンパッションと抑うつの間には強い負の相関が見られました。これは、セルフコンパッションのスコアが高いほど、抑うつのスコアが低くなることを意味します。セルフコンパッションが高いほど、抑うつ症状が少ない傾向にあることが示されています。
完璧主義とセルフコンパッションの相関関係:完璧主義とセルフコンパッションの間には負の相関が見られました。これは、完璧主義のスコアが高いほど、セルフコンパッションのスコアが低くなることを示しています。
また、セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの関係にどのように影響するかを調べました。
セルフコンパッションの効果:セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの関係を有意に緩和することが確認されました。これは、セルフコンパッションが高い人は、完璧主義が抑うつに与える影響が小さくなることを意味します。
回帰分析:異なるレベルのセルフコンパッション(平均値より低い、平均値、平均値より高い)において、完璧主義が抑うつに与える影響を調べました。
セルフコンパッションが低い場合:完璧主義と抑うつの関係は強く、完璧主義のスコアが高いほど抑うつのスコアも高くなりました。
セルフコンパッションが平均の場合:完璧主義と抑うつの関係は中程度で、セルフコンパッションが低い場合よりも影響が小さくなりました。
セルフコンパッションが高い場合:完璧主義と抑うつの関係は弱く、有意な関係は見られませんでした。
これらの結果から、セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの関係を緩和する効果があることがわかりました。セルフコンパッションが高い人は、完璧主義的な考え方が抑うつに与える影響を受けにくいことが示されています。
結論
青少年と成人の両方において、セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの関係を緩和する効果が確認されました。セルフコンパッションが高いと、完璧主義による抑うつの影響が小さくなることが示されています。これは、セルフコンパッションが完璧主義と抑うつの悪循環を断ち切るための有効な手段であることを示唆しています。
これらの結果を踏まえ、セルフコンパッションを高める介入が、完璧主義と抑うつに苦しむ人々の治療において有効である可能性があると考えられます。セルフコンパッションを養うことで、完璧主義的な考え方や抑うつ症状の軽減が期待できます。
制限
この研究にはいくつかの制限があります。まず、横断的なデータであるため、因果関係を確認することはできません。また、自己報告データに依存しているため、回答者の自己認識や正直さに依存します。さらに、青少年サンプルは私立学校の生徒であり、成人サンプルはオンラインで募集されたため、一般化には注意が必要です。
参考文献
Ferrari, M., Yap, K., Scott, N., Einstein, D. A., & Ciarrochi, J. (2018). Self-compassion moderates the perfectionism and depression link in both adolescence and adulthood. PLOS ONE, 13(2), e0192022.