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シンプルな作業の中に、いろいろな技術や情報が詰まっているところが「パッケージング」の面白さ

普段何気なく目にするお菓子の包装(パッケージ)は、「商品の魅力を引き立たせる役割」や「品質を安全に保つ役割」を担っており、そこには様々な技術と工夫が込められています。
今回の【一日千秋】は札幌千秋庵のお菓子の包装を担当する、パッケージング課 課長の坂東千鶴子さんにお話を伺いました。

【プロフィール】
坂東 千鶴子(ばんどう ちづこ)
出身地 北海道札幌市

2006年(平成18年)千秋庵製菓株式会社 入社 製造部 製品課 配属
2018年(平成30年)製造部 パッケージング課 主任 ※2018年 新設
2019年(平成31年)製造部 パッケージング課 係長
2023年(令和5年)  製造部 パッケージング課 課長 

大学で食品科学を専攻した後、食品製造工場でのキャリアを志して千秋庵製菓㈱に入社。入社時から製造補助、包装機の操作、資材の発注管理など幅広い業務に従事し、現在はパッケージング課 課長として札幌千秋庵の「お菓子の包装」に関する舵取り役を担っている。


千秋庵製菓での歩み

ー 入社のきっかけは?

坂東:大学時代に食品科学を専攻していたこともあり、「将来は食品製造の工場で働きたい」と考えていました。千秋庵製菓に入社したのは、幼い頃に見ていた山親爺のテレビCMが印象的で、馴染み深く感じていたからです。

ー 入社後、初めて担当した仕事は?

坂東:製品課(パッケージング課の前身部署)に配属され、主に「お菓子の製造補助」と「店舗に出荷するための品揃え」を担当していました。それ以外にも、賞味期限シールを貼る作業など、製造や出荷に関するサポート的な仕事が多かったですね。

ー 包装(パッケージ)の仕事はいつから携わっているのですか?

坂東:入社1年目からですね。配属先の一連の仕事に慣れてきた頃、包装機を操作する人手が足りず、当時の上司から包装機の操作を手伝うように言われたことがきっかけでした。最初のうちは、先輩の動きを観察して機械の操作方法を覚え、見よう見まねで包装作業を行っていました。次第に「包装資材の発注や管理」なども任されるようになり、いつの間にか「包装に関する業務」に携わることが多くなっていきました。

ー 実際に包装の仕事をやってみて、ギャップはありましたか?

坂東:「お菓子の包装をする仕事って面白そうだな」とイメージしていた程度だったので、実際に携わってみると驚きの連続でした。包装機だけでも何種類もありますし、ロール状になった個包装用のフィルムを見た時には「あれはなんだろう?」と不思議に感じました。実際にロール状のフィルムを持ち上げてみると、見た目よりもズッシリと重たくてビックリしたことを覚えています。

大小さまざまな大きさのお菓子を包むロール状のフィルム

現在の仕事について


― 現在の担当部門について教えてください

坂東:現在は「パッケージング課」という部門に所属しています。この部門は「包装に特化した部門」として2018年(平成30年)新設されたもので、札幌千秋庵の直営店やスーパー等で販売しているお菓子の個包装を行います。定番商品と季節商品を合わせると常時13~15種類くらいの包装を行っています。また,、個包装をしたお菓子を箱に詰める作業もパッケージング課の仕事です。

― 坂東さんご自身は、具体的にはどんな仕事をしていますか?

坂東:私が担当している仕事は「パッケージング課の管理業務」がメインです。少し具体的に言うと、
① 包装機の操作、調整
② 包装資材の検討、発注、在庫管理
③ 原材料や栄養成分表示の確認
④ パッケージング課 全体の作業スケジュールの策定と進行管理
といった業務を担当しています。

現在、札幌千秋庵で販売しているお菓子のほとんどの包装は「ピロー包装機(※注)」という機械で包装しています。基本的には、決められた通りにお菓子を包装機に投入すれば機械が包装をしてくれますが、お菓子の個体毎の微妙な大きさの違いなどによって、どうしても包装不良が発生してしまいます。包装不良は軽微なものであったとしても商品の品質にダイレクトに影響を与えるため、包装不良が起こらないように入念にチェックし、包装した製品を目視で細かく点検しながら作業をしています。

※注 ピロー包装機:
包装フィルムを筒状に成型しながら内容物を包み、シールすることで包装する機械。仕上がりの形状が枕(ピロー)に似ていることが名前の由来。

ロール状のフィルムをピロー包装機にセットしてお菓子を包装する
フィルムに印字する賞味期限の文字は1文字づつ手作業でセットする
(この他にもサーマルプリンターなどを使用しています)
ピロー包装された『大納言最中』

ー 包装不良が起こらないように気を付けていることは?

坂東:機械で作業をするとはいえ、作業する人の「感覚」が大切だと思っています。視覚、触覚、聴覚を働かせて作業を進めますが、その中でも特に「聴覚」が重要です。包装作業がスムーズに進んでいる時は、包装機の音も一定のリズムかつスムーズに聞こえますが、例えば、聞いて違和感を覚えるような「鈍い音」がする時は、大抵の場合フィルムの詰まりなどが発生しています。「包装不良を起こさない」ためには、機械化された中でも「人の感覚」を研ぎ澄ますことが必要なんです。

ー 包装の仕事の面白さは何ですか?

坂東:この仕事を担当するようになって、自然と他社の包装に目が行くようになりました。「これはどんな素材なんだろう?」、「原材料表示の書き方どうなっているんだろう?」、「こんなデザインもいいな」、「品質保持剤はどんなものを使っているんだろう?」などなど。いわゆる「職業病」かもしれませんね。でも、私が知らなかった素材や手法を新たに知ることは楽しいですね。
例えば、お菓子を包んでいる薄いフィルムには保存性に優れた「バリア加工」という技術が使われていて、この技術のおかげで「お菓子の美味しさ」を保つことができ、遠方のお客様にも美味しいお菓子を届けることが可能になります。長い期間「包装」に関わる仕事をしてきましたが、包装技術の進化は凄まじいなと感じています。こういった「新たな発見」や「技術の進化」を札幌千秋庵のお菓子の包装に活かすことが「面白さ」のひとつかもしれませんね。

ー これまでの仕事の中で、印象に残っていることはありますか?

坂東:焼きあがったたくさんのお菓子を全て包装機に投入して包装作業が終わり、実際の仕上がりを確認したところ「お菓子が正しい位置で包装されていない」ことがわかり、全てのフィルムを解いて最初からやり直したことがありました。

そんな経験からか、ミスなく包装が終わった後も「何かあるんじゃないか?」と全てを疑う習慣が身に付きました。いつも心のどこかで「何かミスはなかったかな…」と気にしているせいか、精神的なストレスが溜まることもありますが、休日はあまり考えすぎないようにしています(笑)

日頃から大切にしていること

― 坂東さんが仕事の中で心がけていることはありますか?

坂東:まずは「自主的に動くこと」ですね。製造から包装までの全てのスケジュールが事前に決まっているので、段取り良く進める必要があります。そのためには「自主的に動く」ことが重要だと思っています。
例えば誰もが知るような大きな製造工場の場合は、製造レーンから包装レーンにお菓子が流れてきて、自動的にフィルムが掛かり、荷造りまで自動化されていて、各販売店別に自動で仕分けされて配送されていく。そんなイメージを持たれる人が多いかもしれません。
ですが、私たちパッケージング課で包装するお菓子は、札幌千秋庵の中でも製造数が比較的少ないお菓子が対象となるため、全てが自動化されているわけではありません。工場で焼き上がったお菓子を自ら包装機の前に運び、フィルムを掛ける準備をして、包装作業を開始します。
包装作業をスムーズかつ計画通りに進めるためには、自ら積極的に動いて作業を進めていくように心がけていますね。

坂東:もうひとつは「安全に作業をすること、かつ身体を大切にすること」です。私が入社したての頃、お菓子が入った番重を運んでいる途中で倒してしまったことがありました。私自身は倒してしまった番重とお菓子を見て、咄嗟に身体が動かなかったことを悔やんでいましたが、先輩たちは誰一人としてミスを怒らずに私の身体の心配をしてくれたという経験がありました。
特に私たちが扱う「ロール状の包装用フィルム」や、積み重ねられた番重はとても重たく、運ぶ際には常に危険が伴います。パッケージング課のチームのみんなが安全にケガなどをせずに業務を進められるよう気を配っています。何よりも身体が大切ですからね。

パッケージデザインのリニューアルについて

― デザインをリニューアルしたパッケージが続々とが登場しています。
  その中でパッケージング課が担当している仕事は?

坂東:新商品を開発する時は、デザイナーさんが考案したパッケージの形状やデザインをもとに、包装資材の検討を行い、商品の発売時期に合わせて店舗に並べるための準備を行います。

デザイナーさんとやり取りをしながら色校正や原材料表示の確認を行い、フィルムの印刷に立ち会ったり、商品の撮影や商談に使うサンプルを作ることもあります。社内外複数の関係者と打ち合わせを重ねながら、さまざまなプロセスに関わるおかげで「包装に関する知識」が増えましたね。

2023年にリニューアルした個包装パッケージ
【上段】左:月の石、中央:札幌娘、右:大納言最中【下段】左:どら焼、右:栗どら焼

― デザインだけではなく、商品の特性に合わせて「フィルムの素材」も変
  更していますが、現場での変化はありましたか?

坂東:既存商品のパッケージデザインを変更する場合は、デザインの変更だけではなく、「今まで発生していた包装の不具合や課題の解消」も並行して進めます。フィルムの素材やサイズなど、多方面から課題解決に向けた検討を重ねて最終的な決定をしていきますが、直近でパッケージデザインを変更した商品の包装に関しては、課題が少しずつ解消されていますので、現場としてはホッとしています。

これから

― 今年で入社19年目を迎えるそうですが、昔から見てきて、会社の変化を 
  どのようなところに感じますか?

坂東:私自身が深く関わっているからかもしれませんが、率直に「パッケージの変化」を感じています。デザイン面に注目してみても、私が入社したときは、今よりもかなり多くの種類のお菓子があり、どのお菓子も個性的で色合いも様々だったので、箱詰めにした時に全体の見た目のバランスが取りにくくて苦労した記憶があります。

最近は新しいデザインのパッケージが増えていますが、新しいデザインの商品と以前からのデザインの商品が調和していると感じています。色合いにも深みがあって「札幌千秋庵らしさ」が表現できていると感じています。 

― この仕事をしたい人へ、何かメッセージはありますか?

坂東:体力と気力を使う仕事ではありますが、お菓子の包装にはさまざまな情報や技術が詰まっているので「知的好奇心がある人」「コツコツと仕事に取組みたい人」は、この仕事に向いていますね。

また新商品の販売に関わることで、今まで知らなかった新しい素材と出会う機会が増える面白さを感じられると思います。ぜひ、挑戦してみてほしいです。

|編集後記|
小柄な坂東さんですが、重たいフィルムのロールを軽々と持つ姿は逞しく、千秋庵製菓にとっても大きな存在となっています。改めて「パッケージング課」の仕事についてお話を伺ううちに、ミスが許されない厳しさと、社内で担う役割の重要性を再認識しました。坂東さんを中心に、毎日繊細な作業を行うパッケージング課の皆さんに対する感謝の気持ちがさらに高まった取材でした。

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