空飛ぶペンギン

「で、あるからして～···ここはXを」
カリカリとチョークを鳴らしながら数式を並べていく先生を僕はぼんやりと見ていた
教室の外からはジョワジョワとセミの声がうるさく、ほとんどの生徒は下を向いて必死にノートを取っていた
僕は見えないように机の下で、下敷きを使って足元をあおぐ

ああ本当に、数学ってやつはどうしてこうも覚えにくいのか
Xって何となく、ペンギンの形に似てないか？なんて考えながら、教科書のXに両手を広げたペンギンの落書きをした
受験前のこの時期に、真面目な生徒が多いこの学校で
こんなことを考えているのは僕くらいなものだろう

「飛べ！サトウ！」
頭の中であいつ、ホンダの声がした
同じプール教室だったあいつは、誰より早く泳いだ
泳ぐ姿は、まるで空飛ぶペンギンだなぁ～なんて思ってたっけ
そのくせ、ドベの僕をいつもプールサイドで応援してくれていた
逆に恥ずかして集中できねぇよ
飛べってなんだよ

「なんでやめちゃったのかねぇ」
思わず声に出してしまって、慌てて教科書を立てる
誰にも聞かれていないことに安堵して、目線だけで空を見上げた

ツィー、ツィーと、氷の形をした雲から、また一羽、また一羽ペンギンが飛び立っていった
一羽だけ飛べずにちょこちょこと雲の周りを歩いてるペンギンは、きっと僕だなぁ

「飛べ！！サトウ！！いけ！」

ガララッ
扉の開く音で我にかえり、そちらを見ると
タバコくさいホンダが入ってきて
僕の後ろの席にドカッと座った
気の小さい数学教師はもはや見て見ぬ振りだ

なんとなく気配で、ホンダも空を見ている気がした
眠気覚ましに、明日は僕も授業サボってみようかな
なんてね

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こやまさおり