こやまさおりのショートショート

ショート専門映像・物語クリエイター、物語を書いたり描いたりしています、1児の母、旅・映…

こやまさおりのショートショート

ショート専門映像・物語クリエイター、物語を書いたり描いたりしています、1児の母、旅・映画が大好きです

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こやまさおりの自己紹介

はじめまして! ショート専門映像・物語クリエイターの こやまさおりと申します。 この度、noteを開設し Instagramに発表している作品をこちらにも掲載していこうと思います。 大学時代に映像の世界に飛び込んでから 長い間沢山の仕事をして参りましたが 生活や価値観を見直すきっかけがあり 誰かの仕事ではなく「自分の作品」を作ってみようと思い この活動をはじめることにいたしました。 A4の原稿用紙一枚分ほどの文章で 「癒し」「暖かい」「可愛い」 をお届けいたします。

    • 思い出レストラン

      ある朝、奇妙な光で目が覚めた 柔らかく薄ぼんやりと光る黄色い光 朝なのに、月明かりのような不思議な情景につられた僕は パジャマに上着だけ羽織って玄関を出た 朝霧が広がり視界が悪い中、光に導かれる様に アパートの前の路地を右に二回、左に一回曲がった すると、そこには小さなレストランがあった レストランの古びた扉を光がすぅっと通り抜ける ガチャリとドアノブをひねると、レストランの真ん中には 一席だけテーブルがあった その上には大きな白い器がセットしてある 恐る恐る腰掛ける

      • さざ波ヴェール

        太陽の王子様は海がめに言いました 「三日後の流星群が降る夜に、必ず迎えに来るよ  その時一緒にこの海を越えて、新しい街に行こうね」 海亀は言葉を知りませんでしたので 大きく一回パチリと瞬きをしてみせました 「僕は太陽だから、夜はこの姿ではいられないのだけれど  君と一緒なら、きっと新しい姿になれるね」 海亀はどきり、どきりと 感じたことのないトキメキと 不安が入り混じるような不思議な感情に戸惑いました だけれど 王子様の笑顔がピカピカと眩しかったので もう一度大きく

        • 朝焼けの時間

          冬を感じる肌寒さで目が覚めた シーンと澄んだ空気 まだ活気のない家の前の道路 そして、雲の裾が少しピンクに染まった朝焼け この静かな始まりの時間が好きだ パジャマの上に使い古した毛糸のカーディガンを羽織り お気に入りの喫茶店で買ったインスタントのコーヒーを淹れる 熱々のコーヒーをすすると、ふぅとため息が出るほど身体が温まった 家族ができてから、一人で息をしていることが減った この時間はまだ飲み歩いていた時代もあったなぁと 過去の自分の若さを笑った ゆっくりと日が高く

        マガジン

        • 物語っぽいもの
          8本
        • 詩っぽいもの
          4本

        記事

          スローステップ

          あなたの速度は誰より遅いかもしれない あなたは人より立ち止まるかもしれない あなたの考えは大衆と違うかもしれない けれども ゆっくり回る景色の中で ゆっくり大きく息をする呼吸の中で ゆっくり歩いていくその軌跡の道中で あなただけのスピードで あなただけのやり方で ゆっくり「あなた」を見つけていくだろう スローステップ ゆっくり踏み出そう スローステップ 誰よりも丁寧なあなたへ 誰よりも生真面目なあなたへ 誰よりも大切なあなたへ ::::::::::::::::

          夢のなる木

          泳ぐ足を止めて 波をかき分ける手を止めて 冷たい海にただ身をまかせませう コロコロ 心地よいこの音色は 水面に浮かぶ泡から聞こえる 地平線の向こうに沈んでいく夕日に焼かれて 一本だけ静かに生えた木の影を見た 沢山の泡たちは 母の胸を目指すように 優しい木に帰っていく わたしの夢は何であったか わたしの心は何であったか 沈んでいく身体を忘れて わたしの泡も木に帰っていく いつかの夢を抱きながら ::::::::::::::::::::::::::::::::::

          空飛ぶペンギン

          「で、あるからして~···ここはXを」 カリカリとチョークを鳴らしながら数式を並べていく先生を僕はぼんやりと見ていた 教室の外からはジョワジョワとセミの声がうるさく、ほとんどの生徒は下を向いて必死にノートを取っていた 僕は見えないように机の下で、下敷きを使って足元をあおぐ ああ本当に、数学ってやつはどうしてこうも覚えにくいのか Xって何となく、ペンギンの形に似てないか?なんて考えながら、教科書のXに両手を広げたペンギンの落書きをした 受験前のこの時期に、真面目な生徒が多いこ

          ガラスのピアノ

          ガラスのピアノ 透明な譜面を奏でながら その音、乱反射して 蝶のようにキラキラと中を舞う やがて桃色に色づいた雲が 優しくその音を包んだ ドレミファ 軽やかに ソラシド 高らかに 演奏者の椅子は空席のまま 不思議な音色とめどなく 地の人々に 恵の雨粒を降らす 天の人々、それを見て 透明な譜面の続きを作る ドレミファソラシド どこまでも 鳴り止まぬ、流るる音 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

          蝉の声止まりて、風鈴ひとつ

          「鈴音ちゃん、今日帰ってくるんじゃて」 出掛ける準備をしながら突然話しかけてきた母の口から 久しぶりにやつの名前を聞いた 「大介、迎えに行ってやリーよ」 「あいつは、そうゆうのは好かんのんじゃ」 「あんたは、また格好つけてから」 「うっせぇ」 「まぁええわ、お母さんちょっと買い物行くけぇね」 誰もいなくなったボロ屋の和室で、畳の上にゴロンと寝転ぶ 夏というのはどうしてこうも暑いのだ 鈴音という女は、所謂近所の幼馴染だったが 庶民的なうちとは正反対のお金持ちのお嬢様だった

          蝉の声止まりて、風鈴ひとつ

          突風吹いて、善と成す

          「もうダメだ」と思った 走り抜けなければいけない時 僕は毎回心が折れそうになる 「こけそうになりながら、足を前に出して進め  そうすれば気付くとゴール地点にいるもんだ」 誰の言葉だったか そうは言うけれど、鉛のように重くなった足はどう出せと言うのか 後ろからどんどんと追い抜かれて、ますます気持ちが負けていく 頭の良さなら隣の席のあの子 絵の上手さなら後ろの席のあいつ では、僕には何があるのか 僕にはこの足の速さしかないのに 沢山の期待の視線と裏腹に鼓動と息が上がって

          雨色ティーカップ

          「こんな日は、朝早くに窓を開けるのが好きよ」 雨の日、早朝目を覚すと、1階の窓辺近くの小さいテーブルで 祖母はよく紅茶を飲んでいた 祖母は身綺麗なおしゃれな人で 整えられた短い白髪をアップスタイルにし 唇には薄いピンクの口紅をつけていた 「庭の木にね、しとしとと雨粒が滴って、音がするの  遠くで鳥のさえずりが聞こえて、なんだかとっても素敵なのよ」 わたしは店の奥の棚から、祖母の「とっておき」の紅茶を取り出した 青い花びらが混ぜられた紅茶は、蓋を開けただけで爽やかな香りが

          なんでもない日

          部下のヨシダを行きつけの居酒屋に呼び出した 普段あまり酒を飲まないヨシダは最初は断ってきたが 飯も美味いと説得すると、渋々といった様子で会社から出てきた 「先輩・・・俺、今日」 「あーいいの、いいの、仕事の話は一旦やめろ」 よく冷やしたグラスに入れられた キンキンの生ビールで乾杯をする 「俺さぁ~、上京組なんだよね、ヨシダは都内育ちだろ?」 「ええ、まぁ」 「初めて東京来たときさ、飯も合わないし、言葉も、暮らしも  全部合わなくてな、一人暮らしも初めてだったし」 「・・

          幸せの棲家

          ここは海の水底、奥深く 青いみなもゆらゆらと 差し込む光が散らばってゆく 「ただいま」 懐かしい声がした 「お帰りなさい」 優しい声がした 白い木のダイニングテーブル 赤い魚がくるくる回る いつの間にだか珊瑚が生えて 料理の音は、もう聞こえない レースのカーテン、水中にはためいて 人魚がこっそり中を覗く その昔、そこには君がいた その昔、そこにはあなたが居た そこには家族があった 幸せの棲家、あたたかい面影は コバルトブルーに溶けてゆく ::::::::::::