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なぜ歴史を学ぶのか|歴史改変小説に学ぶ

去年読んで面白かった小説のなかに『文明交錯』という一冊があります。

本作のストーリーは「スペインがインカ帝国を、ではなく、インカ帝国がスペインを征服」するという、歴史改変小説です。これがめちゃくちゃ面白かった。

史実では、スペイン人のフランシスコ・ピサロが1532年にアタワルパ軍に対して奇襲をかけ、アタワルパを捕獲して処刑することから、スペインの世界征服が始まっていきます。

当時のインカ帝国が滅びた主要な要因として、スペイン人達が運んできた天然痘が挙げられますが、本作では第一部の時点で、十世紀頃にノルウェーとアイスランドからやってきたエイリーク達の冒険によって、アメリカ大陸の原住民らに病気を既にうつしていた背景が語られます。

そういった事情もあり、既に天然痘に対して抗体を持っていたアタワルパ達はスペイン人に征服されることもなく、南米大陸を飛び出してヨーロッパに向かいます。

その後は、インカ帝国に太陽王として君臨していたアタワルパが、ヨーロッパの歴史と文化のなかで様々な闘いを繰り広げていくという、トンデモない歴史改変小説なのです。

よく「歴史にifはない」と言われることがありますが、歴史改変小説はその言説とは真逆のエンターテインメントです。

しかし、こうして「もし○○が○○に勝っていたら」といった想像を巡らせることで、読み手は多くのことを学ぶことができます。

『文明交錯』で描かれているアタワルパが躍進するヨーロッパ世界は、史実とは異なることの連続でした。スペイン人がやってくる前に、北欧から天然痘がもたらされていただけで、ここまで世界はガラッと変わってしまうことがわかります。

この様に大きく世界史的なスケールで物事を考えてみると、現在生きているこの世界も、ほんの少しの出来事がきっかけで全く違う未来が訪れるかもしれないと考えられるようになります。そうすると自分の考えや行動も、世界と連動するように意識することに繋がります。

また、『文明交錯』で描かれるアタワルパは、才能に溢れたカリスマ的な皇帝でしたが、史実ではスペイン人たちに処刑され、歴史には敗者として記録されています。

どんなに有能な人間でも成功できないことがある、歴史的な背景が存在するのです。こういったストーリーをイメージすることで、幅広い客観的な視野で自分を含めた物事を捉えられるようになります。

こうして歴史に思いを馳せる機会を持つことで、世界と自分の関係を意識したり、幅広い視点を持つことができたり、生きていくうえで大切な能力を身に付けることに繋がります。

歴史を勉強したところで就職が有利になったり給料が上がるようなことはありませんが、これからの不安定な時代を生きていくためにも、どんどん歴史改変小説を読んでいこうじゃありませんか。

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