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努力の無意味さを思い知る|貧血に学ぶ課題解決
僕は努力を押し付けてくる人がどうしても好きになれない。もちろん努力が大切であることは理解しているが、何でもかんでも努力が解決してくれるわけではない世の中で一生懸命さを説き続けることに強い違和感を覚えてしまう。
ここ最近、職場でスタッフによるデータの入力漏れが多発しており、これによって業務に悪影響が出始めている。それに伴い、これらを管理する部門の社員が「必ず入力するように」と強い文面で指摘をするようになってきた。
なかにはその指摘に疲弊してしまったという社員も少なくないらしい。休職してしまった社員が数名いるが、もしかしたらその指摘にストレスを感じていた可能性さえある。
もちろん入力すべきデータを入力することは仕事なのだが、今はもはや「自動化が民主化された時代」なので、誰でも自動化による業務効率化を計ることができる。エクセルでもAIでも何でもいいので、そもそもデータ入力の手数を減らしてあげることに思考を向けてあげるべきだと思う。
そういった仕組みが整った本来の現場であれば、スタッフも不要なデータ入力に貴重な時間を割かずに営業や企画など、コミュニケーションやクリエイティブが求められる人間らしい働きをすることができる。
しかし、そういった仕組み側に目を向けずに「仕事なのだからやるべき」という、努力を強いる言い方に簡単には同意することができなかった。
努力は基本的に価値あるものだが、時に無意味にもなり得ると思っている。
僕はかつてひどい貧血になったことがある。常に頭がフラフラしてしまい、本を読んでもすぐに寝落ちしてしまう。休みの日には11時間眠り続けてしまっていたほどだった。
この現象に対して、まずは通院して血液検査をして原因を調査してもらった。明らかにひどい貧血の値が出ていたので、鉄剤を処方してもらい毎日鉄剤を飲みつつ、勧められた食事や生活習慣を意識して過ごしていたが、なぜか一向に治ることがなかったのである。
そんななか仕事の都合で引っ越しを伴う転勤となり、貧血は治らないまま強制的に別の病院で貧血の原因を検査することになってしまった。初めて住むエリアでの通院に不安もあったが、みな良い人ばかりで真摯に原因を調べてくれた。
そこでわかったのは、貧血の原因が鉄分不足ではなく、ビタミンB12の不足によるものだったという事実である。
ビタミンB12は、血液を作るために欠かせない栄養素だ。普通は食事で摂取したビタミンB12が、胃で作られる特殊な成分と結びつき、それが腸で吸収されることで、体に取り込まれる。この仕組みが正常に働くことで、健康な赤血球が作られ、貧血を防ぐことができる。
しかし僕は過去に胃の摘出手術をしている。胃がないと、このビタミンB12を吸収するための大事な成分が作られない。だから、どんなに食事を工夫しても、ビタミンB12を体に取り込むことができないのだ。
そしてさっそくビタミンB12を処方してもらい服用を始めたところ、みるみるうちに貧血の状態が改善され、すっかり健康になってしまった。
今までほうれん草を食べたりレバーを食べたり、運動をしてみたり早く寝てみたり、あれこれと努力を繰り返していたがそれらはほとんど意味がなく、ビタミン剤を飲むだけであっという間に解決されたのである。そしてビタミン剤に含まれているビタミンB12は、とてもじゃないが通常の食事から摂取できる量ではないこともわかった。ビタミン剤には通常の食事の数十倍レベルのビタミンB12が含まれている。
ここで冒頭の職場におけるデータ入力の話に戻るが、僕の貧血のエピソードと同様に、大切なのはあれこれと努力することではなく、原因を究明するために頭を使って考えることなのだと思う。
貧血の原因がわからずに闇雲に努力していた膨大な時間に、本来はもっとたくさん本を読んだり外出したり、たくさんできることがあったはずだ。良かれと思って行った努力が時間の無駄に終わるなんて、あまりにも悲しい事実である。
職場でもそれは同じだろう。多くのスタッフはデータ入力をするために働いているわけではなく、もっと生産的な仕事に時間を使いたいはずだ。現場の誰もが生産的な存在になれるよう、努力を強いるのではなく頭を使って考えていく職場にしてあげたい。