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防御力を高める読書|資本論と経済学

若い頃に仕事の厳しさや生きていくことの大変さを知り、その時にたくさんの本を読んでいた。仕事や人生で辛いことが起こったら、まずは書店に駆け込むのである。

その時に読んでいた本で印象に残っているのは、マルクスの資本論に関する入門書や経済学に関わる本であり、すぐに役立つ本ではなかったというのが印象的だ。資本論を読んだところで来月の給料は上がらず、経済を学んでも会社でこなす作業は大して変わらない。

そんな本ばかり読んでいても、目の前の仕事での成果は一向にあがらない。もっと役に立つビジネス書が世の中にはたくさんあるのだ。

余談だが、当のマルクス本人は資本の研究をしているにも関わらず、自分は無職で貧乏だったんである。だから、『資本論』に資本のことは書かれていても、僕たちが来月の給料をあげる方法が書かれていないのは当たりまえなのである。

しかし、それでもこれらの本を読んだ経験は本当にタメになったと思えている。それはなぜかと言うと、会社員としての自分を守ることになったからだ。

例えば、佐藤優の『今生きる資本論』は本当に役にたった。

マルクスと言うと、思想について過剰なイメージを持たれがちだが、本書ではあくまで資本を分析する視点で講義が行われていく。資本主義のシステムを理解するにはもってこいなのだ。

資本主義がどういうものかを知っておくことで、仕事でうまくいかない時も、身近な人に感情的になることはなく「資本主義経済のもと企業はこういう風に動くから、そりゃあこうなるわな」といった冷静な受け止め方をするようになったのだ。

これらの本は、現場で働いている労働者の感情のことなど書かれていない。

だから、会社員が感じる不条理やモヤモヤする感情にも、冷静に対処することができる。それが嫌だったら資本主義社会から降りるしかない、と諦めがつくのだ。

資本論だけでなく、様々な経済学の本を読むことも、労働者とは別の観点を学び取ることができて、非常に役に立ったと思っている。目の前の仕事の助けにならなくても、俯瞰的な気持ちで世の中を見ることができれば、気の持ちようは変わるものなのだ。

こうして振り返ってみると、自分がしてきた読書はどれも「自分を守る」ために行われてきたように思えてくる。ビジネスで成功を掴むためのノウハウを得るんではなく、世の中を把握することで自分の身の振り方を学び、防御力を高めていくのである。

どっちが正しいということではないが、30代も半ばになって多くの人の悩みを聞くようになった今、防御力が高い人は結構少ないように思っている。みんな仕事で辛いことがあると感情的になり、上司や会社の不満を次々に口にしながら職場を去っている。そんな現状は今もまだまだ続いているようだ。

世の中には、ビジネスで成功する方法や金を稼ぐ方法が、ノウハウとしてたくさん出版されている。それらはとても実践的ですぐにでも役立つものだろう。だけど僕はそういう本より、すぐには役立たないけどいつか必ず自分を守ってくれそうな本に魅力を感じるんである。

だから、興味を持った人は、ぜひ防御力が高まりそうな本を読んでみて欲しい。選書のコツとしては、やはり古典がおすすめだ。古典は難しいので、謙虚な気持ちで入門書から読んでみるのが良い。

こうして、もっと多くの人が資本論を読んだり経済学を学んだりすると、防御力の高いカラッとした人材が労働市場に増加し、企業内の人間関係のトラブルは減り、離職率も下がるんじゃないかと思ったりもする。

まぁ、結構ドライな社会になってしまうかもしれないけれど。

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