解雇規制の庇護下のもと、心を痛めて辞めていく会社員
日本には解雇規制というものがある。雇用者が従業員を不当な理由で解雇することを防ぐための法律や制度であり、そのため、日本の会社では滅多なことがない限りクビになることはない。裁判を挟む必要が出てくるのだ。
つまり雇用者側は、労働者を採用したからには中長期的に育成しなければならない。人員の新陳代謝を計るには早期退職の制度を設けたりして、自主的な退職者を募るしかないのだ。
この構造によって、労働者は一定の安心感のもと働くことができるが、その一方でひとつの会社に居続ける社員が多発するといった現象も起こってくる。会社に依存した状態で居座ってしまうのだ。
仕事をしていると上司も部下も強烈なプレッシャーを抱えながら仕事をするので、ついつい強い言葉を発したり反抗的な態度をしてしまうこともあるだろう。そういう時に問題になるのがパワハラである。
「何もそこまで言わなくても…」といったことも当然あり、世間ではメンタルを病んで休職および退職する人が後を絶たない。
こういった人たちはメンタルや体調を立て直してから再就職をするのだろうが、これは会社側が解雇したのではなく、あくまでも自己都合退職扱いだ。
だとしたら、退職した人たちは「そんなに言うならクビにしてくれればいいのに」と、どこかのタイミングで思ったに違いない。きっと、けちょんけちょんに言われて心が持たなくなっているはずだ。
しかし、解雇規制があるおかげでクビにしてもらうことができず、結果的に自分から自己都合で辞めることになる。
こうして考えてみると、解雇規制という労働者を守るはずの制度によって、却って労働者をしんどい状況に追い込んでしまっているのではないか。
もちろん、僕は外資系企業のような、レイオフされるのが当たり前の厳しい環境で働いたことがないので、解雇されない安心感の有難みをわかっていないのかもしれない。きっと想像以上に凄まじいプレッシャーなのだと思う。
ただ、結局のところ傷心して自己都合退職してしまう社員が発生している現状を考えると、問題は制度だけにあるわけじゃない気がしてくる。そして、どっちにしろ解雇はされないけれどひどい扱いを受けている会社で長く働きたいなんて、普通は思わないだろう。
だから、こんな環境下でも、労働者側ができることを積極的にするべきだと思う。
会社に立ち向かうのでも良いが、面倒なことにもなるのでおすすめできない。会社の理解を求めることもできるが、あまり期待はできない。じゃあどうすればいいのか。
やっぱり自分の市場価値を高めて転職することなんじゃないか。転職は大きな決断だけれど、人生も大きく変えてくれるはずだ。
欧米の事情を知ると、解雇規制が厳しくないから転職が当たり前の文化が定着しており、誰もが転職によって給料をあげている。詳しくは小熊英二先生の「日本社会のしくみ」を読むと、日本と欧米の労働事情の違いがよくわかるので、そちらを読んでみて欲しい。
だからやっぱり解雇規制がない方が、ひとつの会社に依存せずに転職を繰り返してキャリアを重ねていく人生を送れるのかもしれない。
ただ、僕も含めて長年染み付いた文化というのは、なかなか抜け出すことができない。人間は変化よりも現状維持の方を好んでしまう傾向がありようだ。
限られた人生、変化にはポジティブな考えを持ち、しっかりと意思決定をして、有意義なキャリアを積んでいきたいものだ。