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ビリギャルと本多静六|一発逆転と大器晩成

挫折経験を経ていることが、その後の人生により良い影響をもたらすことがあります。

病弱だったことが理由で学校ではいじめられてしまい、良い環境下で教育を受けられなかったが、その後の受験勉強において一念発起し、有名校に進学する。

また、貧しい家庭に生まれたことによって自然と反骨精神が育まれ、起業家として大活躍する。

こういった「一発逆転」とも言えるストーリーは、読み手にとって大きな勇気となり強い影響を与え続けています。苦しかった状況から一転して人生の成功者に昇華していく過程は、物語性もあるため単純な読み物やドラマとしても幅広く好まれるのでしょう。

かつてベストセラーとなった『ビリギャル』などは非常にわかりやすい例かと思います。

僕も実際に「ビリギャル」を読んで一念発起して大学受験の勉強を始めたという若者に会ったことがあります。

当時「ビリギャル」は単行本と文庫版をあわせて100万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされ200万人程度の動員数を記録していたので、合計すると数百万人もの人たちにこの物語が届いたことになります。

その中から実際に大学受験に向けて勉強を始めた人も多くいることを考えると、この作品が社会に与えた影響力は計り知れないものだと思います。

しかし、「ビリギャル」の影響を受けたことで、慶應大学をはじめとした難関大学の受験を希望する若者が増えれば、受験の倍率が上がってしまう事実も見逃してはいけません。

勉強を始めることは重要ですが、世の中には有名大学以外にも数多くの大学があるので、自分が学びたいことを学ぶことができる、自分に合った大学を選ぶことの方が重要です。

何も「ビリギャル」の様に「一発逆転」をしなくとも、長く続く人生なのだから、もっとどっしり腰を据えて将来を考えてもいいんじゃないかと思うことがあります。

将来に不安を抱いていたり、現状に不満を感じている時、人はどうしても「すぐに役立つ情報」や「勇気をもらえる情報」を求めるため、「一発逆転」のストーリーが話題になるのは当然のことです。

しかし、役に立つまでに長い時間はかかるけれど、着実に実行することによって、かなりの高確率で夢が実現する再現性の高い物語も、もっと世の中に周知されても良いのではないかと思います。

明治・大正・昭和にかけて活躍した、本多静六という大学教授の先生が『私の財産告白』という本を出しています。

本多静六先生は大学の教授ですが、月給の4分の1を天引き貯金する質素倹約な生活を地道に続けていました。

そして、40歳を過ぎる頃にはコツコツと天引きされてきた貯金も大きな原資になるまで膨らんでおり、当時は発展途上であった日本鉄道の株や秩父の山林を買収します。

その後、日露戦争後の好景気が訪れ、所有していた株式や山林の値段は数十倍に膨れ上がり、ひとりの質素倹約だった大学教授が莫大な富を得ることとなったのです。

そして本多静六先生の凄いところは、こうして得た財産をその後の社会のために全額寄付してしまうところにあります。

「財産告白」というタイトルから、金儲けの方法が書かれているマネー本の様な印象を受けるかもしれませんが、信念と誠実さを持ちながら少しの工夫と質素倹約な生活を継続することで、誰もが豊かで幸福になれることを証明してくれる、全ての国民に向けた再現性の高い一冊なのです。

『私の財産告白』では、人生における最大の幸福は「職業の道楽化」だと書かれています。仕事を辛い労働ではなく楽しむことができる趣味にしてしまうことが、人生において最も幸せだということです。

また、金を稼ぐことについても「お金は仕事という道楽の粕(かす)」だと書いています。お金とは、楽しんで仕事を続けているうちに自然と発生するものだということです。その金を4分の1天引き貯金することで巨万の富を築くのです。

世の中には、多くの偉人伝が伝えられています。孫正義や松下幸之助の自伝、スティーブジョブズやイーロンマスクの伝記など、一般の感覚では考えられないような成果を挙げている偉人の生き方から学ぶものは非常に多くあります。

しかし、彼らの様な特別な存在は、参考にすることはできても真似することは非常に難しいものです。その点、給料の4分の1を毎月天引きで貯金することなら、誰でも真似することができます。

現代の出版業界において「財産告白」というワードが「ビリギャル」の様に多くの人の目を惹くようには思えませんが、『私の財産告白』には現代においても再現性の高いノウハウがたくさん書かれています。

地道にコツコツと今を生きていくことが、明るい未来に繋がっていると信じることができれば、日々の仕事や勉強も自然と楽しくなっていきます。

こういった地味ではあるが再現性の高いストーリーがもっと多く普及して欲しいと願っています。

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