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第1回Q&A 日本語運用力を育成する授業の流れ 後編

JF日本語教育スタンダードの目標設定、第二言語習得研究に基づく活動の流れ、音声のインプットなど、日本語運用力を育成する授業の流れ、求められる教師の役割について考えた回です。
*この回では、主に、初級1A2〈かつどう〉トピック2 第3課 「日本はいま、はるです」を例にとり、講義が行われました。前編、後編に分けて公開します。

Q9:文法を「まず学習者に考えさせる」理由は?

文法を「教師が先に説明せず、まず学習者に考えさせる」のはなぜでしょうか。何か研究に基づいた背景や理由などがあるのでしょうか。
 
A9:第二言語習得理論では、私たちが言語を聞いて理解できるようになるために既有知識や文脈などを使って予測・推測することが大事だとされています。教室で学習者に未習の文法について考えさせるのは、この予測・推測のストラテジーを身につけてもらうためです。
 
 

Q10:どうして「聞くこと(インプット)が先」?

「聞くこと(インプット)が先」という流れは、日本国外にいて日常的に日本語を聞く機会がないことが前提となっている、という理解で合っていますか。
 
A10:「聞くこと(インプット)が先」という流れは、第二言語習得理論でそう言われているため採用しました。一時代前は外国にいると日本人と話す機会も日本語を聞く機会もごく限られていましたが、今は、IT技術が進んだおかげで海外にいても外国語の音声に簡単にアクセスできるようになりましたね。海外の学習者にとって、良いことだと思います。
また、国内にいて、周りでたくさん日本語に触れる機会がある学習者でも、自分のレベルに合ったインプット(既有知識や推測しながら聞いて理解できる程度)が十分得られないこともあります。国内で学んでいる学習者にも、ぜひ音声教材を活用してください。
 

Q11:終助詞の説明はする?

聴解テキストで「~ね」「~よ」が使われていますが、その説明はしますか。
 
A11:終助詞「~ね」「~よ」は会話で多用されるため、入門A1から会話文に入っています。学習者から質問があれば、ごく簡単に説明します。
ちなみに「~ね」は、初級1A2〈かつどう〉第4課で挨拶表現(いい天気ですね)を取り上げる際に明示的に提示していますが、説明はあくまでも最小限にとどめます。(文末の「ね」は相手に共感を求める「ね」。相手が自分と同じ経験しているはずだという前提のもとに使われる。「教え方のポイント」より)
「~よ」は、初級2A2〈りかい〉第5課で表現文型の一部(「V-た/ないほうがいいです(よ)」)として扱い、文の印象を柔らかくすると、英文で説明しています
 

Q12:学習者が形式上のルールに気づかない時は?

聴解後、学習者がルールに気付かない場合、どのような工夫が必要でしょうか。また、入門には「ルールをはっけんしましょう」という項目がありませんが、気づいたかどうか確認してから、次のペアワークに進めた方が良いでしょうか。
 
A12:まず入門A1のほうからお答えします。入門A1の主な表現は語彙レベルのものが中心になっているので、「はっけん」は特に設定していません。しかし、「ききましょう」の会話を聞きながら、主な表現に気づけたかどうか、また、ほかにどんなことばが聞こえたか/使われていたかを確認してから、次のペアワークに行くといいと思います。
 
次に初級A2からは、聴解で学習者がルールに気づくような工夫が必要になります。「はっけん」で学習者にやってほしいことは、大きく分けて、①形式に気づく、②その形式が持つ意味や、活用等に規則性があればそれを推測し、確認するということです。まずは、①音声に含まれた形式に気づくことから始めてください。
 
●    形式に気づくために
「はっけん」では例文が文字化されていますが、まず音声から言語形式に気づかせるために、「ききましょう」の会話を全部聞いて質問の答えも確認したところで、学習者に大事な表現に気づいたかどうか聞いてください。それから、気をつけて聞く部分を意識して(項目がわかりやすい会話を選んで)、もう一度聞いて、「はっけん」への導入にしてもいいと思います。
気をつけて聞く部分を示すときには、スクリプト全文を示すのではなく、以下の例のように線や、ごく一部の語だけでも表すことができます。
 
A:日本は今、どんなきせつですか。
B:                               
A:へえ、                  
じゃあ、                  
B:だいたい                 
A:             
 
●    ルールを推測するために
語の活用方法など、形式上のルールは、例をよく観察することで何らかの気づきがあると思いますが、そのとき学習者自身がルールを頭の中で言語化してみることが大切です。母語でいいので、「~い」が「~く」になって「なります」と続ける、というように、自分なりにルールを言語化できるようにしてください。また、それをペアで言い合ってもいいです。最後は先生が正しいルールをごく簡単に伝えて確認します。
 
●    意味を推測するために
言語形式の意味(文法的な意味・機能など)は抽象的なレベルでの推測は可能ですが、扱う項目によっても、また学習者によっても、推測の程度は様々あります。さらに、この段階でできることは、あくまでも特定の文脈・場面における意味の推測です。ですから、学習者に考えさせたあと、先生からも短く簡単なことばで確認してください。その際、先生は説明を複雑にしないことが大切です。なお、〈かつどう〉と〈りかい〉を併用する場合は、〈りかい〉で、もっと学ぶことができます。
 
さて、会話から言語形式の意味を推測するには、文脈・場面が必要です。「ききましょう」の回答欄に答えが入った状態で利用して、会話の内容を思い出しながら、意味の推測を誘導することもできます。以下は、先生(T)と学習者(S)のやりとりのイメージです。
 
T:「ききましょう」1番をもう一度思い出しましょう。今、どんなきせつですか。
S:ふゆ、です。
T:ふゆは、さむい?あたたかい?
S:さむいです。
T:そうですね。3月ごろは、どうなりますか。
S:あたたかいです。
T:(文字で示す)さむい → あたたかい
  気温が 変わりますね。こういうの、一言で言えますか。
S:?
T:変化 Change
(文字で示す)あたたかくなります
 なりますって、どういう意味ですか。
S:become(インターネット辞書ですぐ検索)
T:そうです。 X が 変化して Y になる、それが変化ですね。
S:なるほど!
 
 

Q13:ニーズがはっきりしていたら教師がcan-doを作るの?

学習者が何をしたいか分からないときには教師がCan-doを提示することができますが、学習者が「これができるようになりたい」と思ったときには、テキストから離れて教師が内容を作る、ということになるのでしょうか。
 
A13:学習者のニーズがはっきりしていて、授業で教えてほしいというリクエストがある場合には、そうするのがいいと思います。ただし、そのためには、「JF日本語教育スタンダード」などからレベルにあったCan-doをまず見つける/作成すること、学習素材(モデルテキストなど)を見つける/作ること、学習方法を考えること、また、必要なら教材を作ることなど、教師の負担は大きいです。
そのような余裕がなければ(ないことのほうが多いと思います)、入手可能な教材を自分の授業用にアレンジして使うようにしてはどうかと思います。
 
 

Q14:仮想キャラを設定した会話練習でもいい?

プライベートレッスンなので、学習者同士で会話させることができず、自分のことを話す会話練習は一度すると内容が分かってしまいます。ロールプレイのような形で、自分のことではないけど仮想のキャラクターの設定で会話をする練習をしていますが、こういう練習でも効果は得られるでしょうか。
 
A14:たしかに学習者が一人の場合、会話は練習させにくいですね。自分ではない人物になってロールプレイ的に会話をするのは、ほんとうのコミュニケーションではない点が残念ですが、練習にはなると思います。「まるごと+(まるごとプラス)」の会話練習もご利用ください。
 
 

Q15:反転授業やオンラインで使うなら…

探究型の教科書ということはわかるのですが、反転授業との親和性に関してはどのようにお考えになりますか。また、リスニング(インプット)が多いですが、オンラインのクラスについては、どのようなやり方をおすすめされますか。
 
A15:『まるごと』は、言語の意味やルールを学習者自身がまず考えてみることを重視していますが、トピックやテーマについての事前学習や情報収集を前提とする授業ではありません。もし異文化理解学習について反転授業的な展開で授業をするのであれば、日本の生活文化・日本事情をテーマに事前学習をした上で、教室でさらに学習を深めたり、拡げたりするのがよいだろうと思われます。
オンラインのクラスについては、ウェブサイト「まるごと+(まるごとプラス)」で語彙、文法、漢字、会話、リスニング、日本の生活文化に関する様々な活動や情報を提供していますので、ぜひご利用ください。
 
 

Q16:〈かつどう〉と〈りかい〉両方使うときは…

〈かつどう〉と〈りかい〉を両方進める場合、課ごとに〈かつどう〉をやってから〈りかい〉をやりますか。それとも臨機応変に学習者の様子で変えるのですか。
 
A16:〈かつどう〉から〈りかい〉という順番で、課ごと、またはトピックごとに、教えている事例が多いようです。特に課ごとのほうが教えやすいという報告をよく聞きます(例:かつどう第1課→りかい第1課→かつどう第2課→りかい第2課)。
〈かつどう〉が帰納的学習(言語使用例からの気づき、推測、確認)、〈りかい〉が演繹的学習(ルールの明示的学習→適用練習)と考えると、第二言語習得研究の考え方に合っているのは〈かつどう〉の方です。〈りかい〉で先にルールを学ぶと、後で〈かつどう〉を使うときにはもうルールを知っているので、帰納的学習にはならないという問題があります。
 

Q17:「スタンダード」と「Can-do」の違いって?

「スタンダード」と「Can-do」の違いについて教えて頂けると有難いです。スタンダード自体にも能力記述文があるため(例:東京外国語大学や北海道大学のスタンダーズ)、スタンダードの各レベルの能力記述をより詳しくしたものがCan-doといった印象を受けたのですが、この理解で良いのでしょうか。
 
A17:「スタンダード」は、日本語教育を行っていくうえで私たちが指針とする大きな枠組みです。その指針を教育現場で実践するための道具の一つがCan-doです。例えば、「JF日本語教育スタンダード」は、行動中心で課題遂行型の授業や評価を実践するのに有効な道具としてCan-doを整備しています。Can-doは、CEFRやJFスタンダードの「全体的な尺度」や「自己評価票」にある一般的な能力記述だけでなく、具体的で多様な言語活動を記述しています。以下のリンクを参考にしてみてください。
〈参考〉
JF日本語教育スタンダード
JF日本語教育スタンダードに基づくCan-do
 

Q18:『まるごと』が日本国内でもおすすめな理由

日本国内で使用する教材として、『まるごと』が『いろどり』よりも優れている点を教えて下さい。
 
A18:『いろどり』との比較はしていませんが、以下のような点でおすすめできます。
・    『まるごと』はコースブックとして設計してあるので、想定授業時間に合った内容に絞り込み、手順を練ってある。先生は本にある順番で教えていけばよく、従来型の文型シラバス教科書で教える場合と比べて、授業準備の負担が(人によっては格段に)軽減される。
・    『まるごと』は入門A1から中級B1までシリーズで刊行されており、来日前に『まるごと』で学んでいた学習者が、来日後も継続学習する場合、スムーズに対応できる。
・    学習者が自分のこと(国、町、文化)を発信するような会話が多い。国内でも日本語を使って自己表現をするチャンスをもちたい学習者のニーズに合っている。
・    会話内容が日本語を使っての交流場面が多いので、日本で生活しながら知り合い・友人を作りたい学習者のニーズに合う。
・ ウェブ教材「まるごと+(まるごとプラス)」があり、自習しやすい。
・    『まるごと』入門A1は、後半の読むテキストを除いて、ローマ字とかなが併記されている。文字を最初にまとめて覚える時間がない学習者や、文字学習に不安を感じている学習者にも安心して使える。
 
 

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