第2回Q&A 日本語運用力の育成につながる文法のとらえ方と指導法
「課題遂行(Can-do)だけでは日本語の力がつかないのでは?」というよくある疑問に答え、トピックや文脈・伝えたい内容を大事にして学ぶことについて考えた回です。
*この回では、主に初級1(A2)りかい トピック2 第3課 「日本は今、春です」を例にとり講義が行われました。
Q1:〈りかい〉は独習で使えますか?
授業では〈かつどう〉だけを利用しており、〈りかい〉は希望者に独習用として勧めているのですが、そもそも〈りかい〉は独習で使えるものでしょうか?
A1:ひとりで問題を考えたり、「聞いてチェックしましょう」で答えを確認したりすることもできるので独習でも使用は可能です。
ただ、〈りかい〉の意図や良さを十分生かせるとは言えません。〈りかい〉では、学習者同士で確認したり、ことばを分析したりしていく過程が大事だと考えていますので、本来は授業で使うことを想定しています。
Q2:教科書の各パートにかける時間を知りたい
「もじとことば」は、何分くらいかけて教えますか。また、「かいわとぶんぽう」で行う会話練習の時間は、どれくらい取れるといいでしょうか。
A2:まるごとサイトの教師用リソース、「教え方のポイント」に授業構成の目安がありますので、ぜひ参考にしてください。
●1課(120-180分)の目安
・ トピックの扉ページ/べんきょうする まえに:5分程度
・ もじとことば:30分程度
・ かいわとぶんぽう:50~80分程度
・ ことばと文化:5~10分程度
・ どっかい/さくぶん:20~25分程度
・ にほんごチェック:5分程度
Q3:「かいわとぶんぽう」、どう練習する?
「かいわとぶんぽう」の会話練習例を教えてください。
A3:モデル会話をそのまま学習者同士で行います。質問の答えの部分を学習者が自分のことに変えて言うといいでしょう。
Q4:〈かつどう〉と〈りかい〉、効果の違いは?
〈かつどう〉を使用して「話せるようになる」と、〈りかい〉を使用して「使えるようになる」の違いを教えてください。
A4:〈かつどう〉は、Can-doが達成できる(話せる、その他の技能の活動ができる)ことが目標です。〈りかい〉は基本文型を理解し、文型を使って正しい文が作れること、文型が含まれている読解や、作文で文型を使えることが目標だと考えています。
Q5:ルビをつける/つけない理由
〈りかい〉では漢字にルビがありませんが、ルビをつけない理由は何ですか。
A5:〈りかい〉では漢字が読めるようになることを学習目標としているので、「もじとことば」の「漢字を読みましょう」で提示した漢字のことばには、その後ルビを振りません。一方〈かつどう〉は、漢字を読む(読めるようになる)ことは目標Can-doにしていないのでルビを振っています。
Q6:〈りかい〉だけで授業を進めるのはどんな時?
〈かつどう〉をやらずに〈りかい〉だけで授業を進める事例は、どのような場合ですか?
A6:〈りかい〉だけで進める授業は、日本への滞在経験からある程度話せるようになった方で、体系的な日本語学習の経験(日本語のコースに参加するなど)がない、あるいは、学習経験が少ない方に向いているでしょう。コースの中で、別途、会話の時間が用意されている場合も〈りかい〉だけでいいかもしれません。
Q7:筆記テストだけで能力評価になる?
受講者が多くて筆記試験しか行えない環境なのですが、授業中口頭で練習させた表現や文法を試験で書かせて評価することは、はたして学習者の能力評価になっているものでしょうか。
A7:〈りかい〉であれば筆記テストでもかまいません。テストの問題例を本文に掲載しています。〈かつどう〉の場合は、やりとりCan-do(会話)を文字で書かせても、それはやりとりの評価とは言えません。
Q8:〈りかい〉の文法練習部分はなぜここにある?
〈りかい〉の文法練習部分は、〈かつどう〉の「はっけん」の後にあってもよかったと思うのですが、このような分け方になっている理由は何ですか。〈かつどう〉の授業時間にインプット量を増やすことと、タスク達成(会話)の回数をできるだけ増やすためでしょうか。
A8:その通りです。〈かつどう〉と〈りかい〉には、それぞれに学習目的と方法があるので、このようにしています。
Q9:初中級以降が〈かつどう〉と〈りかい〉に分かれていないのは?
初中級以降は〈かつどう〉と〈りかい〉に分けられていませんが、その意図についてご教示ください。
A9:初中級の学習内容は、A2レベルとB1レベルのCan-doからなり、やりとり・話すCan-doに加え、読みのCan-doがもう一つの柱になっています。また言語項目は、入門A1・初級A2で学んだ文型・文法の応用的なもの、B1レベルのCan-doに必要で新規導入するものを選定しました。
入門A1・初級A2では、言語活動(かつどう)と言語能力(りかい)という分け方で効率的・効果的な授業と学習を目指しましたが、初中級ではむしろレベル間のつながりを持たせることを重視し、一つのトピックの中でもそれを意識して活動を配置、1冊にまとめました。
なお、中級では、技能のCan-doにそれぞれ必要な言語能力(音声、文字、文法、談話等)があるので、Can-do(かつどう)とことば(りかい)という分け方ではなく、技能ごとに独立性の高いパート構成になっています。
Q10:学習者に合わせて場面や文脈を調整する?
文脈や場面を変えた方がその人にとって分かりやすそうな文法の場合も、場面や文脈を変えない方がいいのでしょうか?
A10:場面や文脈は、目標Can-doの一部なので、提示されている場面や文脈は変えない方がいいです。「一貫した文脈」で聞いて理解する、そして使ってみることが大事です。文法や文型がわかることが目標ではありません。
Q11:教科書から外れたがる学習者がいます
『まるごと』を使って勉強する際、「広げたがる」「外れたがる」学習者には、どう対応するのがベストなのでしょうか?
A11:学習者1人ひとりの個性もあるかもしれませんが、学習は習慣的なものです。このような学習者は、そういう教え方・学び方に慣れているのかもしれません。『まるごと』の学習方法(Can-doを目標にして、広げない、外さない)を説明することが大事です。そして、この学習方法でできるようになったと実感できれば、新しい方法に適応できていくと思います。
Q12:日本国内で使う『まるごと』
先生は『まるごと』でも日本にいる外国人に使える多様性を持っているとおっしゃったのですが、『いろどり』との違いはどういうところにありますか?『まるごと』でも十分日本での生活者に対応できますか。直接講義と関係ない質問ですみません。
A12:日本で生活している人に必要な場面の実用会話(ごみの分別、防災訓練への参加など)は『いろどり』にあります。『まるごと』には、海外でも日本でも、どこにいても起こり得る交流会話が多く入っています。
セミナー第1回でも、『まるごと』と『いろどり』の違いに関する質問がありました。そちらの答えも合わせてご覧ください。
Q13:学習者の国籍がほとんど同じ場合には
海外で教えていると学習者の国籍がほとんど同じなので、「あなたの国の〇〇について」という練習では答えがみんな同じになってしまうことが多く、ちょっとつまらないです…
A13:ご苦労お察しします。入門や初級のレベルでは少し難しいかもしれませんが、同じ内容であっても、限られた言語知識であっても、その人らしく日本語を話すということを目指せるといいと思います。例えば、「今の季節について話す」という会話であれば、自分が日本に行く予定や行きたい時期に合わせて答えるとか、「ききましょう」の中のどれかをモデルにしてみるなど、Can-doの範囲の中で、学習者が主体的に設定を考えられるといいと思います。
広くて多様性がある国の都市部の成人クラスなら、出身地方のことを取り上げてみてもいいでしょう。