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さんぽ絵日記 由比ヶ浜の宵宮

夏の匂いが町じゅうに立ち込めていた。お米屋さんに行こうとしたら、いつもの駐車場が祭りの休憩所になっていたので、お米屋さんに尋ねると、今日明日が葛原岡神社くずはらがおかじんじゃの祭りだという。

鎌倉の祭りシーズンの幕開けとなる由比ヶ浜の祭りは、丘の上にある葛原岡神社の祭りなんだそうだ。普通、氏神さまは町内にあることが多いと思うけれども、ここでは何故か少し離れた神社の神輿を下ろして、由比ヶ浜周辺の町内で担ぐのだそう。

そういえば今までもこの祭りには何度か遭遇している。たいてい車で鎌倉を抜けようとして大渋滞に巻き込まれてどうしたのかと思っていると、交通整理の先に山車や神輿がいたりした。

でも、まじめに葛原岡神社の祭りを観たことはない。お米屋さんに今晩が宵宮だと教えてもらったので、久々の祭りの雰囲気を浴びに観に来ようかな、という気分になった。

夕方、日が暮れた頃になってしまったけれど、まだやっているかな、と神輿を探すと、和田塚の駅のあたりでお囃子が聞こえてきた。音のするほうへ進めば、ちょうど神輿がやってくるところ!

由比ヶ浜公会堂の前は神輿の休憩所になっていて、提灯もついていた。暗く暮れた夜空に提灯の灯った神輿が美しい時間。

山車の上ではお囃子が盛り上がり、神輿の到着を待つ。神輿は揃い半纏から察するに、地元由比ヶ浜と、鎌倉市内のいくつかの他の神社の氏子衆の応援部隊であるようだ。担ぎ手が少なくなったので、祭りの度にほかの町の氏子が互いに助け合って神輿を担いでいるらしい。

でもあれ?なんか思ったほどには賑やかではない。見に来ているのはほとんど神輿を担ぐ関係者やその家族、といった風情で、わざわざ見に来ている人はそれほどいないようだった。

もちろん、出店などない。もしかするともっと駅に近いほうだとまた雰囲気が違ったのかもしれないけど、観光地鎌倉の商店は暗くなる頃には営業を終えているところが多いので、暗くて静かな町の中を、ただ、お囃子と神輿が町をしずしずと進んでいるような雰囲気。

本当に町の人たちが自分たちのためにやっている祭り、という感じだったのが意外で、でもそれがとてもよかった。鎌倉といえば、オーバーツーリズムも叫ばれる観光地だし、こういった伝統的宗教的祭りは多分あえて公に知らせたりはしていないんだろうな。

見せるためのものではなく、当事者が町のためにする、それが祭りのあるべき形だと思っているので、部外者の私は遭遇できたことをただありがたく思って深追いせず早々に帰路につく。

葛原岡神社のお囃子は、わが町内のものとよく似ていた。ほとんど一緒な部分もあるけれど、ところどころが微妙に違う。その違和感が気になって、あるいは久々のお祭り気分に少しうかれたい気分で、帰り道では自然とわが町のお囃子の鼻歌を口ずさむ。

あー、いよいよ夏が来るよね。


由比ヶ浜 葛原岡神社の宵宮

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