「甘え」がもたらす癒し――アラン・N・ショア『右脳精神療法――情動関係がもたらすアタッチメントの再確立』より
いま、心理療法の世界ではパラダイムシフトが起きていると言われます。
一言でいえば、「情動」と「関係」を基盤とし、共に(同時的に)、感じ合うことで腑に落ちること、それが、アクチュアリティ(認識によって捉えることができない只中で進行している行為・行動)に働きかけていくアプローチです。ここには、右脳同士のコミュニケーションが深く関与しています。
翻訳者の小林隆児さんは、自閉症児の臨床と研究を長年されてこられた方で、母子関係における「甘えのアンビヴァレンス」という観点を主張されています。
簡単に言うと、母親が直接かかわろうとすると子どもは回避的になるにもかかわらず、母親がいなくなると心細い反応を示し、かといって、母親と再会すると再び回避的になる、というものです。
甘えたくても甘えられない・・・いわゆる、あまのじゃく。
これを、西欧では「退行」として記述することがあるのですが、小林さんは、それを「甘え」から捉え直すことを提唱します。
そういえば、戦後の日本社会では「甘えてはいけない」というムードが漂っていました。私が学生時代に書いた土居健郎『甘えの構造』に関するレポートは、この筋で読まなければ赤点でした。本に書いてあることと、講師の言うことが矛盾していたので、ダブルバインドのような感じになってひどく驚いたのを覚えています。
そのせいもあってか、まっすぐに甘えるということができず、言わなくてもわかってよという捻くれた甘えが横行しているように思います。
話を戻すと、小林さんはショアの理論の骨子を「不安ゆえに泣き叫ぶ乳児をしっかり抱きしめ、宥め、あやしながら、穏やかな状態になるように関わり続ける」というように表現され、治療者は当事者意識をもって自ら体感することを通して間主観を感じ取ることが大切であると述べます。
付け加えると、ここには双方向的に修復しようとする能力というものがあるともショアは言います。
どんなに安定した母親やカウンセラーにおいても、肯定的なものと否定的なものとは共存しており、誤調律はしばしば起こります。このときに、「カウンセラー(母親)がわかってくれない」となることもあります。
それでも、これまでに与えられてきたことが血肉となっていると感じられるかどうかなのかもしれません。
当相談室は、最新の精神療法も取り入れながら、引き続き二人三脚を大切に、取り組んでまいります。
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