あの街の夜に響く静寂の願い
“SHIBUYA”、渋谷駅ハチ公口のスクランブル交差点は、今や世界で最もよく知られている交差点のひとつだ。多い日には、世界中から50万を超える人々が訪れると聞く。
渋谷駅周辺の喧騒は、日々のストレスを忘れさせる一方で、時折その賑わいが過剰に溢れ出すこともある。渋谷区は、令和6年10月から施行される新たな条例により、午後6時から翌朝5時までの間、公共の場所での飲酒を禁止することを決定した。この決断は、渋谷が成熟した国際都市としての地位を確固たるものとし、区民や訪れる人々の安全と安心を確保するための重要な取り組みでもある。
なるほど、毎年のようにハロウィーンやクリスマスなどで報道される騒乱は、無秩序な路上飲酒がその一因なのであろう。そもそも、路上飲酒が許されている場所などどこにもない。
その夜、私は渋谷の街を歩いていた。道端に放置されたハイボールのアルミ缶が目に留まった。そのまま見過ごすこともできたが、モラルに欠ける悪行として私も同罪であると感じた。私はその「存在の本質を手放した街の異端者」を拾い上げ、最寄りのゴミ箱へ移動させることに決めた。誰かのためでもなく、ヒーローを気取るのでもない、ただ自身のささやかな良心に従ったのだ。
しかし、摘み上げた瞬間に予期せぬ事実が発覚した。何と、中身が半分以上残されたままだったのだ。巧妙に仕組まれた重層の罠にまんまと引っ掛かった私は、心の奥で深いため息をつきながら、中身を側溝へ静かに捨て、この忌々しい不快の元凶を更生の道へ導いてくれる箱へ向かった。
渋谷区は「迷惑路上飲酒ゼロ宣言」を掲げ、路上飲酒による通行の妨げやごみのポイ捨て、騒音などの迷惑行為を根絶するための取り組みを強化している。公共の場、すなわち多くの人々が共有する空間だからこそ、大切にそして丁寧に扱わなければならない。私はそう考えている。
住み、学び、働くこの地域が、誰もが快適に過ごせる「場」であり続けるためには、その構成要素である一人ひとりの行動が問われている。渋谷の夜に響く静寂の願いは、私たちの心の奥底に宿る小さな良心から生まれるのだ。