雲南日本商工会通信2023年7月号「副会長の挨拶」
大谷翔平さんの活躍がすごい。イチローもすごかったけどイチローは技術力で魅せるいわば日本人の延長。しかし大谷さんは体型とパワー、運動能力で秀でているわけで、これまでの日本人、アジア人の枠になかった新しい日本人像なわけですね。
拙稿では、ネットから拾った大谷選手の食事エピソードを、食品会社的な視点ですこし解説してみます。
■一食にゆで卵3個
むかしは、卵を食べ過ぎるとコレステロールが高くなると言われて、アメリカのFDAでも食べ過ぎは良くないと言われていて、それを信じている日本人も多かったですよね。ところが、その後、因果関係を証明できなくて、いつの間にかFDAの制限規定も消えてしまいました。
それどころか、コレステロール総量と死亡率の因果関係を調べると下の図のようなことがわかりました。
このグラフは、総コレステロール値と死亡率の関係を示したものです。
コレステロール総量が高いより低い方が、死亡率が高くなる傾向があり、これまでの常識とは正反対の結果になっていました。ただし、小粒の中性脂肪であるLDLが高いと動脈硬化のリスクを上げるようですので、注意が必要です。いずれにしても卵は、1個だけで生命が誕生するほど完璧な栄養バランスですから、食事に取り入れるのは合理的ということなのでしょう。
■一食で蛋白質は60g摂取、1日の摂取カロリーは4000kcal
鶏肉や豚肉、牛肉などのお肉の蛋白質は、部位にもよりますが100gあたり約23gです。これを1食で60g摂取しようとすれば、お肉を一食で250gくらいは摂取しなくてはなりません。ほとんど毎食ステーキを食べるくらいの肉の量は必要になります。筋肉も皮膚も髪の毛も内臓もインシュリンもその原料は蛋白質(蛋白質の原料は20種類のアミノ酸)ですから、食事に蛋白質を摂取するのが基本ですね。ご飯の蛋白質は2%くらいしかないわけで、ご飯で蛋白質をまかなうには、1食で3kgのご飯を食べる必要があるわけで、これではメタボか糖尿病になるわけです。
■食事は1日6回から7回
強度な運動を課すアスリートだからこそ、1日4000kcalという普通の人の2倍の摂取カロリーが必要なわけでしょう。食事の回数を増やし分散するというのは、一食の消化の負担を減らし、血糖値を上げすぎず、吸収を平均化するためには合理的だと思われます。代謝には、基礎代謝、運動代謝、食事誘発性熱産生の三つがありますが、基礎代謝は年齢や筋肉量に比例します。筋肉が多いアスリートは摂取カロリーが必要ですし、運動嫌いでメタボな脂肪の多い人は、代謝が少ないのに食べることが好きなので、どんどんメタボになるという悪循環なわけですね。
■パスタは塩で味付け
スパゲッティーソースには、多くの添加物が含まれているわけでしょうし、塩だけで食べるというのは、身体にとっては合理的かもしれません。他の麵とくらべてパスタに使われるデュラム小麦は15g程度の蛋白質が含まれていますからラーメンでなくパスタを選ぶというのには道理があります。
食事の本来の意味を「生きるための栄養摂取である」と考えると、「美味しい」という基準で食べるものを選ぶのは、文化ではあるけれど、人間だけが持つ選択基準で、本質ではないのかもしれません。SDGsの時代に、今後も「おいしい」だけを基準に右往左往するのも、どうなんでしょう。
■とんかつは衣を剥がして食べる
澱粉を高温で揚げると、アクリルアミドという神経毒が発生します。また油が古ければトランス脂肪酸も発生しますし、老化を促すAGEsも摂取することになります。基本的に「とんかつの皮」に何も良いことはありません。フライドポテトもポテトチップスも同じことです。食品は、生—茹でる—蒸す—煮る—焼く—炒める—揚げる、この順番で有害性が増します。何を食べるかも重要ですが、どう料理するかも重要です。
■ブロッコリーサラダ
野菜の中でブロッコリーは蛋白質が多いのに加え、ビタミンCやビタミンK、食物繊維が豊富で、スルフォラファンなどの抗酸化物質を含むので、アスリートの定番ですね。
■アイスクリームより和菓子
安物のアイスクリームにはトランス脂肪酸が含まれているので、避けているのかな。
トランス脂肪酸の有害性はかなり明白で、先ほどの悪玉コレステロールLDLを増加させ、心臓病の原因になりますし、細胞の炎症を促進し、ガンの原因になります。またインスリンの効果を阻害して糖尿病の原因にもなると言われています。安価な植物油に水素を加えるとマーガリンのように固形化して美味しくなるのがトランス脂肪酸ですから、安価な食品を作るには魔法の素材で、パンや菓子、ハンバーガーなど、多くの食品に使われています。安くて美味しいものをたくさん食べて、病気になって、医療費でお 金を吐き出して、早死にするというのが、ある一面の現実なのでしょう。
上の表が面白いのは、収入が低い人ほど、太っているということ。下の米ハーバード大学の調査が面白いのは、収入が低い人ほど、寿命が短いということ。
収入格差が、病気や寿命にも影響しているというのは、これまでの常識に反する現実で、なかなか難しいところです。20世紀までは、金持ちはお腹が大きく太って短命で、貧乏人は節食して肉体労働して元気だったのに、21世紀には貧乏人が過食と運動不足で肥満で短命になるというのは皮肉なことです。
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