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Daydreamer.#2

過去の争いの中で何故私の言葉が飛び去ってしまったのか
時間をかけて考える
私のノートに戻ってくるように神に頼んでみる

[Alexandros]『Travel』より

星降る夜、確実に、“kawakami”の贈る「夢の」ライブが人々に届こうとしていた。

僕らにはいつまでも
光と闇が待っているのいるの
Well I guess it's not so bad
(そんなに悪くないかもな)
今をただ生きていく

[Alexandros]『月色ホライズン』

 月明かりを道しるべにしなければならなくなった、わたし達に現実を突きつけるような切ない歌声が終点に届こうとしてる。

…わたしは大好きなRuLi(ルリ)が最後にゲストで出てくるなんて思ってもいなくて、感激と寂しさとで涙も心もグシャグシャになっていた。
 わたしは“Kawakami”さんの歌う曲も大好きだった。RuLiも出てくるなんて最高過ぎる。でも最終回だなんて…。
 
 いつもうちの犬と一緒に聴いて、わんこもすやすや眠ってたっけ。自分まで寝てしまって、翌朝何度も悔しいって思ったっけ…。わたしに出来ることは少ないけれど、余りある幸せな時間をありがとうっていつか二人に伝えたい。せめて毎回逃さずに聴いとけば良かったかな。そんなの今更かな。…。

*******

『…最後の曲です。聴いてください。』
The day is best ever !( 今日が最良の日だ ) 』

…あぁ。ほんとにもう終わっちまうんだな。RuLiは最高だった。
このタイトルって、確かこの歌手が初ライブをする時に偶然、このラジオを聴いてたとかいう、有名なエピソードがあったっけな。

The day is best ever!
今日が最良の日だ。

いつか“Kawakami”が言ってた言葉で。それでガチガチに緊張してたけど救われたんだって。何かで話してた気がする。そして一番有名な曲だと思う。いてて。訓練で創った傷が痛むのか胸が痛むのか、わからねーな。

******

『…おっと!Stopだ!今はここまでにしよう。』

…えっ?!私達はすっかり暗くなったキャンプ場を一度引き上げ、友人のキャンピングカーに乗り込んでラジオに耳を寄せていた。…ゲストの曲を今ストップさせるって、どういうこと?私はまた無意識に脈打つ胸に手をあてていた。

『…最後の曲だって?こんなところで俺達の夢は終わらせられないぜ!!“Kawakami”が来たからには夢を現実化させよう!…

ラスト一曲準備できてますか!ラスト一曲お祭り騒ぎ行きましょうか!!騒ごうぜー!!

『…さあシークレットパーティーに駆けつけろ!』 

『…場所はここ『Star Light』放送局のあるスタジオCRAB 836だ!
場所は……を西に2キロ……信号を……』

…唖然だ。いててて。
…私、担当待ってる場合じゃない!
…「このまま車出して!行こう!」
…すぐ近く!わたし二人に会う!
…“あの人”に会えるなら私も!
…俺も!

ひとしきりの歓喜は、つかの間。
或る者はスマホだけを手に。或る者はラジオを手に。
夢追う者こそがワタリドリのように群れとなって。夢の泉(もと)を目指し、暁の夜に、走った。

自衛隊員の気の所為ではない。
確かに一種、狂乱の夜、金色の獅子こと百獣の王が激しく咆哮した。

********

“Kawakami”さーん。いいんすかー?こんな無茶なことやっちゃってー。」

パン!とスネアを叩いた青年が楽し気に笑う。バス・ドラムがまだ興奮冷めやらぬ、熱気に満ちた空間を震わせる。
 “Kawakami”と同様、ブルーがかった黒髪を後ろで結った若きドラマーは、誘うようにリズムを刻み始めた。“Kawakami”率いるバンドメンバーの一人である。

“Kawakami”は観客が引き上げた後の小さなライブスタジオ(通称CRAB(CLUBではない) 836というらしい)の中を緩慢に、歩き周る。

 少しだけ高いステージから何もかもを見ていた。先に歌い終えたRuLiが観客席でともに歌う姿を見ていた。赤いガーベラを彼女から受け取った。
 最前列に並び、自分を見つめ、音の渦にのまれ踊り、意気投合した者は肩を組み、帰っていったリスナー達の残した痕跡を、ただ見ていた。

床に転がったパステルカラーのくまのぬいぐるみを、拾う。

誰かが落としてしまったのか、ルーン文字の書かれた水色に煌めく石。拾い、良さそうな紐でぬいぐるみの首に結ぶ。さながらネックレスのよう。カウンターに置く。

“Kawakami”さーん。」彼は“さーん”と伸ばすのが、癖だ。
「これ、預かったっすよ。」

 受け取ったのはメッセージカードと写真。RuLiと自分宛てだった。“ラジオネーム龍、花”。
 艶やかなアカシアの写真を裏返すと、“あんな”と読めた。この場で書いたのか、字や写真家のサインは乱れているものの、一目見るだけで、伝わった。

“Kawakami”は無人のステージ、マイクスタンドの前に立つと、おもむろにギターを手にする。

「一緒になんか歌おうか」

青年は、まだ歌い足りないんすかー、と朗らかに笑うと、ビートを刻み始める。Kawakamiがギターを搔き鳴らし、エフェクターを踏み込む。

「いくぞ!」
狂乱の残り夜は、今、二人だけのもの。

獅子が、再び笑う。
この二人の夢だけまだ叶ってなかったか、と。

朝までかけて近付いても
最後の最後にすれ違う
わたしはあなたの探し物
早くここまで迎えに来て欲しいの

菅原卓郎 作詞『Discommunication』

あの夜を通り越した、七月七日。
オレンジの月に浮かぶ、蛍の光。

……あれは白昼夢だったのか。俺は“嘘“でもない、”本当”でもなかったものを真実にしたくて、笹に願いを託した。
…世界を平和に導くくらいには俺は成し遂げたけどさ。

命の瞬き誰もが一人
それぞれの空見上げて
今も繋がっていると信じながら

高橋優『太陽と花』より

(End. “YumekawaKUMA”, Thank You!! from Yohei Kawakami.)


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